2025年5月版
トランプ関税による世界景気の鈍化見通し、物価上昇高止まりによる消費停滞の中、年度末を控えて設備投資が堅調

【3月の輸出、生産、出荷は2月の反動で減少】
 トランプ関税引き上げ前の駆け込みと中国の春節開始の早まりから、2月の輸出は前月比+13.0%と急増し、鉱工業生産と出荷も増加したが、3月はその反動で輸出、生産、出荷はいずれも前月比減少した(図表1)。
 3月は国内向け鉱工業出荷も冴えなかった。3月の「景気動向一致指数」は、4か月振りの下落となった。4月の「景気ウォッチャー調査」の「現状判断DI」は、4が月連続して低下しており、4月は前月比−5.5%とやや大きく下がった。
 全国消費者物価の前年比は、昨年10月の+2.3%から上昇して1月は+4.0%に達したあと、3月は+3.6%まで低下した。しかし値上がりの中心である生鮮食品を除いてみても、指数は12月から3月迄、+3.0〜+3.2%の間で高止まりしている。また、変動の激しい生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIの前年比は、昨年後半から本年3月迄ジリジリと上昇し、3月は+2.9%に達した(図表2)。消費者物価の実勢は物価安定目標の2%から乖離したまま、安定の兆しを見せていない。こうした中、実質賃金の前年比は1月から3月まで連続してマイナスとなっている。
 この間、資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は確り増加しており、1〜3月期の景気を支えているのは、国内の設備投資のみという形になっている。
 「景気動向一致指数」は昨年9月から2月まで一高一低のうちにジリジリと上昇していたが、3月には前月比−1.3%と下落した。世界の貿易と経済がトランプ関税に攪乱される中、輸出と設備投資を中心に日本の景気が今後どのように推移するかが注目される。

【生産、出荷は一高一低】
 3月の鉱工業生産と出荷は、輸出が前月に対米駆け込み輸出や中国の春節の早まりで増加した反動もあって、前月比夫々−1.1%、−2.8%と減少した(図表1)。前月増加の反動で減少した業種は、対米輸出の中心である自動車、電機・情報通信機械、鉄鋼などである。製造工業生産予測調査によると、これらの業種を中心に、4月は同+1.3%、5月は同+3.9%と復元する見込みである。
 3月の鉱工業出荷の内訳を見ると、輸出が前月比−6.8%と大きく落ち込んだうえ、国内向け出荷も同−1.8%と微減した。このため国内総供給は、輸入が同+1.8%と増加したにも拘らず、同−1.0%の減少であった。4月はこの反動である程度は増加すると見られる。

【物価上昇率の高止まりで消費は不冴え】
 国内需要の動向をまず家計消費から見ると、3月の「家計調査」の実質消費支出は、季調済み前月比で+0.4%、前年同月比は+0.9%といずれも増加した。しかし、四半期をまとめて見ると、1〜3月平均は、前期比−1.0%と停滞している。
 4月の「消費動向調査」では、「消費者態度指数」が昨年12月から本年4月なで、一貫して低下している。就業者数は増加し、失業者数は減少しているが、消費者物価の上昇率が高止まりし、実質賃金が低下しているための不安が強いと見られる(図表2)。

【資本財(除、輸送機械)の国内総供給は堅調】
 設備投資の動向を見ると、3月の機械投資の動向を反映する資本財(除、自動車)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は前月比−5.7%と減少したが、1〜3月をくくって見ると、合計は10〜12月合計比+4.7%の増加となる(図表2)。これは10〜12月の前期比+4.5%に続く大幅増加であり、2四半期連続の急増である。24年度下期としては、上期比年率+8.2%の大幅増加であり、24年度下期の設備投資の強さを示している。

【2月の反動で3月の貿易・サービス収支は悪化】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、2月に大きく赤字を縮小した反動で、3月は再び赤字が拡大した(図表2)。
 これは、トランプ関税前の駆け込み輸出と中国の春節前倒しの影響で、2月の輸出が急増した反動で、貿易収支(季調済み)が2月の黒字から3月は再び赤字に戻ったためである。
 米国の大幅関税引き上げと、各国の報復関税引き上げの影響で世界貿易の縮小と世界インフレが見込まれる中、今後の日本の国際収支動向が注目される。いずれにせよ、日本の景気に下押し圧力が懸ると見られるが、現在景気を支えている設備投資への悪影響、世界インフレの日本の物価への影響などを特に注意深く見ていかなければならない。