2021年12月版
景気は回復軌道に戻ったが、前途にオミクロン株の暗雲

【10〜12月期は7〜9月期の落ち込みから順調に回復】
 政府の景気動向指数研究会は、2018年11月から始まった景気後退は20年5月に底を打ったと暫定的に認定したが、「景気動向指数」の一致指数を見ると、その後の回復は一本調子ではない。繰り返されるコロナ感染症蔓延の波に脅かされ、本年2月と5月に小反発したあと、デルタ株が広がった7〜9月(第5波)は3か月連続で低下した。
 この第5波が峠を越えた10月以降、景気は再び回復軌道に戻ったが、11月調査の「景気ウォッチャー調査」では、「現状判断DI」は上昇を続けているものの、「先行き判断DI」は3か月振りに低下した。感染力の強いオミクロン株が世界的に流行し、やがては日本にも入ってコロナ禍第6波が形成されるのではないかと警戒しているためであろう。
 7〜9月期の実質GDPの2次速報値は、個人消費の下方修正で1次速報値の前期比−0.8%(年率−3.0%)から同−0.9%(同−3.6%)に下方修正されたが、10月以降個人消費は立ち直っており、11月調査の「消費動向調査」でも、9〜11月の消費者態度指数は回復している。
 今後は、日本におけるオミクロン株感染の広がりとその経済に対する影響が注目される。

【生産、出荷はコロナ禍第5波による落ち込み前の水準に向かい10月以降大きく回復】
 10月の鉱工業生産と出荷は、前月比、それぞれ+1.1%、+2.0%と4か月振りに増加した(図表1)。自動車、生産用機械(半導体製造装置など)、電気・情報通信機械、汎用・業務用機械など東南アジアのデルタ株蔓延による部品の生産、供給不足からの立ち直りによるものである。
 製造工業生産予測調査によれば、11月は前月比+9.0%の大幅上昇、12月は同+2.1%の上昇といずれも10月に立ち直った上記の機械工業の回復持続による大幅上昇が予測されている。仮に鉱工業生産がこの製造工業の予測と同じ比率で上昇すると仮定すると、12月にはコロナ禍第5波による半導体等部品不足(サプライチェーン寸断)で落ち込む前の4月の水準に戻る(図表1)。

【10月の自動車出荷は国内向け優先、輸出は減少】
 10月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向け出荷は前月比+3.1%と4か月振りの上昇となったが、輸出は同−1.3%と小幅ながら3か月連続の低下となった。輸出の減少は輸送機械(自動車など)が国内向けに+29.7%(国内への鉱工業出荷全体の+3.1%への寄与度+2.3%)も出荷されたしわ寄せを受け、前月比−9.4%(輸出全体の減少−1.3%への寄与度−2.3%)と大きく落ち込んだためで、一時的と見られる。
 他方、国内向け出荷に輸入を加えた国内向け鉱工業総供給は、輸入が前月比−7.6%と大きく減少したため、同0.0%の横這いとなった。

【10月以降、個人消費は大きく回復】
 国内需要の動向を見ると、10月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)は、前月僅かに回復(前月比+1.1%)したあと、当月は94.8、前月比+4.0%と大きく上昇し、コロナ禍第5波で落ち込む直前の3月の水準を僅かに上回った(図表2)。
 「家計調査」の季調済み実質消費支出(2人以上の世帯)の前月比は、5〜8月と4か月続けて減少したあと、9月、10月と2か月続けて回復した。「景気ウォッチャー調査」の消費「現状判断DI」を見ると、コロナ禍第5波の収束に伴い、10月、11月の対面型の飲食、サービスの回復が顕著である。
 雇用の回復は遅れており、「労働力調査」(季調済み)の就業者と雇用者(図表2)は、8〜10月と前月比で減少傾向にある。「毎月勤労統計」(同)の現金給与総額は、横這いである。

【設備投資は7〜9月期に一時的に減少したが、増勢は持続している】
 投資動向を見ると、「実質GDP統計」(2次速報値)の設備投資は、7〜9月期に前期比−2.3%と4四半期振りに減少した。機械投資を反映する資本財(除、輸送機械)の総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比−0.5%と7〜9月期(前期比−1.6%)に続いて減少した。
 しかし先行指標の機械受注統計(民需、除船舶・電力)を見ると、4〜6月期、7〜9月期と2期連続して前期比増加し、10〜12月期の見通しも前期比+3.1%と増勢を維持している。
 10〜12月期の「法人企業景気予測調査」によると、本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み、土地投資を除く)は、前年比+5.3%と前回調査の+6.6%よりやや下方修正されたものの、増勢を維持している。とくに大企業製造業は同+14.2%と高い伸びである。これらの計画や機械受注の動向から判断すると、設備投資の減少は7〜9月期のみで、10〜12月期から再び増勢を取り戻す可能性が高い。
 7〜9月期の実質GDP統計における民間住宅投資は前期比−1.6%と4四半期振りに減少した。先行指標の新設住宅着工戸数が高水準横這いを続けていること(図表2)から見て、減勢に転じたとは思われない。
 実質GDP統計の公共投資は、7〜9月期まで3四半期連続で減少している。

【10月の貿易サービス収支の赤字は縮小】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の貿易サービス収支は、10月に6127億円の赤字と赤字幅は前月(8142億円の赤字)より縮小した。これは、輸出が自動車の減少にも拘らず、鉄鋼、半導体製造装置などを中心に+0.9%増加し、輸入が前月比−2.9%減少したためである。
 外需に力強さは見られないが、国内の個人消費が立ち直り、10〜12月期はプラス成長に戻ると思われる。