2025年9月版
4〜6月期に続き7〜9月期も緩やかなに回復、トランプ関税の本格的な悪影響は10〜12月期以降か

【4〜6月期の年率2.2%成長に続き、7〜9月期も内需中心に回復持続】
 内外需に支えられて、4〜6月期に年率2.2%の成長を遂げた日本経済は、7〜9月期にも内需を中心に回復を続けている(図表3)。
 7〜9月期の「法人企業景気予測調査」では、大企業全産業の「国内業況判断」BSIが、前回4〜6月期調査では4〜6月期△6.2、7〜9月期△1.1の下降傾向にあったものが、今回調査では7〜9月期1.5、10〜12月期1.2、1〜3月期2.1の上昇傾向に修正された。
 「景気動向調査」の「景気動向一致指数」は、トランプ関税実施に伴う輸出、生産などの落ち込みから、4月と5月に低下したが、6月には上昇した。「先行指数」は5月から7月まで3か月連続して上昇している。一方8月の「景気ウォッチャー調査」の「現状判断DI」と「先行き判断DI」は、4月にやや大きく低下したあと、5月から8月まで4か月連続して上昇している。
 トランプ関税の影響が当初予想した程大きくないと見た景況感の上方修正が起こっているが、7月の輸出には既に悪影響が出始めている。国内の設備投資や世界の多角的貿易、ひいては日本の輸出への影響が本格的に出てくるのはこれからであり、今後も注意深くトランプ関税の影響を見ていかなければならない。

【鉱工業生産、出荷は引き続き一高一低の動き】
 7月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−1.6%、−2.5%といずれも減少した(図表1)。出荷の内訳を見ると、国内向け(前月比−2.6%)と輸出(同−1.5%)の双方で減少している。生産、出荷の落ち込みが大きい業種は、トランプ関税の影響を受けている自動車と設備投資関連の生産用機械、汎用・業務用機械などである。
 製造工業生産予測調査によると、8月は前月比+2.8%の上昇、9月は同−0.3%の低下となっており、仮に鉱工業生産がこの通りになると仮定すると、7〜9月期は前期比+1.4%の増加となる(図表1)。しかし鉱工業生産の実績は製造工業生産予測調査よりも低くなる傾向があるので、実績はもう少し弱く、引き続き一高一低の推移が続くと見られる。

【猛暑の下、民間消費は飲食料品の伸びを中心に増加、実質賃金の前年比はボーナス月とあって7か月振りにプラス】
 国内民間需要の動向を見ると、まず個人消費については4〜6月期の実質民間消費がGDP統計の2次速報により、前期比0.0%から同+0.4%にやや大きく上方修正された。これに伴い、4〜6月期の成長率も、前期比+0.3%(年率+1.0%)から同+0.5%(同+2.2%)に上方修正された(図表3)。早めの暑さ到来に伴う飲食店の売上増加(「サービス産業動態統計調査」の4〜6月期飲食店売上高は前年比+7.7%増)によるものと見られる。
 7月の「家計調査」の実質消費支出(季調済み、以下同じ)は前月比+1.7%の増加なったが、前月に−5.2%と大きく低下したあとなので、水準としては5月よりも低い。7月の「消費活動指数」(日銀推計)は、前月増加のあと低下し、横這い圏内の動きをしている(図表2)。2つの指標は区々であるが、8月の「消費動向調査」によると、7月に低下した「消費者態度指数」は、8月に再び上昇した。酷暑が続く下で、個人消費は清涼飲食品を中心に底堅く推移している模様である。雇用者は7月まで4か月続けてジリジリと増加を続けており、7月の完全失業率は5か月横這いのあと2、3%(前月比−0.2%ポイント)と更に低下した(図表2)。
 人手不足を背景に、7月の名目賃金は、ボーナス月もあって前年比+4.1%の上昇となり、3%台の消費者物価上昇が続く下で、実質賃金は前年比+0.5%と7か月振りに増加した(図表2)。

【設備投資は増加しているが、このところ増勢は鈍化傾向】
 設備投資の動向を見ると、4〜6月期実質GDP統計(季調済み)の設備投資は、5四半期連続して増加しているものの、2次速報値では前期比+1.3%増加から+0.6%増加に下方修正された(図表3)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4〜6月期に前期比+0.4%と小幅ながら3四半期連続して増加した(図表2)。しかし7〜9月期の見通しは、前期比−4.0%と4四半期振りの減少が予測されている。
 7月の鉱工業統計における資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月大幅増加(6月の前月比+7.5%)の反動もあって、前月比−10.0%とやや大幅の減少となった。
 7〜9月期の「法人企業景気予測調査」の本年度設備投資計画(ソフトウェア投資を含み、土地購入を除く)は、前年比+6.8%の増加と比較的高い伸びを維持しているが、4〜6月調査の+7.3%からは若干下方修正された。

【トランプ関税に伴う対米自動車輸出の減少を中心に、7月の貿易・サービス収支は大幅に悪化】
 7月の国際収支統計(季調済み)によると、GDP統計の「純輸出」に対応する「貿易・サービス収支」は、7289億円の大幅赤字となった(図表2)。これは、対米自動車輸出を中心に、輸出総額が前月比2856億円(−3.2%)減少し、貿易収支が前月の1209億円の黒字から2782億円の赤字に変わり、差し引き3991億円の大幅悪化となったためである。
 季節調整前の表面数字を見ると、7月の貿易収支の赤字は前年同月比−58.8%減少と大きく好転しているように見えるが、これはこの1年間に輸入がエネルギー関係を中心に停滞し、貿易収支が好転した趨勢を見ているだけで、今年の2月以降のトランプ関税の影響(3月までの駆け込み輸出と4月以降の輸出減少)は示していない。
 季調調整した月ごとの推移には、前述のように、今年に入ってからのトランプ関税の悪影響が見てとれる。日本の景気動向に対する本宅的な悪影響(収益悪化を通じた輸出や設備投資の下押し)は、7〜9月期以降に本格的に出てくるであろう。今後はその大きさを、注意深く見ていかなければならない。