平成9年4月3日「外国為替及び外国貿易管理法の一部を改正する法律案」
に対する代表質問

只今趣旨説明のありました「外国為替及び外国貿易管理法の一部を改正する法律案」似つきました、新進党を代表し、総理並びに大蔵大臣に質問致します。
現行の「外国為替及び外国貿易管理法」、以下「外為法」と略させて戴きますが、この「外為法」は1980年に、原則自由、例外規制に改正され、当時としては画期的な為替管理自由化が実現いたしました。しかし、その後十七年の間に、世界の金融経済情勢は大きく変化致しました。もともと米国は為替管理が自由化されておりましたが欧州諸国においても、EUの市場統合を実現し、更に通貨の統一を目指すため、為替管理が撤廃されたのであります。そのため我が国の例外規制は、今となっては欧米先進国の中で、最も遅れた為替管理として、取り残されてしまいました。
為替管理の撤廃と、エレクトロニクスの技術を駆使した金融・資本市場の統合、すなわち金融のグローバル化は大きく進んでいます。そしてグローバル化した世界の市場では、金融商品の証券化と先物、スワップ、オプションなどの金融技術革新を駆使した各種の派生商品、いわゆるデリバティブスが発達し、激しい競争が展開されております。国際金融センターを抱える各国は、商品開発や業務分野の規制撤廃によって、そうした金融の証券化や派生商品の発達が容易な金融・資本市場を用意し、いわば国際的に商売を奪い合うような市場間競争を展開し、自国の金融サービス産業の発展を援け、自国市場を国際金融センターとして発展させているのであります。
このような世界の潮流の中にあって、一人取り残されているのが、日本の金融サービス産業であり、金融・資本市場なのであります。現行外為法の下では日本市場への参入退出はは不自由であり、規制が多く、税制も不利に働くため、金融空洞化という言葉が示す通り、日本市場のシェアは世界の中でも今や低下の一途をたどっています。
この度の外為法の改正は、このような我が国の金融空洞化を阻止し、日本市場を、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ三大国際金融センターの一つとして蘇らせるために、欠く事のできない対策の一つであり、むしろ遅きに失したというべきでありましょう。新進党といたしましては、格別異議を唱えるものではありません。
問題は、ここに提出された改正案に内在する不明確な点と、改正実施の金融・資本市場および金融システムに対するインパクトにあります。

順序として、まず法案に内在する問題点について、三点お伺い致します。
第一は、この外為法改正によって、我が国金融政策の有効性が低下するのではないか、という懸念であります。改正案が実施されますと、日本の企業は海外に外貨建ての決済口座を持ち、日本国内の商取引の決済を、外国にある外貨建決済口座の振替で行うことが出来ます。従って、将来国内物価安定のために日本国内で金融引き締めが実施され、国内のマネーサプライ抑制と金利上昇が生じた時、企業は海外で外貨建の決済口座に入れ、その口座振替で日本国内の商取引を自由に決済出来ますので、日本の金融引き締め政策の抜け穴となります。外貨建決済口座は為替変動リスクに晒さらされているとはいえ、新しい金融技術によってリスクを回避する途は沢山ありますから、このような事態は十分に起こり得ます。経済運営の基本に係わる問題ですので、総理の見解をお伺い致します。
第二は、統計作成や市場動向把握のため、自由化後も内外資本取引等の事後報告制度を整備する事となっておりますが、その具体的な内容は政・省令で定めることとされ、この法案には示されておりません。しかし、もしこの事後報告制度が詳細を極め、煩瑣なものとなりますと、せっかくの自由化された金融・資本取引のコストが高まり、取引が忌避されますので自由化の実が挙がりません。このように法律の実効性を左右するような制度創設を政・省令に任せることに私は大きな疑問を感じます。大蔵大臣、少なくとも法案上程のこの時点で、その制度を明らかにすべきではないでしょうか。
第三に、同様の疑問が税制にもあります。法改正に伴い、日本の企業や個人は外国に円建、外貨建の預金等を自由に持つことが出来ますが、米国やドイツなどでは、非居住者の受取利息等を、どのような形で捕捉して課税するのでしょうか。これもあまり煩瑣な報告を求めますと、取引コストを高め、自由化の効果を台無しにしてしまいます。大蔵大臣の見解をお伺い致します。
以上三点のうち、第一点は我が国経済運営の根幹に係わる問題であり、第二、第三点は法改正の実効性を左右するものとして、いま日本企業が深い関心を持って見守っています。総理ならびに大蔵大臣の明確な答弁をお願い致します。

次に、外為法改正の我が国国内市場ならびに国内金融システムに対する影響について、同じく三点質問させて頂きます。
第一は、国内との規制との関係であります。我が国の金融自由化は近年かなり進んできたとはいえ、欧米先進国に較べればなお多くの点で遅れております。諸外国の政府にとって、恰好の保有対象である政府短期証券の金利は、未だに金高水準以下に固定され、その市場は殆ど形成されず、購入は困難であります。株式売買の委託手数料を始め、多くの金融サービスの手数料も殆ど自由化されておりません。有価証券の限定列挙主義や過度の取引集中原則などに妨げられ、店頭金融商品の開発は大きく制約されています。
銀行、証券、保険などの業務規制緩和も遅々としています。
去る三月二十八日に再改正された規制緩和推進計画を拝見致しますと、金融関係では早くても本年六月、多くは本年度中に結論を出すとされています。しかし、只今申し上げました諸規制の緩和・撤退は、どうするかの結論を出すのではなく、実行の段階であり、明年四月の外為法改正の実施に間に合うかどうかが問題であります。間に合わなければ、日本の不自由な規制を逃れて個人や企業の金融・資本取引が海外にシフトし、海外の金融機関は日本に参入せず、日本の金融空洞化を防ぐ筈の外為法改正が、かえって日本の金融空洞化を促進する結果となります。
総理ならびに大蔵大臣は、先程申し上げた諸規制の緩和、撤退を、外為法改正の実施に間に合わせるお積もりがあるのかどうか、具体的にお答を戴きたいと思います。
第二に税制についても同じ問題があります。ニュウーヨク、ロンドンにおける日本株の売買には有価証券取引税はかかりませんし、シンガポールでの日本株先物取引には取引所税は存在しません。非居住者の受取利息等に対する源泉課税も、先に述べたようにほとんどの国で免除されています。総理並びに大蔵大臣は、日本にしか存在しないこれらの税制を明年四月までにどうされるお積もりですか。仮に、有価証券取引税を廃止するとした場合、キャピタル・ゲインを把握するための、納税者番号制度を導入されるのでしょうか。
我が国税制の国際標準を実現することなく外為法の改正を実施いたしますと、この面からも日本の金融空洞化を促進する恐れが十分にありますので、総理ならびに大蔵大臣の明確なご答弁をお願いいたします。

第三に、為替管理の完全撤廃と金融の自由化は、預金取扱い金融機関を含む各種金融機関の競争を促進し、その優勝劣敗を強めます。その事自体は、日本の金融・資本市場と金融システムの発展、ひいては日本経済全体の効率化に寄与するものであります。しかし、競争に敗れた金融機関の破綻は、一つ間違えれば金融システム全体の動揺につながります。
特に現在のように巨額の不良債権が存在し、今話題となっている複数の大銀行を始めとする少なからぬ数の金融機関の経営が悪化していることを考えますと、このまま外為法の改正と金融の自由化に突き進んでも大丈夫なのか、その前に処理すべき事があるのではないか、と感じるのは私一人ではないと思います。
イギリスは金融ビックバンを実施する以前の一九八〇年から直接減税と国営企業の民営化を進め、サプライサイドから民間市場経済を活性化し、成長率が充分に加速した一九八六年にビックバンに踏み切りました。アメリカも一九八〇年代末以降、総額二十兆円にも及ぶ公的資金を投入して、貯蓄貸付組合中心とする不良債権の処理を了え、マクロ経済の回復が始まった九二年十二月から早期是正措置を導入しました。
総理、信用組合や銀行を含む不良債権処理の抜本的スキームも確立せず、九兆円の国民資産増加によって成長率を再び一%台に落ち込ませた上で、明年四月から外為法の改正、金融の自由化、早期是正措置などをスタートさせて、日本の金融システムは本当に大丈夫でしょうか。明年四月までに、金融三法の域を越えた、もっと一般的な金融システムのセイフティ・ネットを張り直す必要があるのではないでしょうか。
以上、外為法改正の国内市場と国内システムに対するインパクトについて三点お尋ね致しました。外為法の改正が、その意図とは逆に、日本の金融空洞化を促進し、あるいは金融システムの不安定化を招かないかという重大な懸念に関し、国民を安心させることが出来るような明解な答弁を総理ならびに大蔵大臣に求め、私の質問を終わります。