2024年11月版
物価上昇率の低下が遅々としているため、国内民需主導型回復の勢いは落ちている

【実質雇用者報酬の伸び悩みから景気回復の勢いが落ちている】
 日本経済は、実質雇用者報酬が春闘の大幅ベアと物価上昇率の低下に支えられ、1年振りに前年比増加に転じたことによって、4〜6月期に国内民需主導型成長(前期比年率+2.2%)に転じたあと、7〜9月期も同+0.9%の成長となったが、回復の勢いは落ちている。実質雇用者報酬の季調済前期比増加率は、4〜6月期に前期比+0.7%と大きく伸びたあと、7〜9月期は前期比横這いであった。
 月次統計の動きを追うと、「景気動向一致指数」は、3〜5月に連続して上昇したあと、6〜9月は1か月毎に下降上昇を繰り返しており、上昇した9月の水準は5月の水準を下回っている。「消費動向調査」の「消費者態度指数」は6〜9月と毎月上昇してきたが、10月は1か月で5月の水準まで低下した。「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」は、6〜8月に上昇したあと9〜10月と再び低下した。
 このように回復の足取りが確りしていないのは、車の不正認証問題や大型台風襲来で工場の操業が停止し、鉱工業生産・出荷が一進一退を繰り返したことも響いているが、それだけではない。3月と7月の2回の利上げにも拘らず円安修正が大きくは進んでいないため、インフレ率の低下は2%台で遅々としており(図表2)、反面春闘の大幅ベアで4%台に高まった名目賃金の伸びも2%台に戻り(同)、6月に前年比+1.1%に達していた実質賃金指数は8月(前年比−0.8%)と9月(同−0.1%)に僅かに低下するなど、物価上昇の生活圧迫が続いている。4〜6月期に2年半振りに前年比プラス(+0.8%)となった実質雇用者報酬も、7〜9月期には早くも季調済前期比で横這いとなり、前年比は+0.9%にとどまった。

【鉱工業生産、出荷は月毎に一進一退】
 9月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々+1.4%、+2.3%(図表1)と、台風に伴う操業停止で落ち込んだ8月(夫々前月比−3.3%、−4.1%)の反動としては、小幅な上昇であった。その分反動増加は10月も続き、製造工業生産予測調査では、10月に+8.3%の比較的大幅な上昇が見込まれている(図表1)。
 9月の出荷は、落ち込み前の7月に比べてまだ2.0%と低い(図表1)。これを輸出と国内向け出荷に分けると8月は輸出を優先して前月比+2.1%と増加させた後、9月の輸出は同−2.6%減と大きく落ち込んだ。
 そのシワが国内向け出荷に寄った形で、8月は同−4.7%、9月は同+2.8%となっている。これに輸入を加えた国内総供給は、8月同−6.5%、9月同+3.3%であった。
 総じて本年に入ってからの鉱工業生産と出荷は、一進一退を繰り返し、はっきりした上昇トレンドは見られない(図表1)。

【実質賃金の上昇傾向は鈍化】

 国内需要の動向を見ると、9月の「家計調査」の実質消費支出(季調済)は、前月比−1.3%と前月増加(同+2.0%)のあと減少した。9月の実質消費活動指数(同)は前月に続き微減したが、7〜9月期の前期比は上昇した。
 名目賃金上昇率は、春闘の大幅ベアを反映して6〜9には前年比+2.8〜4.5%とこの間のCPI上昇率(同+2.5〜3.0%)を総じて上回って実質賃金は上昇している(図表2)。今後も実質賃金の上昇傾向が保てるかは、消費者物価上昇率が更に落ち着くかどうかに懸っているが、最近の円安傾向から見て、やや不安がある。
 この間、失業率は人手不足を反映して失業者がジリジリと減少しているため、僅かに上昇している(図表2)。
 7〜9月期GDP統計の実質住宅投資は、4〜6月期に4四半期振りに増加(前期日+5.7%)したあと、同−0.4%と早くも頭を打った。

【設備投資と公共投資は前期急増のあと7〜9月期は足踏み】
 設備投資のうち、機械投資の動向を反映する資本財国内総供給(除、輸送機械)は、9月に前月比+1.5%の増加となったが、7〜9月期では前期比−4.1%の減少であった(図表2)。7〜9月期GDP統計の実質設備投資も、4〜6月期増加(前期比+3.8%)のあと、同−0.7%と足踏みしている。
 GDP統計の実質公共投資も、前期急増(前期比+17.4%)のあと、7〜9月期は同−3.6%と頭を打っている。

【貿易サービス収支の赤字縮小は遅々としている】
 GDP統計の「純輸出」に対応する9月の国際収支統計の「貿易・サービス収支」の赤字(季調済)は、前月縮小のあと、再び拡大したが、7〜9月期では前期比僅かに縮小した(図表2)。しかし7〜9月のGDP統計の「純輸出」では悪化しており、両統計の間に相違が見られる。
 いずれにしても、GDP全体に対する外需の影響はこのところ比較的小さい。