2023年11月版
輸出は増勢を維持しているが、国内民需には一服感

【長引く物価高騰の下、国内の景気回復には勢いがない】
 景気回復の歩みが、ここへ来て少し弱まっている。「景気動向一致指数」は、7月にやや大きく落ち込んだ(前月差−1.4ポイント)あと、8月(同+0.4)、9月(同+0.1%)と小幅に回復したが、9月の「同先行指数」は再び減少(同−0.5)しており、景気回復に勢いがない。10月の「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」と「同先行き判断DI」も、3か月連続して低下した。
 このような景気回復の一服感は、消費者物価の高騰が改まらず(図表2)、1年以上にわたって実質賃金や実質年金が低下を続ける下で、ここへ来て家計消費や住宅投資にやや慎重さが出てきたためと思われる。
 この間世界景気は、金利高騰の米国やEU先進国で景気が減速し、中国の景気低迷も続いているが、9月の鉱工業出荷の輸出と国際収支統計の輸出は、夫々確りと伸びており、国内民需の弱さを補っている。

【生産と出荷は一進一退】

 鉱工業生産と出荷は、自動車工場の一時的なトラブルなどから7月、8月と2か月連続して減少したが、9月は夫々前月比+0.2%、同+0.4%の小幅上昇となっていた(図表1)。しかし、7〜9月期全体としては、前期比夫々−1.3%、−3.7%の減少である。
 その反動もあって、製造工業生産予測調査では、10月は前月比+3.9%とやや大きく増加した後、11月は同−2.8%の減少となっているが(図表1)、10〜11月平均の7〜9月平均比は+2.3%の上昇となった。総じて見れば、生産と出荷は一進一退を続けている。
 9月の出荷を輸出と国内向けに分けると、前月減少した輸出が前月比+10.0%と大きく増加しており、反面、前月増加した国内向けは同−3.8%の減少であった。この国内向けに輸入を加えた国内総供給は、輸入が同+2.7%と増加したものの、全体は同−3.2%の減少であった。このところ国内総供給は、1か月毎に一高一低を繰り返している。

【消費態度は慎重、住宅投資は緩やかに減少
 国内需要の動向を見ると、「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、消費者物価が高騰を続ける下で、8月、9月と2か月連続して前月比低下していたが、10月は僅かに上昇した。しかし、5〜7月の水準に比べればかなり低く、消費態度は慎重なまま推移している。9月の「家計調査」の実質消費支出は、前月比+0.3%と僅かに増加したが、実質消費活動指数(日銀推計)は逆に前月比低下した(図表2)。
 10月の「景気ウォッチャー調査」の現状判断DIにおける「家計動向関連」を見ると、アフターコロナのペントアップ効果で「飲食関連」は回復しているが、物価上昇の影響で「小売関連」、「サービス関連」「住宅関連」は揃って低下を続けている。
 住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数を見ると、月毎に一高一低を繰り返しながら緩やかに低下しており、9月の前月比と7〜9月の前期比は夫々−1.5%、−2.2%の小幅減少となっている。

【実質賃金の低下続く】
 家計消費・住宅投資の背景にある雇用・賃金の動向を見ると、9月は雇用者の増加(図表2)、失業者の減少から完全失業率は2.6%と0.1%ポイント低下した(図表2)。
 9月の現金給与総額は前年比+1.2%増加したが、(図表2)、物価高騰下で、実質賃金は−2.4%と昨年来の低下傾向を続けている。

【7〜9月期の設備投資関連指標は弱い】
 機械投資の動向を反映する資本財(除、輸送機械)の出荷は、9月に前月比−3.0%の低下となり、7〜9月期の前期比は前期増加(+3.8%)のあと、−4.2%の減少となった(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、7月、8月と前月比減少し、7〜8月平均の4〜6月平均比は−2.2%であった(図表2)。
 7〜9月期の民間からの建設工事受注は、前年同期比−8.2%と4〜6月期(同−14.1%)に続き、2四半期続けて前年を下回った。「短観」などの本年度設備投資計画が前年比10%台の伸びを示している割には、実行ベースの設備投資統計は弱い。
 公共機関からの建設工事受注は、7〜9月期も前年比+1.3%と引き続き前年を上回っており、公共投資は増勢を保っていると見られる。

【9月の貿易収支の赤字は輸出の伸長により縮小
 GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」の赤字は、8月に大きく拡大したあと、9月はその反動もあってかなり縮小した(図表2)。これは8月に前月比−3.7%と落ち込んだ輸出が、9月は同+6.2%と大幅に回復し、貿易収支の赤字が8月の4360億円から9月の1306億円へ大きく縮小したためである。9月の輸出回復に大きく寄与したのは、米国向け自動車の前年比+34.0%の伸びである(通関ベース)。
 しかし、7〜9月期全体の貿易・サービス収支としては、8月の赤字が巨額であったため、1兆9953億円の赤字と4〜6月期(1兆7070億円の赤字)を上回った。間もなく公表される7〜9月期GDP統計では、外需が経済成長に対してマイナスの寄与となるのではないかと思われる。