2022年10月版
景気は設備投資、個人消費など国内民需に主導され、着実に回復しているが、先行きには世界景気後退、国内物価上昇持続などの不安材料

【実質GDP、鉱工業生産などはコロナ禍前の水準へ】
 日本経済は、日中サプライチェーンの寸断から5月に足踏みしたあと、6月から再び順調に立ち直っており、7〜9月期の実質GDP(未発表)はようやくコロナ禍直前の水準を超え、前回景気上昇期のピーク(18年4〜6月期)に近づきつつあると見られる。
 コロナ禍に伴う行動制限が徐々に緩和され、旅行などの個人消費やインバウンドの復活が先行き期待されている。また企業の設備投資が、ストック調整完了後の自律回復とDX、GXなどのソフトウェア投資の増加から着実な回復歩調を辿っている。
 今後の回復持続を脅かすものは、欧米先進国と中国を中心とする世界の景気後退と、世界インフレに伴う輸入コストプッシュから始まった国内消費者物価の上昇、これに伴う実質所得の減少がいつまで続くかである。9月の「景気ウォッチャー調査」では、「景気の現状判断DI」は上昇を続けているが、「先行き判断DI」は僅かに低下した。

【生産、出荷は資本財を中心に回復持続】
 8月の鉱工業生産と出荷は、前月比、夫々+2.7%、+1.9%と3か月連続して増加し、6月以来の回復が持続している。製造工業生産予測調査によると、9月は同+2.9%、10月は同+3.2%と更に回復は続く予想である。これで生産はコロナ禍発生直前の水準(19年第4四半期)を抜き、過去最高となった前回景気上昇期のピーク(18年第4四半期)に迫っていく(図表1)。
 回復を主導する業種は、生産用機械、電気情報通信機械、輸送機械(除、自動車)などを中心とする資本財である。背後に国内設備投資の着実な回復がある。

【鉱工業製品の国内総供給はコロナ禍前の水準に戻った】
 8月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けてみると、国内向けは資本財を中心に前月比+3.9%の伸びとなったが、反面輸出は輸送機械、電子部品・デバイスなどを中心に−5.4%の減少となった。
 また国産品の国内向け出荷に輸入を加えた国内への鉱工業総供給は、輸入も原粗油・石炭・LNGなどのエネルギー関係を中心に前月比+1.1%の増加となったため、全体では前月足踏み(前月比−0.1%)のあと同+2.9%と再び増加した。これで5月の落ち込みから+6.8%回復し、コロナ禍前の水準(19年10〜12月)まで戻ったことになる。

【コロナ禍第7波の余波と消費者物価上昇に伴う実質所得減少から個人消費の立ち直りは足踏み】
 国内需要の動向を見ると、8月の家計調査の「実質消費」と日銀試算の「実質消費活動指数+」(共に季調済)は、いずれも前月比減少した(図表2)。また9月の消費動向調査の「消費者態度指数」は、前月上昇のあと再び低下した。コロナ禍第7波が収束していないため、対面型消費や旅行などが十分に立ち直っていない上、消費者物価上昇に伴う実質賃金低下(8月は前年比−1.7%と4月以来5か月連続の低下)を背景に、「家具・家事用品」(家庭用耐久財、室内装備・装飾品など)、「光熱・水道」(ガス代、上下水道料など)を中心に節約が行われている。
 賃金・雇用動向を見ると、製造業の生産回復を背景に、8月の雇用者は4か月振りに増加に転じ、完全失業率は、完全失業者の減少もあって2.5%と前月比−0.1%ポイント低下した(図表2)。8月の現金給与総額は、季調済前月比+0.7%増、前年同月比+1.7%と増加した。しかし、8月の消費者物価は前年比+3.0%も上昇しているので、前述の通り、実質賃金は低下し、家計の消費は慎重化している。

【8月の資本財(除、輸送機械)国内総供給は前回景気回復期のピークを上回った】
 投資動向を見ると、機械投資の動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月に前月比+7.4%と急回復したあと、8月も同2.2%と増加した(図表2)。資本財の国内総供給は21年度平均(108.8)で既にコロナ禍前の19年7〜9月期(105.5)を上回っていたが、8月(117.5)は単月の記録としても前回のピーク(19年9月112.6)を+4.4%上回った。機械投資の回復は顕著であり、当面の日本経済回復のけん引力となっている。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4〜6月期に前期比+8.1%増加したあと、7月も前月比+5.3%の増加となった。

【本年度設備投資計画は順調な伸び】
 7〜9月期「法人企業景気予測調査」によると、本年度の設備投資額(ソフトウェア投資を含み、土地購入額を除く)は前年比+16.2%増、9月調査「日銀短観」によると、全産業(製造業、非製造業、金融機関)の本年度設備投資額(同)は前年比+15.2%増と、いずれも高い伸びを計画している。このうち「日銀短観」のソフトウェア投資額(全産業)は、前年比+20.2%増と特に高い伸びとなっている。DX、GXを始めとする企業の合理化投資を反映したものと見られる。
 実質GDP統計の住宅投資は、昨年7〜9月期から本年4〜6月期まで減少を続けているが、先行指標の新設住宅着工戸数は、8月に903千戸(前月比+9.4%)と、久方振りに大きく増加した(図表2)。今後の推移が注目される。

【8月の貿易・サービス収支の赤字は拡大】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、8月も2兆9381億円の赤字と前月より赤字幅を+5121億円拡大した。これで赤字は15か月続いている。
 これは、貿易収支とサービス収支がいずれも赤字幅を拡大したためであるが、共通の背景は円安の進行が数量ベースの輸出増・輸入減や旅行などのサービス収支の改善を招かず、もっぱら金額ベースの支払い増加を招いているためである。
 9月の国際収支統計はまだわからないが、7〜9月期の実質GDPの「純輸出」は、3四半期連続のマイナスとなろう。しかし国内需要は、底固い設備投資、立ち直りを続ける個人消費、増加する政府経常支出に支えられて4四半期連続の増加となり、成長率も4四半期連続のプラスとなってコロナ禍前(19年10〜12月期)を超え、前回景気回復期のピーク(18年4〜6月期)に近づいていくことになろう(図表3)。