「郵政改革」の小泉自民党案と民主党案を比較する(H17.8.15)
─総選挙の争点[その1] ─
【2大政党下の政権選択選挙の筈だが】
今回の総選挙は、小泉自公連立政権を存続させるか、あるいは民主党を中心とする新しい政権を作るか、二つに一つの選択をする選挙である。自民党反小泉派、公明党、共産党、社民党のいずれかを中心とする政権はあり得ないからだ。その意味で、二大政党下の政権選択の選挙である。
従って、小泉内閣4年間の内政外交の成果と、民主党の政権構想を対比し、国民がどちらを選ぶか判断すべき選挙であるが、今のところ、郵政民営化の可否に議論が集中している。あと4週間、このように矮小化された議論に終始し、政権選択が行われるとは思われない。しかし小泉内閣の実績と民主党の構想を対比して国家戦略を考えるのは次の機会に譲り、取り敢えず今回は、小泉自民党と民主党の「郵政改革」案のポイントだけを対比してみよう。
【「郵政改革の理由」、小泉自民党と民主党の共通点と相違点】
小泉自民党と民主党は、いずれも「郵政改革」の必要性を認めているが、その共通の理由は次の2点である。@郵貯と簡保が肥大化し、民間の預金取扱い金融機関と生命保険会社の業務を圧迫している(いわゆる「官業の民業圧迫」)、A郵貯と簡保の資金が特殊法人などに流れ、無駄な財政投融資に使われている。
他方、小泉自民党と民主党の間で改革の理由が違っているのは、B小泉自民党は郵便事業も民業(宅急便など)を圧迫している官業と考えているのに対し、民主党は郵便のユニバーサル・サービス(全国一律同一料金)と郵便局のネットワークは、国民にとって大切な公共的サービスと社会資本であり、官業のままでよいと考えている点だ。
【郵貯・簡保は「民営化」か「縮小」か】
さて、@〜Bについて、小泉自民党の郵政民営化法案と民主党の構想はそれぞれどのような対策を主張しているのであろうか。
まず@とAについて。小泉自民党は、郵便貯金会社と郵便保険会社を作り、その株式を民間に売却して「民営化」すればよいと考えている。
これに対して民主党は、郵便貯金の預け入れ限度額を現行の1千万円から7百万円、更に5百万円迄引下げ、郵貯を「縮小」すればよいと考えている。現在210兆円の郵便貯金残高を約100兆円縮小させる構想である。
さて、どちらの方が@「官業の民業圧迫」を緩げ、またA無駄な財政投融資への資金の流れを抑えるであろうか。
【「官業の民業圧迫」は自民党案ではそのまま、民主党案では縮小】
自民党案では、巨大な郵便貯金会社と郵便保険会社が民間に参入し、既存の民業をこれ迄以上に「自由に」圧迫するのではないか。また運用に不慣れな郵便貯金会社と郵便保険会社に、欧米の巨大金融機関が接近し、340兆円の運用を引受けようとするのではないか。更に、民営化によって郵政公社の職員が国家公務員でなくなっても、もともとこれらの職員の人件費は公社で賄われ、政府の財政資金(税金)は使われていないので、財政赤字縮小につながらず、財政的に小さな政府を目指すことにはならないのではないか。
これに対して民主党案では、少なくとも100兆円の民業圧迫はなくなる。
@「官業の民業圧迫」を緩げ、民間市場経済の発展を促すという「改革の理念」から言うと、民主党案の方が小泉自民党案より合理的ではないのか。
【財投への資金の流れは小泉自民党案ではそのまま、民主党案では縮小】
また、A「無駄な資金が財政投融資に流れないようにする」という点はどうか。
かつての財政投融資資金は、郵貯・簡保・年金の資金が自動的に「資金運用部資金」に流れ込み、財政投融資の原資となった。しかし資金運用部の廃止によってこの制度は無くなり、現在は財投債と財投機関債という一種の国債によって、財政投融資の原資が調達されている。
従って、小泉自民党案では、巨大な郵便貯金会社と郵便保険会社が、民営化以前と同じように国債を買い続けることになるので、財政投融資への資金の流れは細くはならない。
しかし民主党案では、少なくとも100兆円の国債購入(丁度現在の郵政公社の購入額に相当)は、郵貯の規模の縮小に伴ってカット出来る。Aの無駄な財政投融資への資金の流れは、その限りで抑えられる。
【郵便事業と郵便局網は民営化になじまない「公共財」】
最後にBの郵便事業についてはどうか。郵便事業会社と窓口会社も民営化される小泉自民党案では、郵便事業も郵便局の配置もコマーシャル・ベースで経営判断されることになるので、郵便のユニバーサル・サービスや山間僻地の郵便局網の維持は、原理的に不可能な筈である。
そこで、民営化に伴う株式売却代金(本来は国民に属するお金)で2兆円の基金を作るといった修正が民営化法案で行われたが、原理的に不可能なことを維持するには、2兆円では済まず、限りなく税金を注ぎ込むことになるのではないか。
この点民主党案は、郵便事業と郵便局網は現行の郵政公社のままで行くので、問題はない。
そもそも郵政3事業のうち郵便事業は公共的サービスであり、それを支える郵便局網は社会的インフラである。これは民間市場経済のコマーシャル・ベースでは「市場の失敗」が起きる「公共財」であり、民営化すべきサービスや施設ではない。残る政策課題は、現在、国家独占事業である郵便事業への民間参入をどのような形で認めるべきかという政策論だ。
何でも「民営化」すれば「改革」だと考えている小泉改革の致命的欠陥が、「郵政民営化」に現れているのではないだろうか。始めに述べた「郵政改革」の理由@〜Aに立ち帰って、国民は小泉自民党案か民主党案かよく考えてみるべきであろう。