2024年6月版
個人消費が引き続き弱く、4〜6月期の大幅プラス成長転換は期待薄

【トリレンマからの脱出は遅々としている】
 本年1〜3月期に終わった23年度の日本経済は、マイナス成長(1〜3月期実質GDPの前年比は−0.1%、2次速報値、以下同じ)の下で、インフレ(1〜3月期GDPデフレーターの前年比は+3.4%)と大幅円安(1ドル=130円前後→150円強)に見舞われるという、一種のトリレンマに陥ったが、4〜6月期以降、プラス成長、インフレ率低下、円安修正でこのトリレンマから抜け出すことが期待されている。しかし、取り敢えず入手可能な4〜6月期のデータには、残念ながらまだその兆候はでていない。
 大きく回復することが期待された4月の鉱工業生産と出荷は、特殊要因もあって横這いにとどまり、5月に回復したあと、6月は再び別の特殊要因で下押しが予想されている。
 5月「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、4月、5月と連続して低下している。6月「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」も、3月に続き4月、5月と低下している。GDP統計で本年1〜3月期まで4四半期連続して減少している実質消費が回復に転じるのは、本年春闘の大幅ベアで実質賃金が前年比プラスに転じると期待される7〜9月期までは難しいかもしれない。住宅投資が増加に転じるのも、それ以降であろう。
 4〜6月期から増加に転じると期待されるのは設備投資である。4月の資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)と、1〜3月期の機械受注(民需、除船舶・電力)には、回復の兆しがでている。
 1〜3月期マイナス成長のあと、4〜6月期にはプラス成長に戻ることが期待されるが、消費の動向から見て、さほど大幅な転換は期待できないであろう。円安修正、インフレ率引き下げの効果を持つ利上げが期待される。

【鉱工業生産、出荷は実勢から乖離した不規則変動が続く】
 鉱工業生産と出荷は、1月に発覚した不正認証問題で、自動車と関連業種を中心に、1月と2月に夫々通計−7.2%、−8.1%と大きく落ち込んだが、3月はその反動で、生産が前月比+4.4%、出荷同+4.7%と大きく回復した。4月も引き続きやや大きく回復すると予測されていたが、米ボーイング社製の小型機の運航停止に伴う部品の生産や納期の遅れから、航空機部品・汎用機械の落ち込みを中心に、+0.2%増にとどまった。
 5月に再びその反動が出るので、製造工業生産予測調査では、前月比+6.9%の大幅増加が見込まれている。しかし、5月末には再び自動車業界の認証不正問題が再燃しているので、6月以降の鉱工業生産、出荷はその影響を受けて再び下振れしそうである。
 本年上期の鉱工業生産、出荷は、基調は確りしている下で、実勢から乖離した不規則な変動を続けることとなろう。

【物価高騰下消費は引き続き不冴え】
 国内需要の動向を見ると、4月の実質賃金(毎月勤労統計)や実収入(家計調査)が物価の高騰で引き続き前年比減少している下で、「消費動向調査」の消費者態度指数は、4月に続き、5月も低下した。
 4月の実質消費活動指数(日銀推計、季調済、図表2)は前月比微増したが、水準は1〜3月期の平均よりも低い。4月の実質消費支出(家計調査、季調済)は、前月比微減した。
 総じて個人消費は、消費者に前向きの意欲があっても、実質賃金が22年4月から本年4月まで前年比で2年余りも減少を続けている現状では、立ち直れない。本年春闘の結果がどの程度所得に反映されるかは分からないが、その時期が待たれる。

【確りした企業収益を背景に、設備投資には立ち直りの気配】
 設備投資も物価高騰の下で冴えず、1〜3月期(2次速報)の実質GDP統計の設備投資は前期比−0.4%の減少であった。しかし機械投資の動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、4月に前月比+2.7%増、1〜3月平均比+4.3%増とやや立ち直ってきた。先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)も、3月は前月比+2.9%と2月(同+7.7%)に続き回復し、1〜3月期は前期比+4.4%と4四半期振りの増加となった。
 物価高騰下で実質個人所得、実質個人消費は冴えないが、設備投資の背景にある企業収益は比較的確りしている。1〜3月期「法人企業統計」の季調済み経常利益は、前期比+6.7%の増加であった。

【純輸出の成長寄与度は方向感の無い動き】
 GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」(季調済)の赤字は、1〜3月期に大きく拡大し、同期の実質GDPの「純輸出」は、成長率に対して−0.4%のマイナス寄与となったが、4月の「貿易・サービス収支」の赤字は、1〜3月期に比し若干縮小した(図表3)。
 日本の輸出は、欧米先進国の利上げに伴う成長鈍化を中心に世界経済の拡大もやや減速していることもあって、昨年10〜12月期をピークに本年に入って頭打ち傾向が強まっているが、反面輸入も鉱物性燃料の急騰を中心とする世界インフレが収まっているため、昨年上期に大きく減少したあと、最近まで一高一低を続けている。このため、経済成長に対する外需の寄与も、四半期ごとにプラスとマイナスを繰り返し、方向感のない動きとなっている。