「年金改革」の小泉自民党案と民主党案を比較する(H17.8.19)
─総選挙の争点[その2] ─
【保険料引上げ・給付引下げで収支改善を図る小泉自民党案】
今回の総選挙の大きな争点は、前回と同様、「年金改革」である。
小泉政権は、昨年年金法案を改正し、これで年金制度は十分に持続出来ると主張している。この改正年金制度(以下「小泉自民党案」)と、今回総選挙の「マニフェスト」に書かれた民主党案を比較してみよう。
小泉自民党案では、2017年度まで、毎年保険料を引上げ(上限18.3%)、新規に受取りを開始する人への給付水準を引下げ、年金財政の収支を改善することにしている。また基礎年金の国庫負担を現在の3分の1から2分の1へ引上げるため、所得税の定率減税を本年度と来年度に半分ずつ削減し、最終的に廃止して財源にあてることにしている。
この限りでは、年金財政の維持可能性は改善されたかに見える。
【世代間不公平が拡大したままの小泉自民党案】
しかし、保険料を引上げ、新規開始の給付水準を引上げるのであるから、現在年金を受け取っていない若い世代は、生涯に支払う保険料総額は増え、生涯に受け取る年金受給額は減る。このため、若い世代にとって、生涯を通じた保険料の支払い額は、今でも生涯を通じた年金の受給額を上回っているのに、その支払い超過額は更に大きくなる。
これに対して、既に保険料の支払いを終わり、年金を受け取っている世代は、生涯を通じて年金は受取超過のままである。
この結果、年金の世代間格差は極めて大きいという不公平が残っている。
【小泉自民党案では未納者増加で制度が破綻する可能性】
この世代間格差の不公平を知っている若い世代は、当然のことながら、年金保険料の支払いに意欲を失う。現在、年金制度、とくに基礎年金だけの国民年金制度では、年金未納の人員と額が増加し、制度は破綻の危機に瀕している。しかし、昨年の小泉自民党の年金改正では、この問題をまったく解決していない。
従って、小泉自民党案において、年金収支の改善で年金制度の維持可能性が高まったように見えるのは、実は見かけだけで、世代間不公平を嫌って未納者が増えることにより、年金制度、とくに国民年金制度が破綻する可能性は依然として残っている。
【「基礎年金」を廃止し「最低保証年金」を新設する民主党案】
次に民主党案では、保険料(15%)と給付は原則として据置く。その上で、「基礎年金」を「最低保障年金」に改め、年金目的消費税3%を導入して賄う。
民主党案は、国民年金(基礎年金のみ)、厚生年金、共済年金を一元化して所得比例年金とし、その上で、所得水準が低いために所得比例年金が一定の水準に達しない人に対してのみ、「基礎年金」に代えて「最低保障年金」を給付する。
このため、「最低保障年金」の総額は、現在の「基礎年金」の総額より小さく、財政的に賄いやすい。
【生涯年金が生涯保険料を下回らない「みなし掛金制度」の民主党案】
所得比例年金に一元化した国民年金、厚生年金、共済年金では、これ迄に払い込んだ保険料によって、将来いくらの年金を受取る権利が発生しているかを常に知ることが出来る「みなし掛金制度」を導入し、将来不安を取除いて年金加入意欲が高まるようにする。
また、どの世代についても、平均して、生涯に払込む保険料が生涯に受取る年金を下回らないようにする。これは年金目的消費税の導入と年金積立金の取崩しによって可能になる。
【年金制度の維持可能性と公平性は民主党案の方が高い】
民主党案では、小泉自民党案のように保険料引上げ・給付引下げとそれに伴う若年層の生涯支払い超過の拡大がなく、年金財政収支の改善は、年金目的消費税の導入と基礎年金から最低保障年金への切替えに頼っている。このため、年金財政収支の改善による年金制度の維持可能性という点では、民主党案と小泉自民党案に大きな違いはない。
しかし、民主党案では世代間不公平が縮小しているうえ、「最低保障年金」を年金目的消費税で賄うので、国民年金制度の未納拡大による破綻の危機が解決されている。その点で、年金制度の維持可能性は民主党案の方が高い。
また民主党案は、国民、厚生、共済の三つの年金制度を一元化する点で、小泉自民党案よりも公平である。
国民は年金制度の維持可能性と公平性という二つの視点をよく認識して、小泉自民党か民主党かの政権選択選挙にのぞんで欲しい。