2022年12月版
緩やかな景気回復が続くが、資源輸入と円安で10月の貿易収支は最大の赤字、物価上昇に伴う実質所得減少から家計の先行き感は弱気化

【円安修正で貿易赤字が縮小しないと7〜9月期に続き10〜12月期もマイナス成長の恐れ】
 国内需要は7〜9月期まで4四半期連続してプラス成長を続けているが、エネルギー資源を中心とする輸入増加と円安から貿易収支の赤字が大幅に拡大し、7〜9月期は前期比−0.2%(年率−0.8%)のマイナス成長となった(2次速報値)。10月の国際収支統計でも、輸入増加の持続から貿易収支は過去最大の赤字となった。
 11月の「景気ウォッチャー調査」では、「景気の現状判断DI」が3か月振りに低下し、「景気の先行き判断DI」は、2か月連続して低下した。これらはいずれも「家計動向関連」の小売・飲食・サービスのDIが、低下したためで、「企業動向関連」と「雇用関連」は「現状判断」も「先行判断」もDIは上昇を続けている。
 家計の弱気化は、消費者物価上昇に伴い実質所得が低下し、生活が圧迫されていることによる心理的な側面が強いと見られる。10月の消費関連指標は回復を続けているが、「消費動向調査」の「消費者態度指数」」は9〜11月と悪化を続けていることにそれが窺われる。
 企業活動と雇用情勢は、振れを伴いながらも回復を続けている。設備投資も引き続き増勢を保っている。
 10〜12月期は、実質国内需要が5期連続のプラス成長となる可能性が高いが、円安の修正などにより、11、12月に貿易赤字拡大に歯止めが懸らないと、7〜9月期と同じように10〜12月期も成長が足踏みする恐れがある(図表3)。

【鉱工業生産と出荷は9、10月と足踏み】
 10月の鉱工業生産と出荷は、それぞれ前月比−2.6%、同−1.1%と、いずれも2か月連続して減少した(図表1)。日中のサプライチェーン復旧に伴う6〜8月の生産(+13.9%増)出荷(+9.3%)の急増の反動がまだ続いている。またスマホ需要の減少から生産用機械(半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置等)の生産が前月比−5.4%、出荷が同−6.1%減少し、電子部品・デバイス(集積回路、電子部品等)も生産が同−4.1%、出荷が同−4.0%と一時的にやや大きく減少したことも響いた。
 しかし製造工業生産予測調査によると、先行き11月は前月比+3.3%増、12月は同+2.4%と再び上昇軌道に戻る見込みで、鉱工業生産が仮にこのテンポで回復すると仮定すると、10〜12月期は7〜9月期の急回復(前期比+5.8%)に続き、前期比+0.3%と僅かに上昇し、増勢持続の形となる(図表1)。

【鉱工業製品も輸入増、輸出頭打ち】
 10月の出荷減少を国内向けと輸出に分けると、国内向けは生産用機械の減少を中心に前月日−0.5%の減少、輸出は電子部品・デバイスの減少を中心に同−1.5%の減少となっている。
 他方、国内向け出荷に輸入を加えた国内総供給は、輸入が電子部品・デバイスとエネルギー関係(石油、石炭、LNG)を中心に前月比+6.5%増と3か月連続してやや大きくしたため、全体で前月比+1.7%増と2か月振りの増加となった。このため、10月の鉱工業製品の輸出入バランスは、やや赤字幅を拡大した。

【家計消費は増加しているが、家計の先行き感は弱気化】
 国内需要の動向をみると、個人消費は9月に続き10月も拡大している。即ち、10月の日銀推計「実質消費活動指数+」(季調済、以下同様)は99.7と前月比+2.0%の増加(図表2)、家計調査(2人以上の世帯)の実質消費支出指数は103.3と前月比+1.1%の増加と、いずれも2か月連続して増加した。
 しかし、11月の「消費動向調査」を見ると、「消費者態度指数」は9月から11月まで、一貫して悪化している。これは指数を構成する「意識指標」(「暮らし向き」など)が悪くなっているためで、背後には消費者物価指数の上昇率の高まり(前年比7月+2.6%→10月+3.7%、図表2)があると見られる。
 10月の現金給与総額は前年比+1.8%上昇しているが、消費者物価の上昇を差し引いた「実質賃金指数」は前年比−2.6%の減少である。
 10月の雇用者数は3か月振りにやや減少した(図表2)。完全失業率は2.6%で横這いである(図表2)。雇用情勢はとくに悪化している訳ではないので、個人消費に勢いが見られなくなっているのは、主として物価上昇の影響であろう。

【設備投資は増勢持続、住宅投資は下げ止まりの気配】

 投資動向を見ると、機械投資を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、10月に前月比+3.9%、7〜9月平均比+2.3%と増加し、増勢を続けている(図表2)。GDP統計で4〜6月期、7〜9月期と2期連続して増加した設備投資は、10月にも引き続き増勢を保っていると見られる。先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4〜6月期急増(前期比+8.1%)の反動から7〜9月期は同−1.6%と減少したが(図表2)、10〜12月期の見通しは、前期比+3.6%と増勢に戻っている。
 民間住宅投資は、GDP統計で7〜9月期まで5四半期連続して減少傾向を辿ってきたが、先行指標の新設住宅着工戸数は、7月を底に増勢に転じ(7〜9月期は前期比+0.9%)、10月も前月比+1.5%、7〜9月平均比+1.2%と増加した(図表2)。GDP統計の住宅投資も10〜12月期には、底入れするかもしれない。

【10月の貿易収支の赤字は過去最大】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」(季調済、以下同じ)は、9月に赤字幅を前月比5357億円縮小したが、10月には再び赤字幅を前月比3186億円拡大した(図表2)。これはLNG、石油などを中心とするエネルギー資源の輸入拡大が続き、円安もピークに達したことから、貿易収支の赤字が2.2兆円とこれまでの最大となったためである。
 7〜9月期の実質GDP(2次速報値)は、国内需要の成長率寄与度が前期比+0.4%のプラス成長であったにも拘らず、純輸出のそれが赤字拡大で同−0.6%となったため、−0.2%(年率−0.8%)のマイナス成長となったが(図表3)、10月はまだその傾向が続いている。
 11〜12月に円安の若干の修正で貿易収支の赤字拡大が止まらないと、10〜12月期は2期連続してマイナス成長となる可能性があるが、果たしてどうなるであろうか。