2022年11月版
実体経済はコロナ禍前の水準を回復しつつあるが、企業、家計の先行き感は明るくない
【「景気ウォッチャー調査」の先行判断や「消費動向調査」の態度指数は低下】
6月以降の鉱工業生産、出荷の急回復は9月に入って一服したが、水準はほぼコロナ禍前まで回復した。7〜9月期の実質GDP(11月15日公表)も、ほぼコロナ禍前の水準まで回復したのではないかと思われる。
しかし、10月の「景気ウォッチャー調査」の「景気の先行判断DI」が、ここへきて低下に転じたことに窺えるように、家計や企業の先行き感はやや慎重になっている。
主要先進国の相次ぐ利上げに伴う景気後退懸念と、中国経済の停滞から、企業の世界景気の先行き感は慎重化しており、国内では「消費動向調査」の「消費者態度指数」の低下に窺えるように、消費者物価上昇に伴う実質所得の低下から、コロナ規制の緩和にも拘らず、消費者の先行き感は明るくない。
現状、国内の実体経済が悪化している訳ではないので、今後どちらに転ぶか注目される。
【鉱工業生産、出荷の急回復は一服】
9月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−1.6%、−2.4%と4か月振りの減少となった。日中サプライチェーンの寸断による原材料不足が解決した6月以降8月迄、生産は13.9%、出荷は9.3%と急増したが、ここへきて一服したと見られる。それでも、7〜9月期は生産が前期比+5.9%増、出荷は同+4.1%の大幅増加となり、コロナ禍発生直前の19年10〜12月期の水準に近づいている(図表1)。
製造工業生産予測調査によると、10月は前月比−0.4%減、11月は同+0.8%増と、しばらくこの水準で横這いとなる気配である(図表1)。
9月の出荷(前月比−2.4%)を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比−4.1%と4か月振りの減少、輸出は+4.4%と前月減少(同−5.4%)のあと再び増加に戻った。国内向け出荷の減少に大きく寄与した業種は輸送機械(乗用車、鉄道車両等)、輸出の増加に大きく寄与した業種は電子部品・デバイス、生産用機械であった。
【足許の消費は回復しているが、物価上昇に伴う実質所得の減少もあって先行きは慎重】
9月の「消費活動指数」(日銀推計)は前月比+1.5%、「家計調査」(2人以上の世帯)の実質消費支出は前月比+1.8%と、共に3か月振りに増加した(いずれも季調済、以下同じ)。しかし、いずれの調査もコロナ禍第7波の余波で7月、8月が減少したため、7〜9月期の前月比はそれぞれ−0.4%、−1.6%と共に減少した。
10月の「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」は、「家計動向調査」を中心に、前月比+3.1%と引き続き上昇したが、「景気の先行判断DI」は前月比−5.7%と低下した。10月の「消費動向調査」の「消費者態度指数」も、前月比−2.9%低下した。「先行判断」や「消費者態度」が弱いのは、3%前後の消費者物価上昇(図表2)で勤労者の実質賃金や年金生活者の実質所得が低下を続けているため、先行きの消費に自信が持てなくなっているためと思われる。コロナ禍に伴う飲食、旅行、その他対面サービスの規制緩和のプラスの影響と、消費者の慎重な判断のどちらが強いか、今後が注目される。
雇用・賃金の動向を見ると、9月の就業者数、賃金(共に季調済)はいずれも前月に比し増加したが、消費者物価の上昇率が前年比+3.0%、季調済前月比+0.3%と大きいため、実質賃金は前年比−1.3%、季調済前月比−1.8%といずれも4月以来の低下を続けている。
【設備投資は引き続き堅調】
設備投資の動向を見ると、機械投資を反映する資本財(除、機械輸送)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前2か月急増の反動で9月は前月比−2.9%と減少したが、7〜9月期の前期比は+5.1%の大幅増加となった(図表2)。
先行指標の機械受注(民需、除船舶、電力)は、前月大幅増加(前月比+5.3%)の反動で8月は前月比−5.8%と減少したが、7〜8月の平均水準は、大きく増加した4〜6月期の平均並みで(+0.9%)、引き続き高水準を続けている(図表2)。
実質GDP統計の住宅投資は、1年間減少を続けてきたが、先行指標の住宅着工戸数が7〜9月期に小幅上昇(+0.9%)したことから判断すると(図表2)、ぼつぼつ下げ止まるのではないかと見られる。
【9月の貿易・サービス収支の赤字は縮小したが、7〜9月期では大幅な赤字】
最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、9月に2兆4024億円の赤字と前月(2兆9381億円の赤字)よりも赤字幅を縮小した。これは、輸出が自動車、半導体等電子部品を中心に前月比+1.1%増加した半面、輸入が石油製品・石炭・LNGなどの数量頭打ちから前月比−1.1%の減少となり、貿易収支の赤字が19,155億円(前月比2092億円減少)と縮小した上、サービス収支の赤字も前月比3265億円減少したためである。
しかし、7〜9月期の貿易サービス収支は、7月、8月の赤字幅が大きかったため、7兆7665億円に達し、前期比+66.2%の赤字となった(図表2)。このため、7〜9月期の実質成長率は、外需によって大きく引き下げされたと見られる。