民主党はあえて自民党の土俵に乗り独自の構造改革を主張せよ
―小泉劇場の轍を踏むな(H20.9.5)
【自民党総裁選で埋没する民主党】
新聞やTVは毎日のように自民党の総裁選を詳しく報じ、民主党の代表戦は影が薄くなってしまった。これで自民党の総裁が鳴り物入りで選ばれ、新内閣が発足すれば、国民の支持率は末期の福田内閣よりは上昇するに違いない。そこで解散、総選挙に打って出るというのが、突然辞任した福田総理のシナリオであるとすれば、読みはある程度当たっているように見える。
民主党は、自民党総選挙による埋没を避けようと、「メディア対策チーム」を発足させたが、「上げ潮」か「財政再建」かという自民党の土俵(議論)には乗らず、税金の無駄遣いの解明や社会保障制度改革など、民主党が従来取り組んできた政策を訴えていく方針を確認したと伝えられる。
【小泉劇場にも似た「上げ潮」派と「財政再建」派の対立】
私はこの報道を読んで、一抹の不安を覚える。小泉内閣の「郵政解散」の時に似ているからである。
小泉総理は、郵政民営化問題を、民営化に賛成する改革派と反対する非改革派の対立劇に仕立て上げ、自民党の内部で大立ち回りを演じて見せた。この「小泉劇場」に国民はすっかり引き付けられたが、この時の岡田民主党は郵政民営化が是か非かという土俵(議論)に乗らず、税金の無駄遣いや年金の問題を地道に訴えていた。
結果は、自民党内の「小泉劇場」が総選挙そのものの中心話題となり、自民党が圧勝し、埋没した民主党は大敗した。
いま自民党は、日本経済を立て直すには「上げ潮」派が正しいか、「財政再建」派が正しいか、という政策論争を大々的に始めようとしている。「上げ潮」派は、小泉内閣以来の「構造改革」によって供給サイドから日本経済を立ち直らせ、成長率を引き上げて財政再建にもつなげようという主張である。
これに対して「財政再建」派は、小泉内閣以来の「構造改革」が行き過ぎて格差を拡大し、日本経済が停滞しているのだと見て、小泉構造改革路線の修正を主張している。
【「上げ潮」派の構造改革の内容を批判し、「財政再建」派の構造改革反対も叩け】
このように、「上げ潮」派か「財政再建」派かという対立は、小泉内閣以来の「構造改革」を更に推し進めるのか、この辺で立ち止まって修正するのか、という対立を含んでいる。
この「構造改革」を巡る対立軸は、日本の将来像を考える上で非常に大切な論点である。
民主党は、「上げ潮」か「財政再建」かという土俵(議論)には乗らないと言っているうちに、「構造改革」を進めるのか、止めるのかという大切な論争の「カヤの外」に置かれては大変である。郵政選挙で大失敗したように、今後の総選挙でも国民の関心から外れてしまう恐れがあるからだ。
民主党が採るべき態度は、「上げ潮」か「財政再建」かの土俵(議論)にあえて乗り、「上げ潮」派の「構造改革」の内容を批判し、また「財政再建」派の「構造改革」中止路線の誤りを批判することである。そして国民生活を向上させる真の「構造改革」は、民主党にしか出来ないことを訴えるべきである。
【自民党の改革は「体制を維持するための改革」、民主党は「体制そのものの改革」】
小沢代表の『日本改造計画』や『語る』を読むと、小沢代表の「構造改革」論には全くブレがない事が分かる。民主党は、小泉改革よりも古くから改革を主張してきた「元祖」構造改革派であることを、今こそ国民に訴える時である。
小泉内閣以来の自民党の「構造改革」と民主党の「構造改革」の根本的な違いは、「体制内改革」と「体制の改革」の違いである。
自民党の改革は、戦後半世紀以上続いてきた日本の体制(野口悠紀雄氏の言う「40年体制」、飯尾潤氏の言う「官僚内閣制」「省庁代表制」)を、形を変えることで存続させようという「体制内改革」である。道路、郵政、政府金融機関、年金、公務員などの制度改革は、民営化などで形を変えただけで、中身は廃止されずに続いている。
【道路、郵政、政府金融機関、年金、公務員の体制改革で自民党との違いを打ち出せ】
いま民主党が主張すべき事は、このような中身を温存したままの「体制内改革」ではなく、体制そのものを変えなければ日本は立ち直れないという「体制の改革」である。
道路は、改革後も国土交通省の思いのままに従来の計画を実施出来る体制になっているが、これを変え、高速道路の無料化を進めるなどシステムを根本的に変えることを主張すべきである。
郵貯は分割縮小、簡保は廃止して民業圧迫と金融システム不安の種を断ち、郵便と郵便局ネットワークは公共財として維持し、ワンストップの公共サービス・ステーションとして発展させるのがよい。
政府金融機関は形だけ民営化しても、財務省が指定して低利融資をする公的機能を一部残しているので、本質的には財務省の支配が続く仕組みだ。
05年の年金改革は、保険料引き上げと給付引き下げの仕組みを組み込んだだけで、各種年金の一本化や消費税による最低保障年金の導入などの抜本的改革がない。
公務員改革は、天下りを公認の斡旋機関に一本化するだけの話だ。
【政治主導型政府の具体像が見えない】
民主党が政権を取れば、現在の政府一与党二元化体制を改め、与党議員が大量に行政府に入り、政府の政策決定と与党の政策決定を一つの場で行うようにすると言っている。
「政治家は政局をする動物、政策は官僚の領域、選挙は政治家の個人的仕事」と言うのは、飯尾潤氏が戦後の体制を指して述べた言葉だ。
そうではなくて、「政治家が政策を決め、政局は政策対決の選挙で決まる」体制にしなければならない。そのためには、省庁における戦略決定機構と行政実施機構を分け、戦略決定機構に政治家が入り込み、官僚の専門性は行政実施機構で発揮するシステムが望ましい。
民主党はそこ迄踏み込んで、体制そのものを変える「構造改革」を打ち出し、自民党の「構造改革」と対決することが出来れば、決して自民党の総裁選挙とそれに続く総選挙で、「埋没」することはないであろう。