2022年4月版
国内景気は2月下旬〜3月から立ち直ったが、交易条件悪化を伴う対外収支の赤字拡大から1〜3月期は再びマイナス成長か

【企業の先行き感の気迷いを伴いながらも国内景気は立ち直ってきたが、貿易・サービス収支の赤字は大幅に拡大】
 3月に入って、コロナ禍第6波収束の気配を背景に家計消費に立ち直りの気配が出始め、国内景気は再び上向いてきた。3月の「景気ウォッチャー調査」の「現状判断DI」は上昇に転じ、「先行き判断DI」は4か月振りに上向いた先月に続き、上昇を続けている。製造工業生産予測調査も、3月、4月と大幅な上昇を見込んでいる(図表1)。
 しかし、ウクライナ軍事紛争は収束の目途が立たず、エネルギー、穀物、稀少金属などを中心とする世界インフレの下で、日本の交易条件は大きく悪化し、経常収支の大幅な赤字拡大、輸入コスト・プッシュ・インフレの進行が続いている。このため、企業の先行き感には気迷いがあり、3月調査「日銀短観」の「業況判断DI」は、コロナ禍が始まった21年3月調査後の持ち直し傾向から初めて悪化に転じた。
 この先はコロナ禍とウクライナ情勢によって大きく左右されると思われるが、2年間のコロナ禍の下で蓄えられてきた消費のペントアップ需要と根強い設備投資に支えられて、経常収支悪化、物価上昇に足を引っ張られながらも、緩やかな国内景気の立ち直りは続くと見られる。しかし、貿易・サービス収支(GDPの「純輸出」に対応)の赤字拡大は大きく、1〜3月期の実質GDPはマイナスとなる公算が大きい(図表3)。

【自動車工業の立ち直りから生産は下げ止まり、今後大幅回復の見込み】
 2月の鉱工業生産は、前月比+0.1%増と2か月続けて減少したあと下げ止まり、3月と4月の製造工業生産予測調査は夫々+3.6%、+9.6%と大幅な回復を見込んでいる(図表1)。部品不足で、1月に前月比−17.3%減と大幅に落ち込んだ自動車工業の生産が部品不足の緩和で、2月に同+10.9%増となり、3、4月も更に上昇を続ける見込みである。
 3月の鉱工業生産が製造工業の予測調査通りになれば、1〜3月期は前期比+2.0%増と2四半期連続で増加することになるが、それでも前年4〜6月期の水準にはまだ届かない。半導体の世界的な不足やコロナ禍の影響から落ち込んだ自動車工業などの生産は、なお十分には回復していないからである。ただし、後述のように設備投資関連の機械工業の生産は、既に前年4〜6月期の水準を抜いて上昇している。

【国内向け総供給は1〜3月期に3四半期振りに増加する可能性】
 2月の鉱工業出荷は、前月比−1.3%と2か月連続で減少した(図表1)。これは、国内向け出荷が同−1.5%と10、11月急増(前月比+3.8%、+2.1%)の反動で3か月連続して減少したことによるものである。2月の輸出は同+3.2%と増加した。
 国内向け出荷に輸入を加えた2月の鉱工業製品の国内総供給は、輸入が前月比+1.8%と増加したため、全体で同−0.7%の減少にとどまった。この、1、2月平均は、昨年10、11月の急増でゲタをはいているため、10〜12月平均比+2.5%の水準にあり、3月次第ではあるが、1〜3月期は3四半期振りに増加に転じる可能性がある。
 しかし、出荷も生産と同様、世界的な部品不足やコロナ禍の影響で落ち込む前の前年4〜6月期の水準には、まだ戻っていない(図表1)。
 ただし、後述のように、設備投資関連の資本財(除、輸送機械)の国内総供給は、既に昨年4〜6月期の水準を抜いて回復している(図表2)。

【家計消費は3月から立ち直ったが、1〜3月期としては微減の見込み】
 国内需要の動向を見ると、2月の「実質消費活動指数+」(日銀試算、図表2)と家計調査の季調済実質消費支出は、いずれも前月比で減少した。
 しかし、3月の「景気ウォッチャー調査」の景気の現状判断DIにおける家計動向関連は、小売、飲食、サービスの各関連で3か月振りに好転した。コロナ禍第6波の峠を越え、家計消費は3月から徐々に回復し始めている。
 賃金・雇用状況(季調済み)を見ると、2月の雇用者数は増加(図表2)、完全失業者数は減少、完全失業率は2.7%へ低下した(図表2)。また2月の現金給与総額は前月比+0.7%増と2か月連続で増加した。有効求人倍率と新規求人倍率も、2月は揃って上昇した。生産活動や対面型消費の立ち直りから、賃金・雇用情勢も僅かに好転し始めたようだ。

【設備投資は根強い増勢を維持】
 投資動向を見ると、機械投資を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月の大幅増加(前月比+15.6%)の反動で、2月は同−9.1%と減少したが、1〜2月平均は10〜12月平均を6.7%上回り、世界的な部品不足やコロナ禍に伴う工場の操業停止で落ち込む前のこれ迄のピーク(21年4〜6月期)をも0.6%上回るに至った(図表2)。
 また3月調査「日銀短観」では、全産業平均の「業況判断DI」が、「良い」超幅の縮小という形で悪化に転じた中で、機械工業は引き続き「良い」超幅の拡大を続けている。これは22年度の設備投資計画(ソフトウェア投資・研究開発投資を含み、土地投資を除く)が、全規模企業の製造業・非製造業・金融機関の総計で、前年比+3.7%と期初計画としては確りしていることと、平仄が合っている。
 住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数は、2月に872千戸と最近の平均水準(21年下期平均861千戸)に比しやや大きく増加した(図表2)。これが増勢に転じる兆しかどうかは、もう少し見ないと判断できない。

【世界インフレで日本の交易条件は大幅に悪化、経常収支の赤字は拡大】
 最後に海外需要の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、2月に1兆1905億円の赤字と、前月(1兆85億円赤字)に比し赤字幅を更に拡大した(図表2)。これは、輸入の増加(前月比+7.4%増)が輸出の増加(同+2.7%増)を大きく上回り、貿易収支の赤字が7749億円と前月(同3988億円)に比し大きく拡大したためである。
 輸入の増加は、ウクライナ紛争以降、世界の石油、LNG、石炭などのエネルギー市況が一段と高騰し、日本の輸入契約価格が大きく上昇している上、内外金利差の拡大から円安が更に進んでいるためである。
 このため、1〜3月期のGDP統計における「純輸出」の大幅悪化は避けられない。加えて国内需要も、設備投資の増加にも拘らず、横這い圏内の動きにとどまり、全体としてマイナス成長は避けられないと見られる(図表3)。