2024年7月版
4〜6月期以降の回復は設備投資計画実現の成否と個人消費立ち直りの程度に懸かる

【鉱工業生産は3か月連続して反動増加、設備投資の計画は大型、個人消費に立ち直りの気配も】
 日本経済は1〜3月期の前年比で、実質GDPは−0.7%下落、GDPデフレーターは3.4%上昇、円相場は対ドルで20円以上の下落と全体としてトリレンマの様相を呈したが、4〜6月期は緩やかなプラス成長に戻る気配が出てきた。5月調査の「景気動向指数」は、一致指数が3〜5月と3か月続けて上昇し、先月下落した先行指数も5月には再び上昇した。6月の「景気ウォッチャー調査」でも、「景気の現状判断DI」が5月に続いて6月も上昇し、先月下落した「景気の先行き判断DI」は6月には上昇した。
 これらには認証不正問題で落ち込んでいた自動車とその関連鉱業の生産回復を中心に、鉱工業生産指数が3〜5月と3か月続けて上昇したことも響いていると見られる(図表1)。4〜5月と低下していた「消費動向調査」の「消費者態度指数」も、6月には上昇した。
 5月の現金給与総額は春闘のベアを反映して、「決まって支給する給与」が前年比+2.5%と近年になく大きく上昇したが、5月の消費者物価の前年比2.8%(図表2)には及ばず、実質賃金は依然として下落を続けている。
 「日銀短観」「法人企業景気予測調査」の本年度設備投資計画は、共に10%超の高い伸びとなっている。この計画が本当に実現するかどうかが、本年度の日本経済の鍵を握っているといえよう。個人消費と回復しつつある設備投資を合わせた4〜6月期の国内民間需要はプラスに転じようが、成長率全体を大きくプラスに戻せるかどうかは、6月の動向まで見ないと判定できない。5月の貿易サービス収支の赤字も大きく、4〜6月期の「純輸出」が成長にプラス寄与するかどうかも、予断を許さない。

【鉱工業生産と出荷は5月増加、6月減少、7月増加と不規則変動を繰り返す見込み】
 5月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々、+2.8%増、+3.5%増とやや増加した(図表1)。これは、認証不正問題で揺れた自動車と関連業種が正常化したことに加え、前月に米ボーイング社のトラブルで航空機部品等が落ち込んだ反動も加わったためである(5月の前月比、自動車+18.1%、自動車を除く輸送機械<航空機部品等>+12.8%)。
 しかし、製造工業生産予測調査によると、6月は自動車の認証不正問題の再燃から、再び前月比−4.8%とやや大きく落ち込み、7月はその反動で再び同+3.6%の増加となる。
 鉱工業生産と出荷は、本年に入って不規則変動を繰り返しており(図表1)、それを修正すれば緩やかに回復しているが、基調は強くないといえよう。
 5月の出荷(前月比+3.5%)を国内向けの出荷と輸出に分けると、国内向けは前月比+3.5%、輸出は同+2.7%と共に増加している。この国内向け出荷に輸入を加えた国内向けの総供給は、輸入が同−0.2%と微減したため、同+3.1%であった。

【春闘の大幅ベアの影響で個人消費は6月以降に立ち直る気配】
 国内需要の動向を見ると、「家計調査」の季調済実質消費支出は、4月、5月と2か月連続して前月比減少し、日銀調べの「季調済実質消費活動指数」は4月、5月と微増したものの、5月は2月の水準よりも低い(図表2)。総じて3〜5月の個人消費は弱含みである。物価上昇持続の下で、実質賃金指数は5月も前年比減少を続けている。
 しかし6月の「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、4〜5月と落ち込んだあと、6月には「収入の増え方」が好転して微増した。本年春闘の大幅ベアの影響が、6月以降に出てくる気配がある。
 なお、住宅投資は、物価上昇の下で、本年1〜3月期まで3四半期続けて減少していたが、この度の建設統計の改訂に伴うGDP統計の改訂で、3四半期の落ち込み幅は、−4.7%から−5.8%に拡大した。

【1〜3月期に微減した設備投資は4〜6月期に回復】
 機械投資の動向を反映する5月の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比+0.9%、1〜3月平均比+4.5%と増加した。
 本年度の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み、土地購入額を除く)は、6月調査「日銀短観」が前年比+10.8%増、4〜6月期「法人企業景気予測調査」が同+12.1%といずれも2桁の伸びとなっている。この計画が本当に実現されれば、本年度は確りした設備投資リード型の景気回復となるが、果たしてどうなるであろうか。

【貿易・サービス収支の赤字拡大は続く】
 最後に外需を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」(季調済。以下同じ)は、5月に7234億円の赤字と前月(5529億円の赤字)に比し、やや赤字幅を拡大した(図表2)。4〜6月期の「純輸出」も1〜3月期に続き、成長率に対してマイナスの寄与となるかもしれない。
 輸出は昨年中緩やかな拡大傾向を続けていたが、年明け後は、世界景気、特に中国経済の減速を反映して頭打ち傾向を強めている。他方、輸入は昨年始めから世界的エネルギー資源の高騰がピークを打って値下がりに転じたため、昨年中頃まで縮小した後、緩やかに再拡大している。このため貿易収支の赤字は、昨年中頃まで縮小した後、輸出の頭打ち傾向と輸入の緩やかな再拡大傾向で、再び徐々に拡大している。
 本年度の日本経済の回復は、国内民間の設備投資拡大と個人消費立ち直りに懸っているといえよう。