2024年3月版
設備投資と輸出を中心に緩やかな回復を持続、製造業は一時的な落ち込み
【設備投資の回復基調確認、経常収支は大幅な黒字】
3月に入り、強弱両方向の景気指標が入り混ざって出ている。1月の鉱工業生産と出荷は、品質不正による自動車工場の操業停止と関連機械工業の生産・出荷の停止に伴い、大幅な下落となり(図表1)、つれて景気動向一致指数も大きく下がった。1月の実質消費も、消費者物価高騰の下で引き続き弱い。
しかし、公表された10〜12月期の法人企業統計の設備投資が大きな伸びとなり、これを反映した10〜12月期実質GDP成長率(年率)の2次速報値は、1次速報値の−0.4%から+0.4%へ上方修正された。これで7〜9月期に続く2四半期連続のマイナス成長でスタグフレーションの瀬戸際と見られた景気の姿は少し変わった(図表3)。
また1月の通関統計や国際収支統計では輸出が順調な反面、輸入がエネルギー資源高一服に伴い減少気味で、加えて海外投資の果実の国内送金やインバウンドの増加もあって、1月の経常収支の黒字(季調済み)は、この形式の統計となった1996年1月以降、昨年8月と並んで、史上最高を記録した。
2月の景気ウォッチャー調査では、景気の「現状判断DI」が、製造業の低下にも拘らず全体として好転し、景気の「先行き判断DI」は、4か月連続してジリジリと上昇している。景気は強弱を交えながら、全体としては緩やかな上昇を続けている。
【1月は自動車とその裾野産業が大きく落ち込む】
1月の鉱工業生産と出荷は、前月比、夫々−7.5%と−8.3%の大幅減少となり、製品在庫も同−1.8%の減少となった(図表1)。これは既に述べたように、自動車工業内部の品質不正、認証不正が発覚したことに伴う工場停止が、製造工業界内部で玉突き的に広がったためである。
生産、出荷が大幅に減少した業種は、自動車(生産の前月比−17.8%)を筆頭に、汎用・業務用機械(同−12.6%)、電気・情報通信機械(同−8.3%)、生産用機械(同−8.0%)、金属製品(同−9.0%)、プラスチック製品(同−6.9%)等、自動車工業の裾野を構成する広範な業種に及ぶ。
製造工業生産予測調査によれば、2月は前月比+4.8%、3月は同+2.0%となっているが、仮に鉱工業生産がこの予測通りに推移したと仮定しても、1〜3月期全体では前期比−3.2%と引き続き大きく落ち込むことになる(図表1)。この混乱の影響が収まるのは、4〜6月期以降となろう。
【消費は物価高騰下で冴えない】
国内需要の動向を見ると、2月の「消費動向調査」の消費者態度指数は、5か月連続して前月比上昇しており、消費マインドの強さは保たれているが、消費者物価の前年比2%を超える騰勢が続く下で(図表2)実質賃金の前年比マイナスが続いている中、実質消費支出(「家計調査」、季調済み)は1月も5か月連続で前月比減少した(−2.1%)。一方実質消費活動指数(日銀推計、同)は、1月に5か月振りに前月比微増したが、水準は低い(図表2)。
この間人手不足はジリジリと進んでおり、1月の完全失業率と有効求人倍率は更に上昇した(図表2)。
【設備投資の基調は確りしている】
10〜12月期の「法人企業統計調査」によると、全産業(除、金融業)の設備投資(ソフトウェア投資を含み、土地購入費を除く、季調済み)は、前期比+10.4%の大幅増加となり、つれて10〜12月期GNP統計(2次速報値)の設備投資も、1次速報値の7〜9月期前期比年率−0.6%、10〜12月期同−0.1%から夫々−0.1%、+2.4%に上方修正された。これに伴い10〜12月期の実質成長率(年率)も、1次速報値の−0.4%から+2.4%と上方修正された(図表3)。
これ迄設備投資については、「日銀短観」などの本年度設備投資計画が前年比+10%台の伸びを示す反面、月々の資本財(除、輸送機械)出荷が横這い気味であったため、やや判断が難しかったが、「法人企業統計」の10〜12月期実績値が強く出たことによって、改めて設備投資の基調が確りしていることが確認された。
先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)も、3四半期続けて減少しているが(図表2)、1〜3月期の見通しは、前期比+4.6%(年率+19.7%)と高い伸びを示している。近年の設備投資は、資本財出荷や機械受注ではとらえにくいソフトウェアなどのウェイトが高まっているのかもしれない。
【GDP成長に対する外需のプラス寄与は続く】
最後に外需の動向を見ると、1月の通関では、輸出が自動車、同部品、半導体等製造装置を中心に前年比+11.9%と大きく伸びた半面、輸入はエネルギー資源高一服を反映して、石炭、LPGなどを中心に前年比−9.6%の減少となった。
GDP統計の「純輸出」に対応する1月の国際収支統計(季調済み)の貿易・サービス収支の赤字は、前月比半減した(図表2)。これは貿易収支の赤字が僅か215億円と10〜12月期の月平均(4232億円の赤字)に比し、大きく縮小したためである。またサービス収支の赤字も前月比縮小した。「純輸出」はGDPの実質成長率に対し、1〜3月期も前期に続いてプラスの寄与となりそうである。
なお、GDP統計とは関係しないが、1月の経常収支(季調済み)の黒字額(27,275億円)は、海外からの収益還流を中心とする所得収支の黒字拡大が貿易・サービス収支に加わり、この形式の統計となった1996年1月以来、昨年7月(27,634億円)と並んで、史上最高となった。