2024年9月版
春闘ベアを反映した民間支出主導型景気の持続性は今後の物価上昇率低下=実質所得増加に懸かる

【ベア反映の実質所得の増加が続くが、好影響一巡後に注目の要】
 本年春闘の大幅ベアを反映する統計が、次々と発表され始めた。2年以上前年比低下を続けた実質賃金は、6月に続き7月も前年比増加となり、同じく2年以上前年を下回り続けていた「家計調査」の勤労者所帯の実収入は、5、6,7月と3か月続いて前年を上回った。これらを反映して、4〜6月期のGDP統計(第2次速報値)の実質雇用者報酬は約3年振りに前年比プラスに転じ、前期比減少を続けてきた個人消費、住宅投資も増加に転じた。
 「景気動向指数」は、このところの鉱工業生産、出荷指数の乱高下に攪乱されているが、「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、6、7、8月と連続して上昇している。「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」は、企業動向関連が鉱工業関連の乱高下から方向が定まらない動きをしているものの、家計動向関連が6、7、8月と確り上昇しているため、合計も6月以降3か月連続して上昇している。
 春闘の好影響が一巡した秋以降の景気は、利上げに伴う円安修正等から国内物価の上昇率がどの程度下がり、実質所得の増加がどの程度続いて、個人消費、住宅投資、設備投資等の国内民間需要主導型景気が持続するかに懸っている。
 7月の消費者物価は、23年1月に始まった政府の電気・ガス料金の負担軽減措置等がいったん終了した影響でエネルギー関係に押し上げられ、前年比+2.8%上昇(除生鮮食品は+2.7%上昇)と、4月の底(夫々+2.5%、+2.2%)から大きく上昇している。しかし、国内の物価動向をより反映する「生鮮食品とエネルギーを除く総合」は、前年比+1.9%と遂に2%を切った(図表2)。この実勢が秋以降の物価上昇率低下に反映され、6月以降の実質賃金の上昇が続くかどうかに、今後の日本の景気動向は大きく依存している。

【鉱工業生産と出荷は引き続き一高一低
 7月の鉱工業生産と出荷は、前月にかなり減少した反動もあって、夫々前月比+2.8%増、同+2.4%増といずれも増加した(図表1)。製造工業生産予測調査によると、8月は前月比+2.2%と増加した後、9月は再び同−3.3%と減少し、引き続き一高一低を繰り返す見込みである(図表1)。
 7月と8月の生産増加をリードした業種は、電気・情報通信機械、生産用機械、電子部品・デバイス等であり、9月の減少は生産用機械、電子部品・デバイス等の反動減である。
 7月の出荷の前月比増加(+2.4%)は、国内向け出荷の前月比+3.2%増によるもので、輸出は前月比−1.0%の減少であった。また国産品の国内向け出荷に輸入を加えた国内総供給は、輸入も前月比+3.0%増と増えたので、全体で同+3.6%とかなりの増加となったが、これも前月の減少(同−3.7%)の反動という面が大きい。

【春闘の大幅ベアを背景に個人消費は立ち直る】
 国内需要の動向を見ると、7月の「実質消費活動指数」(日銀試算季調済)は前月比+0.2%の微増(図表2)、「家計調査」の実質消費支出(季調済)は前月比−1.7%の減少となったが、家計の収入は春闘の大幅ベア率を反映してこのところ確実に増加している。7月の「家計調査」の勤労者世帯の実収入は、名目で前年比+8.9%増、実質で同+5.5%増と大きく伸びた。これは世帯主収入のうち、臨時収入・賞与が名目で前年比+20.3%、実質で+16.6%増加したためである。
 7月の「毎月勤労統計調査」でも、現金給与総額が前月(前年比+4.5%)に続き同+3.6%と増加し(図表2)、実質賃金は2年以上続いた前年比マイナスが、前月(+1.1%)に続き7月も+0.4%の増加となった。
 4〜6月期のGDP統計(2次速報)でも、実質雇用者報酬が約3年振りに前年比プラスに転じ、実質個人消費は5四半期振りに前期比+0.9%のプラスに転じた。
 8月の「消費動向調査」の消費者態度指数は、6、7月に前月比増加となったあと、8月は前月比横這いであった。

【設備投資は緩やかな増勢、住宅投資と公共投資は4四半期振りの増加】
 設備投資のうち機械への投資動向を反映する資本財(除輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、4〜6月期に前期比+2.1%と増加したあと、7月も前月比+6.1%の増加となった(図表2)。
 4〜6月期の「法人企業統計調査」によれば、4〜6月期の全産業(除、金融業・保険業)の設備投資は、季調済み前期比で+1.2%増、前年同期比で+7.4%となった。これを反映した4〜6月期実質GDP統計の第2次推計では、実質設備投資が前期比+0.8%、前年同期比+2.2%となった(図表3)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、1〜3月期に前期比+4.4%とやや大きく増加した反動で、4〜6月期は同−0.1%と足踏みしている(図表2)。
 実質GDP統計の住宅投資と公共投資は、23年7〜9月期から24年1〜3月期まで3四半期続いて減少していたが、4〜6月期(第2次推計)には、前期比夫々+1.7%、同+4.1%と、4四半期振りに増加した(図表3)。

【7月の貿易・サービス収支の赤字はやや縮小】
 最後に海外需要の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、本年1〜3月期、4〜6月期と連続して赤字幅を拡大(図表2)、つれてGDP統計の「純輸出」は2四半期続けて成長に対してマイナスの寄与となっていたが、7月単月だけで見るとやや赤字幅を縮小した。季調済み前月比で見て、関税統計は輸出が+1.7%、輸入が+0.9%、国際収支統計は輸出が+1.2%、輸入が+0.5%であった。
 しかし世界経済を展望すると、中国の不況からの立ち直りは遅れており、米国は景気上昇減速の気配が出ているので、輸出環境は必ずしも良好ではない。輸入面では、日本が大きく依存するエネルギー資源の世界的需給が緩み、市況が下がっているのは、有利な条件である。
 7月末の第2次利上げ以降、ようやく円安修正が進み始めたが、これが秋以降の国内物価と貿易・サービス収支にどう響いてくるかが注目される。
 いずれにせよ、今後の日本の景気立ち直りは、物価上昇率の低下が個人消費、企業設備投資など国内民間需要の回復にどのように寄与するかに懸っている。4〜6月期の国内民需主導型成長が、7〜9月期にどのようにつながっていくかが焦点である。