2024年12月版
本年度下期の国内民需主導型成長の持続性は、物価上昇率の一段の低下による実質所得の増勢と設備投資動向の如何に懸かる

【緩やかな国内民需主導型の成長が続く】
 本年度に入り、景気は昨年度のトリレンマ(インフレ、マイナス成長、円安)から立ち直り、4〜6月期(前期比年率+2.2%成長)と7〜9月期(同+1.2%成長)は国内民需主導型の緩やかな回復(図表3)を続けたあと、10月、11月も基本的に同じパターンの回復を続けている。
 10月の鉱工業生産と出荷は前月に続いて増加し(図表1)、「景気動向一致指数」は9月、10月と上昇した。11月の「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」は、9月、10月に弱含み横這いとなったあと、小売関連、住宅関連を中心に大きく上昇した。
 実質GDP統計(季調済み、以下同じ)の「純輸出」は、輸入の増加が輸出の増加を上回り、7〜9月期まで3四半期連続して成長にマイナス寄与となった。10月は輸出の伸びが上回って貿易収支の赤字は大きく縮小したが、11月、12月の動向がどうなるか注目される。
 春闘で伸び率を高めた実質所得の伸びは、根強い物価上昇の下で、徐々に落ちており、4〜6月期、7〜9月期の国内民需主導型回復が本年度下期にも続くためには、物価上昇率の一段の低下による実質所得の下支えと設備投資の堅調が必要となるが、果たしてどう推移するであろうか。

【生産、出荷は一進一退のうちに内需向けを中心に緩やかに増加】
 10月の鉱工業生産と出荷は、前月比+3.0%、+2.8%と前月(同+1.6%、+2.4%)に続き2か月連続して増加した(図表1)。その反動もあって、11月と12月の製造工業生産予測調査では、同−2.2%、同−0.5%と2か月連続して減少するとも見込まれるが(図表1)、仮に11月と12月の鉱工業生産がこの通りであったとしても、10〜12月期の前期比は7〜9月期停滞(同−0.3%)のあと+1.2%と増加する。
 本年度に入り、生産、出荷は、前年度に引き続き一進一退を繰り返しているが、趨勢としては、緩やかに回復している(図表1)。
 9〜10月の出荷回復は、国内需要の根強さを反映した国内向け出荷の+5.8%の増加によるもので、これに輸入を加えた国内総供給は、輸入も増加(1か月で+6.8%)したため、+5.9%とかなりの増加であった。反面輸出は、この2か月に−1.8%の減少となった。11〜12月には、これら9〜10月の反動が予想されるが、ならして見た結果がどうなるか注目される。

【物価上昇率が根強い一方、名目所得の伸びは鈍化】
 国内民間需要の動向を見ると、GDP統計の実質個人消費は、23年度中、消費者物価高騰の下で4四半期連続して前期比減少したが、24年度に入り、4〜6月期(前期比+0.6%)、7〜9月期(同+0.7%)と2期連続して増加に転じた。この背景には、春闘ベア率の大幅上昇と物価上昇率の低下により、実質雇用者報酬の前年比が、本年度に入り2年半振りにプラスに転じたことがある。
 しかし月次統計を見ていくと、個人消費の回復にはやや弱材料もある。実質賃金の前年同月比は、本年6〜7月に、大幅な春闘ベア率を反映して2年2か月振りにプラスに転じたが、その後8〜9月には早くもマイナスに戻り、10月は前年比横這いであった。GDP統計の実質雇用者報酬も、季調済み前期比で見ると、本年7〜9月期には僅かに+0.2%の増加にとどまった。これは消費者物価の上昇が根強い反面、名目賃金上昇率が再び鈍化しているためである(図表2)。
 こうした実質所得の動向を背景に、「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、9月をピークに10〜11月と水準は下がっている。「消費活動指数」(日銀推計)も7月をピークに8〜10月と水準を下げている(図表2)。
 消費者物価の根強い上昇(図表2)を背景に、年末商戦に向かって消費動向がどうなるか注目される。

【住宅投資は本年度に入り回復】
 この間GDP統計の民間住宅投資(実質)は、昨年7〜9月期から本年1〜3月期まで前期比で減少していたが、4〜6月期に同+1.2%に転じ、7〜9月期も同+0.4%と増加した。21年4〜6月期から前月比減少傾向を辿っていた季調済み実質雇用者報酬が、昨年10〜12月期から回復傾向に転じたことが大きな背景にあると見られる。

【設備投資は揺れを伴いながらも緩やかな増勢】
 GDP統計の実質設備投資は、23年1〜3月期をピークにやや弱含みで推移していたが、本年4〜6月期に前期比+1.1%増と反発したあと、7〜9月期は同−0.1%とほぼ横這いであった(図表3)。
 月次の機械投資の動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、7〜9月期に前期比−4.1%の減少となったが、10月は再び前月比+10.8%と大きく増加した(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、7〜9月期に前期比−1.3%の減少となったが、10〜12月期の見通しは同+5.7%と本年1〜3月期の同+4.4%以来の大きな伸びが予測されている。これらを前提に本年の機械受注(同)の前年比を推計すると、前年比+2.5%の増加となる。
 本年度の設備投資は、一高一低のうちに増勢を保っていると見られる。

【成長に対してマイナス寄与の「純輸出」は10〜12月期に変わるか】
 最後に外需の動向を見ると、実質GDP統計の「純輸出」は、本年に入って、実質成長率に対する寄与が3四半期連続してマイナスとなっているが(図表3)、10月には「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」(季調済み)の赤字が、大きく縮小した(図表2)。内訳をみると、貿易収支、サービス収支の双方で、赤字が大きく縮小している。
 10月の貿易収支(季調済み、国際収支ベース)では、輸出が+1.2%増加、輸入が−0.4%減少し、貿易収支の赤字は、1809億円(前月比−54.2%減)となった。10〜12月期のGDPベースの「純輸出」がどうなるか注目される。