2022年5月版
3月から国内景気は立ち直ったが、輸入コスト・プッシュ・インフレの進行、交易条件悪化など前途は多難

【消費は回復し始めたが、4月以降、物価上昇率が一段と高進】
 国内景気は3月から立ち直りの気配を示し始めていたが、4月に入って回復の歩みが確りしてきた。4月の「景気ウォッチャー調査」では、雇用関連と家計関連(飲食と旅行を含むサービス)を中心に、景気の「現状判断DI」が2か月連続で上昇し、「先行き判断DI」は3か月連続して上昇した。3年振りに緊急事態宣言やまん延防止重点措置が解除された状態で5月の連休を迎え、人流と共に消費は回復し始めている。
 1〜3月期の実質GDPは、前期比−0.2%(年率−1.0%)の減少となったが、これは2月までのコロナ禍第6波の影響による家計消費、住宅投資などの減少と輸入増加に伴う「純輸出」の減少によるもので、設備投資は2期連続で増加している。4〜6月期は再び緩やかなプラス成長に戻ろう。
 しかし、ウクライナ軍事進攻の長期化につれて、エネルギー、稀少金属、穀物などを中心に世界インフレが高進し、米国の利上げに伴う日米金利差拡大による円安進行も加わって、日本の交易条件と貿易収支の悪化が進み、輸入コスト・プッシュ・インフレが進んでいる。4月の国内企業物価は前年比+10.0%と大きく上昇し、消費者物価(除、生鮮食品)は、物価目標の2%前後に達し、更に高まっていくとみられる。

【生産・出荷の回復テンポは徐々に早まる】
 3月の鉱工業生産は、前月比+0.3%と小幅ながら2か月連続して上昇し、2月に横這いであった出荷も3月は同+0.5%と上昇した。この結果1〜3月期の生産と出荷は、前期比+0.8%、同+0.5%といずれも10〜12月期(生産、出荷とも同+0.2%)よりも上昇テンポをやや早めた(図表1)。製造工業生産予測調査によると、4月は前月比+5.8%の上昇、5月は−0.8%の小幅低下となり、4月と5月の予測の平均は、1〜3月期の鉱工業生産実績の平均に比し+0.3%と更に上昇テンポを早める見込みである。
 コロナ禍第6波の影響で1月に落ち込んだ生産、出荷は、徐々に回復テンポを早めている。回復を主導している業種は、国内向けの生産用機械、化学(除、医療品)、輸出向けの輸送用機械、電気情報通信機械などである。

【国内向け総供給は輸入の減少から2か月連続して減少】
 3月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比+0.2%と4か月振りの上昇となり、輸出は同+3.0%と2か月連続して増加した。
 国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が同−2.7%と2か月連続して減少したため、全体でも同−1.6%と2か月連続の減少となった。輸入の減少には、ウクライナ軍事紛争に伴うロシアからの鉱業(原油、LNG)林業などの製品輸入停止が響いているのかもしれないが、はっきりしない。
 他方、国産品の国内向け出荷の増加に寄与したのは、設備投資関連の生産用機械、化学(化粧品、プラスチック等)であり、輸出増加に大きく寄与したのは、輸送機械(含自動車)、電気情報通信機械などの従来からの輸出主力製品である。

【消費は3月から立ち直ってきたが、4月以降の物価上昇率の高まりが不安材料】
 国内需要の動向を見ると、コロナ禍第6波が2月に峠を越えたため、季調済みの3月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)と「実質消費支出」(家計調査)は、いずれも前月比で増加した(図表2)。また4月の消費者態度指数(消費者動向調査)と家計動向関連(景気ウォッチャー調査の景気の現状判断)も、引き続き前月比で上昇を続けている。
 まん延防止等重点措置などが総て解除された状態で5月の連休を迎えたので、5月の消費も引き続き緩やかに増加しているとみられる。
 1〜3月の実質GDP統計における実質消費支出は、コロナ禍第6波に伴う1、2月の落ち込みが大きかったため、前期比−0.1%の微減となったが、4〜6月期は再び回復軌道に戻ろう(図表3)。先行きに不安があるとすれば、ウクライナ侵攻に伴う世界インフレの高進がもたらす日本の輸入コスト・プッシュ・インフレの進行で、食料品を始めとする日用品の値上がりが、家計の実質消費にどう響いてくるかが注目される。

【2月以降雇用は回復、物価上昇に伴い4月以降の実質賃金がどうなるか】
 雇用動向をみると、2月以降の生産活動の回復を反映して、3月の雇用者と就業者は2か月連続で増加し、完全失者は2か月連続して減少した。これに伴い完全失業率も2か月連続で低下し、3月は2.6%となった(以上図表2)。
 このような雇用動向を反映し、現金給与総額(季調済み)は前月比で3月まで3か月連続で上昇したが、前年比でみると、消費者物価の上昇率の高まりによって、3月は−0.2%と3か月振りに減少した。今後は消費者物価の上昇率の高まりが、消費動向にどのように響いてくるかが注目される。

【設備投資の増勢は根強い】
 次に投資動向をみると、1〜3月期の実質GDP統計における設備投資は、前期比+0.5%と2期連続して増加し、昨年来の増勢を維持している。
 機械投資を反映する3月の資本財(除輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は前月比−1.7%と微減したが、これは1月に著増(同+11.9%)した反動で、1〜3月期としては前期比+1.3%と増勢を続けている(図表2)。3月調査の「日銀短観」における製造業・非製造業・金融機関の本年度設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資を除く)総計は、前年比+3.7%の増加となっている。このことから見ても、設備投資は本年度の成長を支えていくとみられる。

【住宅投資に下げ止まりの気配】
 1〜3月期の実質GDP統計では、民間住宅投資は前期比−1.1%と3期連続して減少した。コロナ禍の影響とみられるが、先行指標の新設住宅着工戸数は昨年7月をピークに減少傾向を示していたものの、ここへ来て反転上昇の気配がみられる。本年1〜3月期の平均は、2四半期振りに前期比増加した(図表2)。
 公共投資は、1〜3月期も前期比−3.6%と5四半期連続の減少となった(図表3)。

【交易・サービス収支の赤字が続き、1〜3月期の「純輸出」は成長にマイナス寄与】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に反映される貿易・サービス収支(季調済み、以下同じ)は、このところ3か月連続して赤字が急拡大していたが、3月は1兆291億円と引き続き大幅な赤字ながら、前月に比べて1510億円縮小した(図表2)。これは貿易収支の赤字が、輸入の減少(1101億円)と輸出の増加(893億円)から1992億円縮小したためである(図表2)。
 しかし、1〜2月の赤字拡大が大きかったため、1〜3月期の貿易・サービス収支は、前期の倍近い3兆2152億円の赤字となった(図表2)。このため、1〜3月期の実質GDP統計の「純輸出」は、成長率に対し、−0.4%の負の寄与度となった。
 4〜6月期は、国内の消費が立ち直り、「純輸出」の赤字が再び大きく拡大しない限り、プラス成長に戻ると見込まれる。