2022年8月版
日中サプライチェーン復旧で製造業は回復、反面コロナ禍第7波でサービス業は悪化、この間貿易収支の赤字拡大は続く

【6月以降製造業は回復の反面、非製造業は再び悪化】
 日中サプライチェーンの復旧につれて、6月の鉱工業生産、出荷は大きく増加し、7月と8月も回復が続いて、前回景気上昇期のピーク(18年初)の水準に近づく見込みだ(図表1)。製造業の動向を強く反映する「景気動向指数」の一致指数は、5月に落ち込んだ(前月比−1.6%)あと、6月は大きく上昇した(同+4.3%)。
 製造業の動きを反映して、6月の就業者数(季調済)や常用雇用指数(同)も前月比増加し、現金給与総額(同)は3か月振りに前月を上回った。ただし、消費者物価が前年比2%台の上昇を続けているため、実質賃金の前年比は3か月続けて前年を下回っている。
 他方、コロナ禍第7波が進行しているため、行動制限のない夏の行楽期を控えているとは言え、飲食など対面型消費や旅行などを中心に、6月以降個人消費は頭打ちから減少に転じている。4月以降前年比2%超の上昇を続けている消費者物価の影響で、実質賃金の前年比も4月以降減少しており、消費行動に響き始めている。4月、5月と回復していた消費者態度指数は、6月、7月と下落に転じ、家計動向を強く反映する「景気の現状判断DI(季調済)」(景気ウォッチャー調査)は、5月まで上昇を続けたあと、6月と7」月は低下した。
 この間、エネルギー価格の上昇と円安に伴う輸入の増加から、4月以降の貿易収支赤字は拡大し、これを主因とする貿易サービス収支の赤字拡大傾向は6月も続いている(図表2)。4〜6月期の実質成長率は外需に大きく下押しされると見られる。

【日中サプライチェーンの修復から6月の鉱工業生産、出荷は大幅に増加】
 6月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々+8.9%、+4.6%といずれも大幅に増加した(図表2)。これは前月に、中国におけるコロナ感染症の急激な蔓延に伴い、ゼロコロナ政策による都市封鎖で工場の操業停止が相次ぎ、日本に部品を供給するサプライチェーンが途切れ、部品不足から日本の鉱工業生産と出荷が夫々前月比−7.5%、同−4.1%と大幅に下落した反動である(図表1)。
 日中サプライチェーンの正常化から、主力業種の生産は前月の減少から反動増に転じ、例えば自動車は前月の前々月比−8.0%減から当月の前月比+14.0%増へ、電気・情報通信機械は同−17.3%減から同+11.0%増へ、電子部品・デバイスは同−4.2%減から同+11.4%増へ、生産用機械は同−5.1%減から同+7.4%増へと様変わりの増産となった。
 前々月の4月にも、鉱工業生産は部品不足から前月比−1.5%の小幅減少(図表1)となっていたこともあり、この2か月分の減産の反動増加はこれでも終わらず、今後も続く見込みで、製造工業生産予測調査によれば、7月は前月比+3.8%増、8月は同+6.0%増となっている。鉱工業生産の実績が、製造工業の生産予測調査通りに増加するとは限らないとしても、夏には鉱工業生産が前回景気上昇期のピーク(18年初)の水準まで回復する可能性はある(図表1)。

【国産品の国内向け出荷と輸出も共に大幅な回復】
 6月の鉱工業出荷(前月比+4.6%)を国内向けと輸出に分けると、生産の正常化から国内向けは前月比+3.5%と2か月振りの増加、輸出は同+7.3%と3か月振りの増加といずれも大きく回復した。とくに大きく増加した業種は、国内向け、輸出ともに輸送用機械(乗用車、車体・自動車部品=国内向け、船舶・同機関=輸出)、電気・情報通信機械、電子部品・デバイス、更に国内向けについては生産用機械、輸出については汎用・業務用機械で、いずれも日本の主力業種であり、日本にとって中国とのサプライチェーンがいかに重要であるかを物語っている。
 また国内向け出荷に輸入に加えた6月の国内向け鉱工業製品総供給は、前月減少(前月比−4.2%減)のあと同+3.5%と増加したが、増加幅はやや小幅にとどまった。これは、汎用・業務用機械の大幅輸入減少(前月比−36.5%)から、輸入全体が同+2.0%の小幅増加にとどまったためである。

【4〜6月期の個人消費は1〜3月期の落ち込みから回復】
 国内需要の動向を見ると、生産の回復につれ、6月の常用雇用(季調済)は前月比+0.5%と増加し、現金給与総額(同)はボーナスの回復もあって同+0.7%の増加となった。これを背景に家計調査の実質消費支出(同)は、前月比+1.5%の増加となった。また四半期ベースでも、1〜3月期に前期比−1.8%の落ち込みとなったあと、4〜6月期は同+2.0%の回復となった。
 日銀試算の「実質消費活動指数+」も、6月に前月比横這いとなったが、4〜6月平均は前期比+2.1%とはっきりと消費の立ち直りを示している。1〜3月期にコロナ禍第6波でやや落ち込んだ個人消費は、4〜6月期には落ち込み分を取り戻して回復した。しかし6月から8月にかけ、再びコロナ禍第7波で感染者が急増しているが、今回は行動規制をしないので、消費行動にどの程度響くか注目される。

【4〜5月の機械受注は高水準】
 投資動向をみると、6月の機械投資を反映する資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、日中サプライチェーンの寸断からある程度回復し、国産品の出荷は前月の前々月比−5.4%の減少から、前月比+7.3%の増加に大きく回復した。しかし輸入が内容不明ながら同−10.0%と大幅に下落したため、国内向け総供給全体で−1.7%と続落した。6月の通関統計では、対中国輸入は前月比+33.3%と大幅に回復しており、輸入全体も同+46.1%(数量ベースは同+1.3%)と増えているので、経産省の統計との不突合は原因不明である。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4月に前月比+10.8%と大きく増加した反動で5月は同−5.6%と減少したが(図表2)、4〜5月平均の1〜3月平均比は+8.8%とかなり増加している。1〜3月期に4四半期振りに減少した機械受注は、4〜6月期に再び立ち直る可能性があり注目される。

【住宅投資は4〜6月期に下げ止まるか】
 住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数は、6月に845千戸と前月比+2.1%の増加となったが、4〜6月期をまとめて見ると、前期を−2.3%下回っている。しかし前期(1〜3月期)は前々期を+2.1%上回っているので、ならして見ると、本年上期は前年下期を+0.3%上回っている(以上図表2)。従って、昨年7〜9月期から本年1〜3月期まで3四半期連続して減少してきた住宅投資は、本年4〜6月期には下げ止まり、ないしは微増に転じる可能性がある。

【貿易・サービス収支の赤字拡大続く】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易サービス収支」は、6月も1兆8320億円の赤字と3か月連続して赤字幅を拡大した(図表2)。これは、貿易収支の赤字が輸出増加を上回る輸入の増加で拡大しているためである。
 6月の関税統計を見ると、輸出は自動車、半導体等電子部品、同製造装置などを中心に増加しているが、原粗油、石炭、LNGなどエネルギー関係の輸入金額が値上がりと円安で大きく膨らんでいるため、金額ベースの赤字が続いている。
 数量ベースの赤字は金額ベースで見る程は拡大していないが、4〜6月期の実質GDP統計の「純輸出」は減少を免れないのではないかと見られる。