2024年8月版
春闘ベア反映、円安修正・物価上昇率低下などから民間支出主導型回復の展望が開ける
【実質賃金の前年比がプラスに転じ、個人消費が回復】
1〜3月期に終わった23年度にトリレンマ(大幅物価上昇、実質成長率低下、円安進行)に陥った日本経済に、ようやく立ち直りの気配が出てきた。
春闘の大幅ベアを反映し、2年以以上続いた実質賃金の低下が6月に止まり、4〜6月期の個人消費に立ち直りの気配が出ている。7月以降、円安修正が進んでおり、これが更に物価上昇率低下に反映される8月以降は、更に個人消費の立ち直りが進むことが期待される。
設備投資にはまだ強気の年度計画並みの動きは出ていないが、円安と物価上昇の修正が進むにつれて、国内民間需要に主導された日本経済の回復が、秋以降、表面化してくることが期待される。ただし、金融情勢転換に伴う株価急落、円高などの波乱要因もあり、しばらくは調整の期間があるかもしれない。
【鉱工業生産、出荷は引き続き一高一低の弱基調】
6月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々−3.6%、−4.3%と再び大きく低下した。製造工業生産予測調査によると、その反動で、7月の生産は同+6.5%、8月は同+0.7%と再び大幅に増加する(図表1)。
自動車工業の認証不正問題等から、鉱工業生産、出荷は、本年に入って1か月毎に一高一低を繰り返しているが、ならして見るとその水準はほぼ横這いで、基調としては弱い(図表1)。6月の生産指数では、15の業種区分で、自動車とその関連業種だけではなく、総ての業種で前月比減少した。
6月の出荷を輸出と国内向けに分けると、輸出は前月比横這いで、国内向けが前月比−4.7%と減少している。しかし年明け後の傾向を昨年12月比で見ると、一高一低のうちに輸出が−5.5%減、国内向けが−4.6%減と、いずれも同じように低下している。
【個人消費は1年振りに増加に転じた】
国内需要の動向を見ると、実質GDP統計で、23年度中4四半期連続して前期比減少した実質個人消費は、4〜6月期に下げ止まりから微増に転じたようだ。季調済みの実質消費で見て、「家計調査」の実質消費支出の前期比は、1〜3月期−1.3%、4〜6月期−0.1%とほぼ下げ止まり、日銀統計の「消費動活動指数」は1〜3月期−0.4%、4〜6月期+0.6%と回復した。
また「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、4月、5月と前月比低下した後、6月と7月は収入増加や暮らし向きの指数を中心に、前月比増加した。
これらの背景には、物価高騰下で減少を続けていた実質所得が、春闘の大幅ベアに伴って増加に転じたためと思われる。2年以上前年比で減少を続けていた実質賃金指数は、6月に前年比+1.1%の増加となった。また前年比で減少を続けていた「家計調査」の勤労者世帯の実収入は、5月、6月と前年比増加に転じた。
【本年度設備投資計画並みの伸びでは実績に表れていない】
次に投資動向を見ると、23年度中、実質GDP統計で横這い傾向にあった実質民間設備投資(図表3)は、24年度の設備投資計画(名目)では2桁の増加となっているが、6月迄の月次統計には、まだその増勢は反映されていない。6月の資本財出荷(民需、除く船舶・電力)は、他の財と同様、大きく減少した(図表2)。
GDP統計の実質民間住宅投資は、23年7〜9月から本年1〜3月期まで3四半期続けて減少しているが、これも物価高騰に伴う実質所得減少の影響と見られる。今後、実質所得の増加に伴い、個人消費回復のあとを追って、再び増加に転じるか注目される。
【4〜6月期の貿易・サービス収支の赤字はやや拡大】
最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」(季調済み)は、6月も8063億円の赤字と、赤字幅をやや拡大した(図表1)。これはサービス収支の赤字が拡大したためで、貿易収支は、円安を背景に半導体関連などの輸出が大きく伸びたため、輸出増加が輸入増加を上回り、赤字が縮小した。
また、4〜6月期全体の貿易・サービス収支の赤字は、20826億円と1〜3月期(18386億円の赤字)を上回ったので(図表1)、4〜6月期のGDP統計の実質成長率に対し、前期同様、「純輸出」はマイナスの寄与となろう。
総じて、昨年度マイナス成長からの立ち直りは、まだ明白には窺われない。