2022年6月版
国内景気は順調に立ち直っているが、インフレ進行と経常収支悪化が今後の不安材料

【3〜5月と消費回復が続き、4〜6月期の実質GDPはコロナ前の水準へ】
 コロナ禍第6波の緩やかな収束を受けて、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除された下で、個人消費を中心に国内民間需要の立ち直りが進んでいる。5月の「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」(季調済み)では、家計動向関連、企業動向関連、雇用関連が揃って3〜5月の3か月間連続して好転した。また「景気の先行き判断DI」(同)は、2〜5月の4か月間、連続して上昇した。
 1〜3月期の実質GDPの第2波速報は前期比−0.1%(年率−0.5%)の微減となったが(図表3)、4〜6月期の実質GDPは、個人消費、設備投資など国内民間需要の立ち直りを主因に前期比1%弱(年率3%前後)のプラス成長となりそうだ。これでほぼコロナ禍発生直前の19年10〜12月期の水準に戻りそうである。ただし、今回景気後退前のピーク(19年7〜9月期)に達するのは、本年後半であろう。

【懸念材料は国際環境―世界インフレの高進と交易条件悪化】
 こうした日本経済のポストコロナの立ち直りを脅かしているのが、国際環境である。
 一つは中国のゼロコロナ政策による上海や北京などの都市封鎖に伴い、中国経済の減速と中国を含むグローバル・バリュー・チェーンの混乱が生じていることだ。日本はこの影響を受け、4月の製造工業生産予測調査は前月比+5.8%であったにも拘らず、4月の鉱工業生産の実績は同−1.3%に落ち込んだ(図表1)。
 中国を起点とするこの混乱は次第に収まってくると思われるが、より持続的で深刻な海外環境は、ウクライナ軍事侵攻の長期化に加速された世界インフレの高進である。低金利を続ける日本と利上げを進める米欧との金利差拡大による円安も加わって、4〜5月の円建輸入物価は前年比+42〜43%上昇し、この輸入コストプッシュで、4月の消費者物価は同+2.1%と遂に2%の物価安定目標を超えた。今後は予想物価上昇率の上昇を伴いながら、国内の広範な価格の値上げが誘発され、国産インフレに転化しながら長期化しないか、十分な注意が必要である。
 更に、世界インフレの進行は、資源小国日本の輸入額を、交易条件悪化を伴いながら増加させる。このため4月の経常収支は大きく悪化したが、これが続くと、4〜6月期以降の日本経済の成長の足が引っ張られる恐れがある。

【中国経済の影響で4月の生産は減少】
 4月の鉱工業生産は、前月比−1.3%と3か月振りに減少した(図表1)。これは前述の通り、中国の生産や物流の停滞に伴う部品不足により日本国内の電機部品・デバイス、生産用機関、自動車などの生産が減少したためである。4月の出荷も、生産と同じ理由から前月比横這いにとどまった(図表1)。
 製造工業生産予測調査によると、これらの業種の生産回復から、5月は前月比+4.8%、6月は同+8.9%の大幅上昇を見込んでいるが、果たしてどうなるであろうか(図表1)。
 4月の出荷を国内向けと輸出に分けると、上記業種の生産低下が大きく響いた輸出は、前月比−1.9%と3か月振りの減少となった。国内向け出荷は同+1.1%の増加であった。
 この国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内総供給は、輸入が鉱工業製品(石炭、LNG、原粗油)の前月比+18.2%増を中心に同+3.6%と増加したため、全体で同+2.5%の増加となった。この輸入増加は、上述の輸出減少と相まって、後述の貿易収支悪化をもたらすこととなった。

【個人消費の順調な立ち直り続く】
 国内需要の動向を見ると、3月から立ち直り始めた家計消費は、5月連休以降6月に入っても順調に回復を続けている。「実質消費活動指数+」(日銀試算、図表2)と「家計調査」の実質消費支出(いずれも季調済み)は、4月までの回復しか公表されていないが、「消費動向調査」(同)の消費者態度指数は5月の回復持続を伝えている。5月の「景気ウォッチャー調査」の家計動向の回復の中身を見ると、飲食関連の回復が最も大きく、次いで旅行などのサービス関連の回復が目立つ。
 5月の小売関連も、百貨店売上高などが大きく回復しているが、国内新車販売額は半導体不足と前述した上海のロックダウンの影響で生産が遅れているため、5月も前年比−18%減少した。

【雇用改善は持続、物価上昇で実質賃金沈む】
 背後にある雇用・賃金の動向を見ると、就業者・雇用者の増加と完全失業者の減少は2月以降毎月続いており、4月の完全失業率は2.5%とコロナ禍前の第1四半期の水準まで低下した(図表2、なおボトムはコロナ禍前の19年12月の2.2%)。
 しかし、現金給与総額は4月も前年比+0.2%にとどまっており、消費者物価上昇の下で、4月の実質賃金指数は前年比−1.2%に沈んだ。
 当面の消費立ち直りは、2年を超えるコロナ禍の下で消費が控えられてきたために発生した「ペントアップ需要」に支えられている。しかし、今後、消費者物価上昇に伴う実質賃金の低下が続くと、低所得層を中心に、消費回復の伸び悩みが起きる心配がある。

【設備投資の実勢はGDP統計より強いのではないか】
 投資動向を見ると、実質GDP統計の設備投資は、昨年7〜9月期から緩やかな低下傾向を辿り、1〜3月期も前期比−0.4%減となった(図表3)。
 しかし、機械投資の動向を反映した資本財(輸送機械を除く)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)を見ると、月々の変動はあるものの、四半期ベースでは、20年10〜12月期以降本年(22年)1〜3月期まで増勢を続けている(図表2)。本年4月も前月比+6.0%、1〜3月平均比+0.8%である(同)。
 また6月公表の「法人企業統計調査」の設備投資も、昨年4〜6月期から本年1〜3月期まで、前年比は一貫してプラスである。
 従って、設備投資の実勢は、GDP統計が示す程弱くはなく、コロナ禍からの経済回復過程の中で、増勢を維持しているのではないだろうか。

【住宅投資に底入れの気配】
 住宅投資は、実質GDP統計では、昨年7〜9月期に減少に転じ、本年1〜3月期も前期比−1.2%と3四半期連続して減少した。先行指標の住宅着工統計を見ると、本年1〜3月期に前期比増加に転じ、4月も883千戸と1〜3月期平均(873千戸)を上回っている(図表2)。従って、GDP統計の住宅投資も4〜6月期には立ち直るかもしれない。
 実質GDP統計の公共投資は、昨年1〜3月期から一貫して減少傾向を辿り、本年1〜3月期も前期比−3.9%であった。

【資源を中心とする世界インフレ進行で資源小国日本の交易条件と経常収支は悪化】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計(季調済み)の貿易・サービス収支は、4月も1兆3955億円の赤字となり、1〜3月の平均(1兆717億円の赤字)に比し、赤字幅を拡大した(図表2)。これは貿易収支の赤字が9861億円と、輸出の伸びを上回る輸入の伸び(前述)によって拡大したためである。
 4月の通関統計(季調済み)を見ると、輸出は前月比+1.0%の増加にとどまったのに対し、輸入は同+7.9%と著増した。既に鉱工業生産、出荷に関連して述べたように、輸出はアジアのグローバル・サプライチェーンの混乱による国内生産低下から大きく伸びなかったのに対し、輸入は値上がりの続く原粗油・LNG・石炭などのエネルギー関連を中心に高い伸びを続けているためである。
 このような日本の交易条件悪化を伴う貿易収支の動向が、回復期に入った日本経済の4〜6月期以降の経済成長にどの程度悪影響を及ぼしてくるかが今後注目される。