2023年4月版
消費の立ち直りを中心に国内景気の回復は確りしてきたが、世界景気の減速などから企業の先行き感はなお慎重

【個人消費の回復傾向は強まり、鉱工業生産・出荷も落ち込みから急回復、世界景気減速もあり企業はなお慎重
 景気回復の足取りが、やや確りしてきた。コロナ関係の行動制限が解除されていく下で、個人消費関連指標は一斉に回復傾向を強めている。3月の「消費動向調査」の消費者態度指数は各項目が一斉に上向き、12月以来の緩やかな回復テンポが強まってきた。部材不足から1月に落ち込んだ鉱工業生産、出荷は2月に大きく上昇し、3〜4月の製造工業生産予測も上昇を続けると見ている。これらを反映して、2月の景気動向一致指数は6か月振りに大きく上昇した。
 このような動きを反映して、3月の「景気ウォッチャー調査」の景気現状判断DIと先行判断DIは、家計動向と企業動向が揃って上昇した。また3月時点の景気現状に関する「水準判断DI」は、2か月連続して大きく上昇し、コロナ前の19年の水準を上回った。
 3月調査「日銀短観」の全規模の「業況判断DI」は、足許では製造業が悪化、非製造業が好転、先行きは非製造業が悪化、製造業が好転を示すなど総じて慎重である。23年度の全規模全産業の設備投資計画は前年比+4.6%とまだ伸びは低いが、昨年3月調査の22年度計画よりは高い伸びとなっている。設備投資の意欲は衰えていないと見られるが、企業の先行き観は引き続き慎重である。一つには、欧米先進国の景気鈍化や金融不安が響いているのであろう。2月の経常収支の黒字(季調済み)は、1月よりも拡大したが、11月以来の輸出鈍化の傾向は続いている。

【鉱工業生産、出荷は2月以降大きく立ち直る】
 2月の鉱工業生産と出荷は、前月落ち込みの反動で、前月比夫々+4.5%、+3.6%の大幅上昇となり、更に3月と4月の製造工業生産予測も、夫々前月比+2.3%、同+4.4%と続伸する(図表1)。鉱工業生産の実績がこの予測通りに上昇すると仮定すると、2〜4月の3か月の上昇率は+7.1%となり、落ち込み前の12月を+5.6%上回る水準まで回復することとなる(図表1)。実際は、実績が予測を下回るかもしれないが、昨年9月から本年1月まで5か月間続いた部材不足による鉱工業生産、出荷のもたつきは、解消したようだ(図表1)。
 このもたつきと反動回復を演じた主要業種は、自動車、生産用機械、電子部品・デバイスで我が国製造業の主力3業種である。今後、部材不足の解消と春節明けの中国経済の回復・輸出増加に伴って、この3業種を中心に、鉱工業生産、出荷はしばらく続いたもたつきから回復軌道に戻ると見られる。これを反映し、2月の景気動向指標の一致指数は、しばらく続いた足踏み状態から6か月振りに上昇に転じた。
 2月の出荷回復を国内向け出荷と輸出に分けると、国内向けが前月比+2.1%、輸出が同+5.7%であった。また国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が引き続き石油・石炭などエネルギー関連鉱業を中心に前月比−3.6%と減少傾向を辿っているため、全体で同+1.1%にとどまった。

【3月以降、個人消費の立ち直りが顕著】
 国内民間需要の動向(以下指標はいずれも季調済み)を見ると、2月の「家計調査」の実質消費支出は前月比−2.4%の減少、「実質消費活動指数+」(日銀推計)は同+1.1%(図表2)の増加、とちぐはぐの動きとなった。しかし、3月の「消費動向調査」の消費者態度指数は、2月横這いのあと+2.6%とやや大きく上昇し、3月の「景気ウォッチャー調査」の家計行動関連DIも現状は前月差+1.3、先行きは同+3.3と現状、先行き共に確りと上昇した。
 「消費動向調査」の消費者態度指数の内訳を見ると、暮らし向き、収入の増え方、雇用環境などが、いずれも好転している。

【2月は高賃金を目指す転職の増加から失業率が一時的に上昇】
 労働統計で実際の雇用環境を見ると、2月は景気の持ち直しや賃上げへの期待感から新しい求職の動きが広がり、昨年後半以来本年1月まで前年比減少を続けてきた一般職業紹介の新規求職が、珍しく前年比+5.8%の増加となり、反面で増加傾向を辿っていた就業者、雇用者が減少した。このため減少傾向の失業者が増加し、失業率は2.6%と前月比0.2%ポイント上昇する珍現象が起こった(図表2)。
 企業からの新規求人数も前年比+10.4%と大幅に増加しているので、求職数を2.29倍上回っており、3月以降これらの求人と求職がマッチすると見られる。他方賃上げの拡大で賃金上昇率は高まると見られるが、2月現在では、名目賃金はまだ前月比+0.7%、前年比+1.1%にとどまり、消費者物価高騰の折柄、2月の実質賃金は前年比−2.6%と低下を続けている。今後の賃上げ動向と勤労者の転職の動きが注目される。

【循環的、構造的要因から設備投資は根強い増勢】
 次に設備投資の行動を見ると、2月の機械投資の動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比+0.9%と3か月連続して増加し、1〜2月平均の10〜12月平均比は+0.9%となり、緩やかな増加が続いている(図表2)。
 3月調査「日銀短観」と1〜3月調査「法人企業景気予測調査」の22年度設備投資見込み額(ソフトウェア投資を含み、土地投資額を除く)は、前年比夫々+11.1%、同+8.6%、また23年度計画は同+4.6%、同+9.1%であった。このように設備投資が中期的に増勢を維持している理由は二つある。
 まず設備ストック調整に基づく循環変動については、日本の設備投資は13年1〜3月期まで減少傾向を辿り、過剰ストック調整を完了した後、4〜6月期から18年4〜6月期まで上昇局面にあったが、同年7〜9月期から再び過剰ストックの調整局面に入った(18年10〜12月期から20年4〜6月期までの景気後退の主因)。その後過剰ストックの調整を完了し再び20年10〜12月期から新たな上昇局面に入って現在に至っている。現在はその上昇局面の初期に当たる。
 また構造的には、技術進歩、人手不足、地球環境悪化などに伴うDX、GXを始めとする合理化投資のニーズが高まり、現在はその最中である。

【海外景気減速に伴う輸出の停滞とエネルギー資源の輸入増加による貿易赤字は続いているがピークは越えた模様】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、2月に1兆5878億円の赤字となり、前月(2兆2519億円の赤字)および10〜12月の月平均(2兆605億円の赤字)より赤字幅は縮小したが、昨年1〜3月期に比べればなどかなり大きい赤字である(図表2)。
 これは世界景気減速に伴う輸出停滞の下で、エネルギー資源を中心とする輸入の量と価格の水準が依然として高水準を続け、貿易収支の赤字が拡大しているためである。
 1〜3月期の実質成長率は、このような外需に足を引っ張られるため、国内民間需要の立ち直りにも拘らず、なお低い成長率にとどまるのではないかと見られる。