2023年3月版
世界景気の減速から輸出は冴えないが、個人消費の立ち直りと設備投資の根強い増勢により景気は緩やかながら回復を持続

【個人消費の回復基調は広がるも企業部門では回復がややもたつく】
 国内の景気は、コロナ禍に伴う行動規制が漸次緩和、ないしは撤廃される下で、個人消費の立ち直りと企業設備投資の根強い増勢に伴う民間需要の立ち直りを中心に、緩やかな回復を続けている。
 2月の「景気ウォッチャー調査」では、昨年11月から5か月連続して緩やかに下落していた「景気の現状判断DI」がやや大幅な上昇に転じ、下落前のピークである昨年10月の水準を上回った。2月は「家計動向関連」と「企業動向関連」が揃って上昇した。また「雇用関連」は2か月連続して小幅に回復している。
 景気の先行きに関するDIも、「家計動向関連」と「雇用関連」の回復持続から上昇を維持したが、「企業動向関連」はやや下落した。鉱工業生産、出荷は、1月の実績が大幅に下落したあと、2月の予測は大幅な反動増加を見込むなど、部品不足から乱高下している。
 GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」(季調済み)の赤字は、10〜12月期に7〜9月期比でやや縮小したが、1月は輸出減、輸入増に伴う貿易収支の赤字拡大から再び前月を上回った(図表2)。国内民間需要を中心とする緩やかな景気回復が、国際収支の悪化に脅かされる構図が続いている。
 10〜12月期の実質GDPは、2次速報値で1次速報値の前期比+0.2%(年率同+0.6%)から同+0.0%(同+0.1%)に引き下げられた。これは民間消費が前期比+0.3%から同+0.2%に下方修正されたためであるが、在庫投資の異状な落ち込みを除いた基調は、下方修正後の2次速報値でも前期比+0.5%(年率+2.0%)である。

【1月の鉱工業生産、出荷は大幅な落ち込み、2月はその反動で急増の予測】
 1月の鉱工業生産と出荷は、夫々前月比−4.6%、同−3.1%とやや大きく減少した(図表1)。これは、主として自動車、生産用機械、輸送用機械(除、自動車)の前月比−10%前後の落ち込みによるものである。しかし、製造工業生産予測調査によると、これら業種の急激な反動増加を中心に、2月の生産予測は同+8.0%の大幅増加となったあと、3月は同+0.7%のほぼ横ばいとなっている(図表1)。
 2月と3月の鉱工業生産と出荷がこのような推移を辿るとすれば、1月の落ち込みは半導体等の部品不足等による一時的な落ち込みであり、鉱工業生産、出荷の大勢は、昨秋以降、弱含み横這いで推移していると見てよいだろう。

【海外景気減速から鉱工業製品の輸出は弱含み】
 輸出も国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)も、秋以降、弱含みであるが、昨年7〜9月期から本年1月までの落ち込み幅は、輸出が−13.8%、国内向け総供給が−2.9%と圧倒的に海外景気減速を背景とする輸出の落ち込みが大きい。国内向け総供給は2月の反動増次第では、昨秋以降、ほぼ横ばいになる。
 従って、秋以降の鉱工業生産、出荷の弱含みは、主として世界経済の減速を反映した輸出の不振によるもので、国内向け総供給は、ほぼ横ばいで推移していると見られる。今後、国内の消費と設備投資の動向で、これが立ち直るかどうかが、一つのポイントとなろう。

【個人消費の立ち直りは続き雇用も緩やかに回復、物価上昇に伴う実質賃金の低下は深刻】
 そこで国内民間需要の動向を見ると、1月の個人消費(いずれも季調済み)は、「実質消費活動指数+」(日銀推計)が前月比+1.2%(図表2)、「家計調査」(2人以上の世帯)の実質消費支出が同+2.7%といずれも回復した。2月の「消費動向調査」の「消費者態度指数」も、3か月連続して上昇している。
 コロナ後の消費活動は、緩やかながら着実に回復しているようだ。
 背後の賃金・雇用動向(季調済み)を見ると、1月の就業者、雇用者は前月に続いて増加し(図表2)、失業者の減少から1月の完全失業率は2.4%に低下した(図表2)。
 しかし1月の現金給与総額は、前年比では+0.8%増加したものの、季調済み前月比は2か月連続して減少し、ましてや実質賃金は、消費者物価の高騰持続から前月比−4.1%も下落している。春以降の賃上げによって、どの程度賃金が回復するかが注目される。

【設備投資は緩やかながら根強く増加、住宅投資に下げ止まり気配】
 国内の投資動向を見ると、機械投資の動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、1月に前月比+6.1%と2か月連続して増加したが、昨年7〜9月期のピーク水準を僅かに下回り、この半年間大勢横這いで推移している。実質GDP統計の設備投資は、コロナ禍で落ち込んだあと、時折足踏みしながらも、緩やかな回復傾向を辿っている。昨年10〜12月期は2四半期増加のあと一服した(図表3)。先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)の1〜3月期見通しは、前期比+4.3%の増加となっている。
 他方、実質GDP統計の民間住宅投資は、昨年10〜12月期まで6四半期連続して減少しているが、下落テンポは次第に弱まっている。先行指標の新設住宅着工戸数(季調済み)は、12月に多少増加に転じたのに続き、1月は大きく増加して、これまでのピーク水準を記録した(図表2)。これは一時的な事情によるものと見られるが、アフターコロナの個人消費の立ち直りと合わせて考えると、住宅投資も立ち直りの転換点にさしかかっているのかもしれない。

【1月の貿易・サービス収支の赤字は、中国の春節のズレから輸出が大きく減少し一時的に拡大】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、10〜12月期の赤字がやや縮小し、実質GDP統計でも「純輸出」が成長に対しプラス寄与となったが、1月の貿易・サービス収支は、再び前月比で拡大した(図表2)。これは、昨年10月をピークに輸入の減少から縮小傾向を示していた貿易収支の赤字が、再び増加したためである。
 1月の貿易収支の赤字拡大は、輸入の減少持続にも拘らず、それを大幅に上回る輸出の減少が生じたためである。これは中国の春節(旧正月)が例年より早まったことにより、月中の物流や工場の停止が例年より大規模となり、中国向けの輸出が大きく落ち込んだためである。因みに1月の税関統計によると、中国向けの輸出は前年比−17.1%落ち込んでいるが、この間米国やEU向けの輸出は夫々同+10.2%、同+9.5%と増勢を維持した。
 2月以降、輸出は回復しているが、世界景気の減速もあり、今後の外需の動向には目が離せない。