外から見た2004年の民主党(H16.12.22)


─「小沢幹事長」待望論─

【年金問題の処理を誤った旧執行部】
   代議士を辞めて1年、2004年の民主党を1年間外から見る機会を得た。この1年間の民主党が、外の目にどう映ったか、率直に評論してみよう。
   前年11月の総選挙で民由合併効果をフルに活かして躍進し、2大政党制の流れを決定的にした民主党は、その実績を踏まえ、2004年7月の参院選で自民党に勝利することが、まず最大の目標であった。
   通常国会で予算案が衆議院を通過したあと、最重要法案として年金改革法案の審議が始まった時、執行部(菅代表、岡田幹事長、枝野政審会長、野田国対委員長)とそれを支える若手の側近の人々は、二つの大きなミスを犯したようにみえる。
   第1は、自民、公明との「三党合意」によって、年金問題を三党共通の協議課題とし、参院選の争点から外そうとしたことだ。
   第2は、国会議員の年金未加入問題に対する国民感情を読み切れず、大切な瞬間に菅代表の外遊を止めず、帰国後窮地に追い込まれた菅代表が辞任したことだ。

【年金問題を参院選の争点にするために小沢さんは代表を降りた】
   この失敗の連帯責任を負っている執行部は、執行部の中から菅代表の後任を選ぶ訳には行かず、小沢さんに後任代表を頼んだ。岡田幹事長を中心とするこの決断は、外から見ていても分かり易く、立派にみえた。
   一度就任に内諾を与えた小沢さんは、自らも年金未加入時期があることを知り、代表就任を辞退し、岡田幹事長に代表を託し、後任の幹事長に藤井さんを送り込んだ。
   小泉さんを始め、政府と自民党の中には年金未加入時期のある大臣や執行部役員が大勢居るにも拘らず、辞任したのは福田官房長官1人である。他は居座るか、年金未加入時期の有無を隠し続けた。
   それなのに小沢さんが代表就任を辞退し、岡田幹事長に代表を託したのは、参院選で年金問題を最大の争点にして戦おうという小沢さんの選挙戦略によるものだと思う。

【参院選勝利の主因は年金を争点とした小沢戦略にある】
   これは外から見ていても分かり易かったし、事実、参院選における国民の関心は年金問題であった。年金未加入問題をあいまいにした自民党は批判され、民主党は参院選で自民党を上回る大躍進をとげたのである。参院選を戦った民主党の人達は、年金問題を争点にしたために勝てたという事を実感した筈だ。
   しかし、選挙後の岡田代表は、参院選の勝利は岡田代表以下の新執行部を国民が信認した証拠だと述べ、自分を含む執行部の続投を宣言した。外から見ていると、岡田元幹事長にも責任のある「三党合意」をつぶして、年金問題を中心とする選挙にのぞんだのは、小沢さんや藤井さんのリーダーシップによる。この2人とは、相談したのであろうか、と気になった。
   大丈夫かなと思って見ていたところ、案の定、藤井幹事長が続投を辞退した。

【小沢さんに総選挙を仕切ってもらうには「幹事長」が最適】
   外から見ていても分かるのに、岡田代表は藤井辞退の意味が読めなかったのであろうか。参院選で信任された執行部は続投すべきだという自論に固執し、国対委員長代理→国対委員長→幹事長→代表代行、という執行部内部の順送り人事で事を収めた。
   この時、もし仮に岡田代表が事前に小沢さんに相談すれば、小沢さんは岡田代表に続投をすすめたと思う。そして岡田代表に頼まれれば、自らが来るべき総選挙に備えて、藤井さんに代る幹事長になったかも知れないと思う。小沢さんは自分の「格」などにはこだわらず、政治の「結果」を出すことを最優先に判断する人である。
   岡田代表も参院選を大勝利に導いた小沢さんの実力は分かっているので、無役の小沢さんに選挙対策委員長の話を持って行った。しかし、総選挙の指揮は、人事を含め、代表と幹事長の仕事である。小沢さんは、規約を変えて選挙を指揮する権限を代表と幹事長から小沢選対委員長に移すことでもしない限り、引受ける訳には行かないと答えた。
   ここに至っても、岡田代表は「小沢幹事長」というコロンブスの玉子に気が付かなかったのであろうか。結局、小沢さんには大勢居る副代表の1人となることをお願いし、これ以上内輪もめの印象を国民に与えてはまずいと判断した小沢さんは、藤井代表代行よりも格下のこのポストを受けた。これで小沢さんの力を総選挙で存分に発揮してもらう道は取敢えずふさがった。

【鳩山代表、岡田代表代行、小沢幹事長は一つの案】
   この執行部体制は、政権を取りに行くための万全の布陣とは見えない。外からそう見えないのであるから、中に居る人は一層そう思っていないのではないか。そうだとすると、2006年9月の代表選挙が、政権取りの布陣を敷く大切な選挙になるであろう。
   小沢さんは、自分が代表になり、選挙に勝って総理大臣になりたいとは、必ずしも思っていない。そう思っているのは、一部の側近だけだ。小沢さん自身は、自分が総選挙を仕切って非自民脱官僚政権を樹立することに、政治家としての残りの命をかけているのではないかと思う。誰か総理にふさわしい人を代表にして、「小沢幹事長」が支える構図だ。
   誰がふさわしいか。岡田、鳩山のうちのどちらか、若い人達か。年金問題でミスを犯し、菅さんを窮地に追い込んだ若い人達は、もう少し経験を積んで、将来を期した方が良いのではないか。自民党寄りの安全保障論を口にするなど、個別政策についても、もう少し深い勉強と経験を積んだ方が大成するのではないかと思われる人も居る。
   もっとも、政治は一寸先が闇だから、何が起きるか分からない。何かの理由で代表の座が若手の誰かにころがり込んだ時は、小沢さんに上手に乗って天下を取って欲しい。
   そうでない場合は、続投する岡田代表か、鳩山代表、岡田代表代行かのトップを小沢幹事長が支え、若い人達がそれぞれの専門分野に従って確り脇を固めるのが、一番強力な布陣ではないか。鳩山さんは民由合併に道をつけた功労者であり、いろいろ批判はあるが党内の人望は高い。豪腕の小沢幹事長と組めば、指導力のあるトップになるのではないか。岡田さんはビジョンがないのが欠点だが、党内の信認が高まれば、勿論続投してよい。

【当面はいまの執行部体制で脱官僚政権を担う実力をつけよ】
   いずれにせよ、誰を代表にして総選挙を戦うのがよいかは、同じ2006年秋の自民党の小泉後を見なければ判断できない事だ。あるいはその前に、自民党内政変が起これば、その時に判断すればよい。
   当面は、いまの執行部体制のまま、「脱官僚」政権担当能力をつけ、国民にそれを認めてもらう事が大切である。
   民主党は個別政策については若い議員にも責任を持たせて研究させるので、多くの議員は張り切って勉強している。しかし、1人が考えた個別政策が、十分な党内討議や党外専門家との討議を経ずに党の政策となる嫌いがある。執行部は、それが民主党の全体ビジョンと整合的かどうかを考えるよりも、党内融和を最優先にバランスを取ることに努めているように見える。
   このため、個別政策にはいろいろ面白い意見はあるが、それを束ねるビジョン、日本をどこへ持って行くのか、日本経済をどういう姿に改革するのか、が見えない。
   政治的な強い意思に裏付けられたビジョンが無ければ、面白い個別政策の着想があっても、個別政策の専門家集団である官僚にはかなわない。脱官僚政権どころか、自民党政権と同じ官僚主導政権になり、政府と党の内部の意見がバラバラになるのが落ちであろう。

【ある有力財界人の民主党に対する直言】
   民主党のビジョンを議員が共有し、それと整合的な個別政策を練り上げるには、議員と外部の専門家から成るプロジェクト・チームをいくつか作り、この1〜2年間じっくり検討することが大切であろう。
   私の親しいある有力財界人の1人が、先日こう語った。
   「民主党の人が会社に政治献金をもらいに来たけれど、万年与党自民党の目がこわいので、ごく一部の会社以外は金を出さない。民主党は一体自分の置かれている立場を何と考えているのか。甘えるんじゃない。
   民主党は"日本をよくする政策を考えるために、こういうシンクタンクを創るので、ついては金が要る"と言って、会社ではなく、経営者個人と業界に政治献金を求めたらよい。民主党の政策作りを支援し、育てたいと思っている財界人は、個人としては大勢居る。業界も立場上、自民党ベッタリとはいかないので、少しは出すだろう。そこをもっとよく考えたらよい。
   お金を欲しがるのが先ではなく、高い志に裏付けられた政策研究構想が先になければだめだ。そうすればお金はついて来る。」