小沢民主代表辞任劇の意味を考える(H19.11.7)
【これ迄の民主党は政策協議を拒絶する対決姿勢で来た】
民主党の小沢代表は、11月4日(日)に辞任を表明したが、党内挙げての慰留に応え、本日(11月7日)辞意を撤回した。この辞任劇の真相と、政治的意味を考えてみたい。
去る7月の参院選に大勝したあと、民主党は参院の多数を背景に政府・自民党と対決し、衆院を解散・総選挙に追い込み、衆院でも野党が多数を制して政権交替を実現することを基本戦略として動いているように見えていた。
このため、政府・与党との政策協議を一切拒否し、国会の場で徹底的に対決し、民主党の対決法案を政府・与党が「丸呑み」しない限り、政府・与党の法案を参院で否決し、可能な限り潰す構えでいた。そのような中で、チャンスがあれば参院で大臣や、あわよくば総理の「問責決議案」を可決し、衆院の解散・総選挙を勝ち取る戦術に見えた。
少なくとも民主党の議員の大半は、それが民主党の戦略・戦術と考えていたし、山岡国対委員長の言動もそう見えた。
【小沢代表の胸の内にある二つの心配】
このため、小沢代表が福田総理との会談から「政策協議・連立」の提案を持ち帰った時、民主党の役員会は全員が反対した。また若い議員の中には、小沢代表が会談の場で即座に拒絶せず、提案を持ち帰ったことに怪訝の念を抱いたのである。
しかし、小沢代表の胸の内では、ほとんどの民主党議員に気付かれないまま、まったく違う戦略・戦術が暖められ、膨らんで行ったと考えられる。
民主党の議員、とくに若い議員は参院の大勝で高揚し、このまま衆院選でも簡単に勝利し、政権が取れるという浮かれた気分になっていたのではないか。しかし、小沢代表の見方は二つの点で違っていたようだ。
第一に、日常の政治活動や地域との結び付きが物を言う300の小選挙区では、自民党の地盤は強く、民主党候補は死に物狂いで戦わないと、多数を得るのに必要な3分の2を制することは出来ない。党全体が結束してそういう体制を整えつつあるのか。
第二に、幸い政権を取ったとしても、経験不足の今の民主党議員に、マニフェストで国民に約束した大きな改革を実行する政権担当能力があるのか。
【小沢代表の頭にあったのは「大連立」ではない】
小沢代表が記者会見で言い放ったとされている「民主党の政権担当能力がいま一歩」「総選挙での勝利は厳しい」は、小沢代表の正直な心配を表しているのかも知れないと思う。
しかし、だからと言って小沢代表が、自民党と「大連立」を組んで大政翼替会のような一党体制を考えていた筈はない。「政権交替可能な二大政党制にしなければ、日本の議会制民主主義は真の民主主義にはならない」「万年与党体制こそが諸悪の根源」という信念が、自民党を離党して以来十数年間の小沢代表を突き動かしてきた行動原理だからだ。
また小沢代表は、かつて自民党と「大連立」を組んだ日本社会党が衰退し、自由党が消滅し、いま又公明党が危機に立っていることを、充分に承知している筈だ。
【部分連合で民主党の責任政党としての政策実行力を示したかった】
小沢代表が考えていたことは、「大連立」ではない。参院選のマニフェストで国民に約束し、勝利した政策、例えば年金、子育て支援、農業の戸別所得補償などや、自衛隊海外派遣の基本法などについて、自民党と協議し、それらの政策に限って期限を区切って「部分連合」を組もうという構想だ。とくに小沢代表 の年来の主張である国連中心主義を、自衛隊の海外派遣基本法(恒久法)として、福田自民党と共に実現することに、国士小沢の心が燃えたのではないか。これには、若手の前原議員も心を動かされた筈だ。そのために、所管大臣を民主党から期限を区切って送り込む所まで、あるいは踏み込んで考えていたかも知れない。
その狙いは、民主党の政策実現力を国民にアピールし、同時に民主党議員の政権担当能力を鍛えることによって、来るべき総選挙と政権交替に備えようという事であったに違いない。
何でも反対の野党ではなく、政権交替の受け皿になり得る野党、日本の将来を心から憂うる民主党に育てたい、という思いであったろう。
その上で、総選挙では部分連合を解消し、政権奪取を目指して戦おうと考えていたのではないか。同じ考えを進言した山口二郎教授に対し、小沢代表が礼状を書いたという新聞報道があったが、これも小沢代表の考え方を裏付けているように思う。
【自民党側は「大連立」を画策した】
今回の辞任劇には、もう一つの筋立てが民主党の外で動いており、これが話を混乱させている。
中曽根・ナベツネの両巨頭が恐らく司令塔ではないかと思うが、森嘉朗・中川秀直などの議員が動き、自民党内を根回しし、福田総理に「大連立」を目指す党首会談を行うよう促す動きがあったようだ。
その過程で、小沢代表に接触し、政策協議のための党首会談を打診する動きもあったようだ。
この動きの動機は、まったく小沢代表とは関係ない。ネジレ国会となって政府与党の法案が思うように通らない現状を打開するために、野党第一党の民主党に「大連立」を持ちかけたものだ。そのお先棒をかついだのが、ナベツネ直筆の8月16日付読売新聞の社説“自民・民主大連立政策構想”だ。小沢代表が考えていた「部分連合」とは、まったく動機が違うが、一見粉らわしい。
そこを利用して、「小沢代表が大連立を持ちかけた」といったデマを読売新聞などが流し、小沢代表の失脚、あるいは民主党の分断、混乱を図るワナが仕掛けられたのである。
【民主党は総力を挙げて総選挙で勝つ以外に道はない】
さて、民主党内の結束した支持表明によって小沢代表は辞意を撤回したが、こうなると、小沢代表が胸の内で暖めて来た「部分連合」構想も挫折したと見るべきであろう。
民主党は衆院選の体制を強化し、政権交替を目指して突き進む以外に道はなくなった。小沢代表も、二つの心配を解消するような「死に物狂い」の努力を払うことになるのであろう。
ドブ板選挙の経験が薄い民主党候補も、今回こそは地元密着の運動を強化しなければならない。「風まかせ」の選挙は、もう許されない。
国会では再び与野党の対決姿勢が強まるのであろう。その中で、政府・与党と民主党のどちらが、国民のための法案を通す真面目な努力を払っているかが、選挙民の注目の的となるであろう。