2023年6月版
「コロナ前」に迫る景気回復持続、不安は高インフレ・実質所得減少の消費先行きへの影響

【国内民間需要中心に景気回復持続、ただ物価上昇に伴う実質所得減少で消費の先行きに気迷い】
 日本経済の年初来の景気回復傾向は、アフターコロナの個人消費リベンジ、根強い設備投資の拡大を中心に徐々に強まっているが、3〜4%の物価上昇が続く下で、ここへ来て、個人消費の先行き感にやや気迷いが出ている。
 本年1〜3月期の実質成長率は、企業投資の上振れを主因に、1次速報値の前期比年率1.6%から2次速報値で同+2.7%に大きく上方修正された。実質GDPの水準は、消費税率引き上げとコロナ禍で沈み込んだ19年10〜12月期以降では最高水準となった。ただ落ち込み前の19年7〜9月期の水準にはまだ僅かに届いていない。
 4月の「景気動向一致指数」は3か月連続して上昇し、「同先行指数」も上昇している。5月の「景気ウォッチャー調査」も、「現状判断DI」は引き続き上昇している。
 しかし、「先行き判断DI」は、6か月振りに下落した。企業動向関連と雇用関連は引き続き上昇したものの、家計動向関連の中で、小売関連、飲食関連、サービス関連が半年振りに下落したためである。大幅ベアが伝えられているが、根強い3〜4%の消費者物価上昇の下で、実質賃金の前年比は13か月連続して下落しており、コロナ禍のペントアップ需要があるとはいえ、さすがに消費態度に気迷いがでてきたと見られる。

【生産、出荷は5月減少のあと再上昇の見込み】
 4月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々−0.4%、同−0.4%と3か月振りにやや減少した。しかし5月と6月の製造工業生産予測調査によると、夫々前月比+1.9%、同+1.2%の増加が見込まれているので、4月の減少は一時的と見られる。4月の落ち込みと5月以降の回復予測の主な業種は、半導体製造装置、ディスプレイ製造装置などの生産用機械である。この間、汎用・業務用機械、自動車などは、4月を含め増加を続けている。
 4月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは生産用機械を中心に−1.1%減少したが、輸出は汎用・業務用機械、自動車などを中心に+2.9%と3か月連続して増加した。
 また国産品の国内向け出荷に輸入を加えた国内総供給は、輸入がエネルギー関連鉱業、電子部品・デバイスを中心に前月比+1.3%と増加したため、全体では同+0.2%の微増となった。

【物価上昇に脅かされる家計消費】
 国内需要の動向を見ると、1〜3月期実質GDP統計の家計消費は、前期比+0.5%と4四半期連続して増加したが、4月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)と「実質消費支出」(家計調査)は前月比横這いと微減であった(図表2)。4月の「消費者態度指数」(消費動向調査)が5か月連続で増加していることから見て、実質消費の実績が増加していないのは、4月の消費者物価が季調済み前月比で+0.5%、前年同月比で+3.5%上昇したことの影響と見られる。
 既に述べたように、「景気ウォッチャー調査」の「先行き判断DI」が6か月振りに低下したことから見て、今後の消費動向が懸念される。
 4月「労働力調査」を見ると、就業者、雇用者は共に2か月連続して増加し、2か月増加していた完全失業者は減少し、失業率も再び低下している(図表2)。期末、期初の転職の動きは一巡し、再び労働力不足が深刻になっている。
 4月の現金給与総額は前年比+1.0%増加したが、実質賃金の前年比は13か月連続で低下を続けている。

【1〜3月期の設備投資は大幅上方修正】
 投資動向を見ると、1〜3月期実質GDP統計の設備投資は、1次速報の前期比+0.9%から2次速報は同+1.4%と大きく上方修正された。これは、1〜3月期の「法人企業統計」の設備投資(名目)が前年比+11.0%と大きく上昇したことを反映したものである。業種別には、自動車新工場建設や電気自動車関連投資で、輸送用機械が前年比+21.2%増となったのが目立つ。
 実質GDP統計の住宅投資は、前期比で、10〜12月期+0.1%、1〜3月期−0.1%とこの半年は5四半期連続の下落から横這いに転じている。

【4月の貿易サービス収支の赤字は大きく縮小】
 最後に外需の動向を見ると、1〜3月期GDP統計の「外需(純輸出)」の成長寄与度は、前期比、名目では+0.4%、実質では−0.3%であった。1〜3月期の貿易サービス収支は、名目(金額)では赤字幅が縮小したが、これはエネルギー関連鉱物(LNG、原油、石炭など)を中心に輸入価格が下落し、名目値の赤字縮小に寄与したためである。しかし実質ではエネルギー関連鉱物の輸入量は依然として多く、実質値の赤字は拡大した。
 GDP統計の「外需(純輸出)」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」の赤字は、4月に3545億円と前月(1兆3893億円)に比し大きく縮小した(図表2)。これは、貿易収支の赤字が3804億円(1〜3月平均が1兆6915億円)と大きく縮小したためである。鉱工業生産・出荷に関連して既に見たように、4月の鉱工業は輸出が前月比+2.9%増、輸入が同+1.3%増であった。また4月の通関統計では、輸出(季調済み)が前月比+2.5%、輸入(同)が同+0.1%であった。
 エネルギー関連の輸入が徐々に落ち着き、輸出は着実に伸びているので、「外需」の成長寄与度は徐々にプラスに転じていくと見られる。