2022年7月版
食料品、エネルギーを中心とする根強い消費者物価上昇で、消費者の態度に戸惑い。日中サプライチェーン混乱の影響は収まる方向

【中国経済混乱の影響で5月の生産、出荷、輸出が下落。根強い物価上昇で消費に変化か】
 個人消費と設備投資を中心に国内民間需要の立ち直りは景気回復全体を支えているが、中国のコロナ感染症拡大に伴う上海市全域と北京市一部の都市封鎖に伴い、日中のサプライチェーンが混乱し、5月の鉱工業生産、出荷、輸出が大きく落ち込んだ。他方、輸入はエネルギー価格の高騰と円安で膨らんでいるため、5月の貿易収支の赤字は引き続き拡大している。
 本年度の設備投資計画は、技術革新投資を中心に高い伸びとなっている。他方、個人消費は、ここへきて食料品とエネルギーを中心とする根強い価格上昇(4、5月の全国消費者物価はいずれも前年比2.5%上昇)に伴い、さすがに戸惑いを見せており、6月の消費者態度指数(消費動向調査)や家計動向関連「景気の現状判断DI」(景気ウォッチャー調査)は3か月振りに低下した。
 日中のサプライチェーンの正常化につれ、鉱工業生産、出荷は回復してくると思われるが、根強い物価上昇に伴う消費態度の変化と世界インフレや欧米の利上げの下で続く貿易収支、経常収支の悪化が今後どうなるか、注目される。

【中国のロックダウンに伴う部品の供給不足で、5月の生産、出荷は大幅に減少】
 5月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々−7.2%減、同−4.3%減といずれも大幅に下落した(図表1)。1か月前に公表された製造工業生産予測調査では、5月は前月比+4.8%増であったから、この1か月間に企業が予期していなかった事態が発生したための生産減、出荷減であることは明らかである。
 これは中国でコロナ感染症が急激に蔓延し、ゼロコロナ政策の下、上海市の都市封鎖(ロックダウン)と北京市の一部封鎖が行われ、工場の操業が停止したため、日本への部品輸出が途絶し、日本の製品工場の操業が低下したためである。
 サプライチェーン中断で減産を余儀なくされた業種は、自動車(生産は前月比−8.0%減)、電機・情報通信機械(同−17.3%減)、生産用機械(同−5.1%減)、汎用・業務用機械(同−5.2%減)科学(除無機・有機学業・医療品、同−7.9%減)などである。
 上海市の都市封鎖と北京市の一部封鎖は6月に解除され、生産活動は上向いており、日本とのサプライチェーンも正常化しつつある。6月の製造工業生産予測調査では、前月比+12.0%の大幅増加を予測しているが(図表1)、果たしてどうなるであろうか。

【生産の減少に伴い輸出も減少】
 5月の出荷(前月比−4.3%)を国内向けと輸出に分けると、国内向けは同−4.8%減、輸出は同−3.1%減と、自動車、各種機械などの大幅減産を受けて、双方とも落ち込んだ。
 他方、輸入は中国からの部品輸入が大きく落ち込んだため、他地域からの電機・情報通信機械(前月比+9.8%)、電子部品・デバイス(同+6.7%)などの輸入は増えたものの、全体として同−0.4%の小幅減少となった。
 この結果、国産品の国内向け出荷と輸入を合計した5月の国内向けの鉱工業製品の総供給は、前月比−4.4%と2か月振りの低下となった。
 6月以降の鉱工業製品の生産、輸出を含む出荷が正常化するか、注目される。

【食料品とエネルギーの価格上昇で6月の消費者態度指数は3か月振りに低下】
 国内需要の動向を見ると、3月以降立ち直りを続けている個人消費は、5月も「実質消費活動指数+」(日銀推計)が3か月連続で上昇する(図表2)など回復基調を維持している(図表2)。
 6月の猛暑で夏物家電などの動きが早まっている。しかし生鮮食品(5月は前年比+12.2%値上がり)を筆頭に食料品の値上がり(同+4.0%)が目立ち、エネルギー価格の上昇に伴う光熱・水道費の上昇(同+15.7%)も加わって、5月の全国消費者物価は4月に引き続き前年比2.5%上昇している。
 この結果、実質賃金指数は、4月(前年比−1.7%)に続き、5月も同−1.8%と2か月連続して前年を下回っている。
 このような物価上昇は今後も根強く続くと見られ、これに伴い消費動向に陰りがさしてくることが心配される。
 6月実施の「消費動向調査」では、6月の「消費者態度指数」が3か月振りに前月比減少した。、また6月の「景気ウォッチャー調査」の家計動向関連「景気の現状判断DI」も、3か月振りに低下した。

【本年度の設備投資計画は高い伸び】
 設備投資の動向を見ると、機械投資を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、4月に前月比+6.6%と大きく増加したが、5月は前述した中国とのサプライチェーン寸断の影響で同−4.6%と減少した(図表2)。
 先行指標の機械受注(除、船舶・電力)は、1〜3月期に前期比−3.6%と4四半期振りに減少した反動もあって、4月(前年比+7.1%)に続き5月も同+10.8%と大きく増加した(図表2)。
 本年度の設備投資計画(ソフトウェア投資を含み、土地投資を除く)は、4〜6月期調査「法人企業景気予測」では、前年比+16.0%増(前年実績同5.3%増)、6月調査「日銀短観」では同+13.5%増(同+0.9%増)と、いずれも昨年度よりも大きく伸びを高める計画となっている。

【国際的なエネルギー価格高騰と円安で輸入額が大きく膨らみ、貿易収支の赤字は引き続き拡大】
 最後に外需の動向を国際収支によって見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する5月の貿易・サービス収支(季調済)は、1兆4461億円の赤字と前月より赤字幅をやや拡大した(図表2)。これは、エネルギー価格の高騰と円安に伴い、引き続き輸入額の伸び(前月比+5.9%)が輸出額の伸び(同+4.1%)を上回り、貿易赤字が拡大しているためである。
 4〜6月期の実質GDPは、個人消費、設備投資を中心とする国内民間需要に支えられてプラス成長に戻ることが期待される。しかし、1〜3月期には「純輸出」が−0.4%の成長寄与度となって、国内需要の+0.3%の寄与度を上回り、マイナス成長となっただけに(図表3)、4〜6月期の貿易・サービス収支の赤字拡大がどの程度になるか、注目される。