2025年7月版
設備投資意欲と堅調な雇用環境に支えられ景気の緩やかな回復が続く

【トランプ関税の悪影響はまだ小さく、景気の緩やかな回復が続く】
 5月の「景気動向一致指数」は3月に続き2回低下となり、内閣府は「悪化」と判断した。しかし景気の実態は、弱い部分もあるが全体としてはなお緩やかな回復が続いている。
 6月調査「日銀短観」の大企業製造業の「業況判断DI」は、3月調査で悪化となったあと今回は再び好転に戻り、全規模全産業の「業況判断DI」は、3月調査も6月調査も横這いであった。6月調査では、本年度の売上高見通しと設備投資計画の増加率が、共に3月調査に比し上方修正された。
 6月の「景気ウォッチャー調査」では、6月の景気の「現状判断DI」が、前月調査に続き、2か月連続して上昇している。
 トランプ関税の悪影響は、5月の対米自動車・同部品の輸出減少に現れているが、日本全体の貿易収支(季調済み)は、3〜5月と赤字縮小を続け、5月の経常収支(同)の黒字は2兆8千億円と1〜4月平均(2兆5千億円)を上回っており、格別変調の兆しは今のところまだない。

【鉱工業出荷は国内向けが続伸、輸出も前月減少のあと増加】
 5月の鉱工業生産と出荷は、生産が前月比+0.5%と2か月振りに増加し、出荷は同+2.2%と2か月連続して増加した(図表1)。また5月の鉱工業製品の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、国産品の国内向け出荷が前月比+2.6%と増加したため、輸入は同−0.8%と微減したものの、両者の合計で前月比+2.2%と2か月連続の増加となった。
 鉱工業出荷の内訳を見ると、輸出が前月比+2.4%と前月減少のあと再び増加し、5月は内外向けが揃って増加した。
 生産、出荷共に、生産用機械、汎用・業務用機械、自動車など、設備投資関連と輸出関連の業種が伸びている。
 製造工業生産予測調査によると、6月は前月比+0.3%と続伸したあと、7月は同−0.7%と2か月続伸の後、小反落する予測となっている。

【米価を中心とする物価高騰で実質賃金は前年を下回っているが、堅調な雇用環境が消費態度を支えている】
 国内需要の動向を見ると、5月の「家計調査」の実質消費支出(季調済み)は前月比+4.6%とやや大きく上昇したが、5月の「実質消費活動指数」(日銀推計)は、前月比−0.4%と横這い圏内の微減であった(図表2)。6月の「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、前月比+1.7%と前月(同+1.6%)に続き、2か月連続して上昇した。
 米価を中心に消費者物価の高騰は続き、実質賃金は5月も前年比−2.9%と5か月連続で前年を下回っているが(図表2)、雇用の拡大、失業の減少など雇用環境の改善は続いている(図表2)ことが、消費態度を下支えているものと思われる。

【合理化を中心に企業の設備投資意欲は強い】
 設備投資の動向を見ると、5月の機械投資の動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月増加(前月比+1.1%)のあと同−0.2%と微減した(図表2)。
 しかし5月調査「日銀短観」の25年度設備投資計画によると、全産業(含む金融機関)の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資額を除く)は、前回の2月調査より5.0%ポイント上方修正され、前年比+9.4%と前年度実績(同+3.7%)を大きく上回る伸びとなっている。
 このうちソフトウェア投資額は、前年比+16.1%と前年実績(同+3.8%)を大きく上回る伸びが計画されている。
 合理化投資を含む企業の設備投資意欲は、引き続きかなり強い。

【トランプ関税で5月の対米貿易収支の黒字は縮小】
 最後に外需を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」(季調済み、以下同様)は、5月に1745億ドルの赤字と2か月連続して赤字が縮小した(図表2)。輸出はトランプ関税前の駆け込みで、2月に急増したあと、5月まで3か月続けて減少している。しかし輸入が、原油・石炭などの値下がりと円高で減少しているため、貿易・サービス収支の赤字は、2か月連続して縮小した。4〜6月期のGDP統計の「純輸出」は、1〜3月期に比し好転する可能性が高い。
 5月の米国向け輸出は、トランプ関税の掛かった自動車・同部品を中心に、2か月連続して減少し、通関ベースの対米貿易収支の黒字は5か月振りに減少した。