2024年10月版
大幅ベアとインフレ率低下による実質個人消費回復が定着、8月の大型台風の影響は一時的
【大型台風による攪乱を超え、国内民需主導型成長が続く】
春闘の大幅ベアと消費者物価上昇率の低下のよって、実質個人所得が増加に転じ、1年間続いた実質個人消費の減少傾向は、6月以降上昇に転じた。
8月は大型台風上陸などの影響から、鉱工業生産、出荷や旅行・宿泊・娯楽施設などの消費活動が一時的に落ち込んだが、9月以降は再び立ち直っている。9月、10月の「製造工業生産予測調査」は、大幅な上昇を見込んでおり(図表1)、「消費動向調査」の消費者態度指数も、8月に足踏みしたあと、9月は再び上昇している。
7〜9月期の実質GDPは、8月の台風の影響で勢いは削がれたものの、立ち直った個人消費を中心に、国内民間需要主導型のプラス成長が期待される。2四半期続けて成長にマイナス寄与となった「純輸出」も、プラス寄与に転じそうである。
年末に向かう今後の経済活動は、消費者物価上昇率の低下=実質所得の増加が、今後も続くかどうかに依存している。
【8月の生産と国内向け出荷は大型台風上陸の影響で一時的に減少】
8月の鉱工業生産と出荷は、8月後半に本土に上陸した台風10号に伴い、工場の操業が一時停止したため、夫々前月比−3.3%、同−4.0%と大きく低下した。生産減少が目立った業種は、自動車(前月比−10.6%)。電気・情報通信機械(同−6.2%)。無機・有機化学(同−8.1%)、金属製品(同−6.6%)などであるが、これ以外の業種も軒並み前月比減少となった。
製造工業生産予測調査によると、この反動で9月は前月比+2.0%の増加、10月は同+6.1%の増加と連続して大幅に上昇するが、これを見込んでも7〜9月期の前月比は微減となり、台風の影響は残る。
8月の出荷減少を輸出と国内向けに分けてみると、前月減少(前月比−1.0%)した輸出は同+2.1%の増加となり、出荷の減少は国内向けの−4.7%にしわ寄せされている。更に国内向け出荷に輸入を加えた国内総供給も、輸入が同−7.1%とやや大きく落ち込んだため、全体で同−5.5%の減少となった。9月以降はこの反動で大きく増加すると見込まれる。
【1年続いた実質個人消費の減少は6月以降増加基調に転じた】
国内需要の動向を見ると、台風上陸の影響に加え、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の影響もあって、8月の「家計調査」の実質消費支出の前年比は7月増加のあと再び減少し、日銀推計の「実質消費活動指数」も6月、7月と2か月増加のあと8月は減少した(図表2)。台風に伴う旅行・宿泊、娯楽施設などの不振が響いた。
しかし9月の「消費動向調査」によると、6〜7月に回復に転じた「消費者態度指数」は8月に足踏みしたあと、9月に再び増加した。5〜8月の消費者物価(除、生鮮食品・エネルギー)上昇率が、2%前後に落ち着いてきた反面、大幅な春闘ベア率を反映して6〜8月の名目現金給与の前年比が3〜4.5%増となり、実質賃金の前年比が3か月連続して増加している(図表2)。これを反映して、昨年7〜9月期から本年4〜6月期まで4四半期連続して減少したGDPベースの実質個人消費は、6月から緩やかな増加基調に転じたと見られる。
この間雇用者数も緩やかに増加を続けており(図表2)、消費の回復を支えている。
【本年度の設備投資計画はソフトウェア投資を中心に前年比10%強の増加】
投資動向をみると、設備投資のうち機械への投資を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、7月にやや大きく増加(前月比+6.1%)したあと、8月は台風に伴う工場の操業停止などの影響から、同−9.5%と大きく低下した(図表2)。
9月調査「日銀短観」と7〜9月調査「法人企業景気予測調査」における、本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み、土地投資を除く)は、前年比夫々+10.3%、+12.5%と引き続き高い伸びとなっている。投資内容のうち特に伸びが高いのはソフトウェア投資であることは、両調査に共通している。
本年4〜6月期のGDP統計(2次速報値)における名目設備投資の前年比は+6.3%であるから、もしこれらの投資計画通りに本年度の設備投資が実行されるとすれば、今後のGDP統計の設備投資の伸びはかなり急速に高まってくることになる。しかし、この二つの調査の対象企業は、中小企業を含むとは言え、GDP統計の対象である日本の全企業よりは優良企業に偏っていると見られるので、両者には一定の乖離があるのかも知れない。
【7〜9月期のGDP統計の「純輸出」は3四半期振りにプラス寄与か】
最後に海外需要の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する8月の国際収支統計(季調済み)の「貿易・サービス収支」の赤字は、前月に続き、8月も縮小した(図表2)。これは貿易収支の赤字が3か月連続して、サービス収支の赤字も2か月連続して、夫々縮小したためである。
輸出入共に緩やかな減少傾向にあるが、エネルギー資源を中心とする輸入の減少傾向の方が大きい。サービス収支の赤字縮小には、インバウンド消費の増加が寄与している。
実質GDP統計の「純輸出」は、「貿易・サービス収支」の赤字拡大から(図表2)、1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続して経済成長に対してマイナス寄与となったが(図表3)、7〜8月の動向から判断する限り、7〜9月期は3四半期振りにプラス寄与となりそうである。