2021年11月版
コロナ禍第5波の収束により景気は10月から回復軌道へ復帰

【消費活動は9月から、企業活動は10月から再び回復軌道へ】
 デルタ株を中心としたコロナウィルス感染症が、8月を中心に、東南アジアを含み世界的に猛威をふるい、日本もこれ迄にない大型のコロナ禍第5波に見舞われたが、ようやく峠を越した。
 日本国内の企業活動は、東南アジアの部品工場とのサプライチェーン途絶などの影響が尾を引いたこともあって、生産、流通活動が停滞し、「景気動向指数」は9月まで3か月連続で低下した。しかし製造工業生産予測調査によると、生産は10月、11月と急回復する見込みである。
 一方家計の消費活動は、コロナ禍第5波の収束につれ、「消費動向調査」の消費者態度指数が、9月、10月と2か月連続で回復したことに表れているように、企業活動よりも早く、9月から回復し始めた。
 この結果、企業活動と家計動向を総合した「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」は、9月から回復し始め、10月は55.5%と大幅に上昇して50%を大きく超えた。
 夏場に足踏み状態となった国内の景気は、コロナ禍からの回復軌道に再び戻り、年末に向かって上昇し始めている。ただ、間もなく公表される7〜9月期の経済成長率は、7、8月の国内経済落ち込みと輸出の大幅減少による「純輸出」の悪化により、マイナス成長の公算が高い。

【9月の生産、出荷は3か月連続で減少、10月から回復か】
 9月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−5.4%、−6.2%と3か月連続で減少した。他方、減少を続けていた製品在庫は、同+3.7%と3か月振りに増加し、正常在庫に向かって歩み出した(図表1)。
 生産、出荷の減少を業種別にみると、自動車の同−28.2%、同−32.5%が際立って大きく、鉱工業全体のマイナスへの寄与度は約7割に達する。
 しかし、10月以降はようやく半導体不足が解消に向かう見込みで、製造工業生産予測調査によると、自動車を含む輸送機械の生産は、10月に前月比+17.9%、11月に同+35.0%と連続して大きく増加する予測で、製造工業全体では10月には+6.4%、11月に同+5.7%の予測となっている。8月と9月の増加予測は連続して裏切られたが、10月以降は東南アジア部品工場からの半導体部品の輸入は、予測通り正常化すると見込まれている。
 9月の出荷減少を国内向けと輸出に分けてみると、国内向けは前月比−7.6%と3か月連続の減少、輸出は同−3.9%と2か月連続の減少である。業種別に見ると、国内向けで大きく減少したのは輸送機械と電気・情報通信機械、輸出で大きく減少したのは輸送機械と生産用機械である。いずれも7月から始まった半導体等部品不足によるものであることは言うまでもない。
 また国内向けに輸入を加えた鉱工業製品の国内総供給は、輸入も前月比−1.4%と減少したため、全体は同−6.3%の減少となった。このような沈滞ムードに転機が訪れるのは、10月以降と見られる。

【家計消費は9月から、雇用は10月から立ち直る】
 国内需要の動向を見ると、家計消費は、コロナ禍第5波が峠を越したため、9月からやや立ち直り始めた。「実質消費活動指数+」(日銀試算)は、9月に91.2%と前月(90.5)比僅かに増加した(図表2)。家計調査の消費支出(季調済み実質)も、9月に前月比+5.0%と5か月振りに増加した。「消費活動調査」の消費態度指数は、9月、10月と2か月連続して増加した。
 雇用情勢の立ち直りはやや遅れており、就業者数(季調済み)は8月、9月と減少し、雇用者数(同)は8月に大きく減少した(図表2)。雇用の減少は、宿泊業、飲食サービス業、娯楽業で大きく、反面情報通信業、医療・福祉、教育・学習支援では増えている。雇用面に消費立ち直りの好影響で出てくるのは10月以降であろう。

【設備投資にも半導体等部品不足の影響】
 投資動向を見ると、9月の機械投資を反映する資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は前月比−7.2%とやや大きく減少した。7月にも同−5.0%と減少したため、7〜9月期の前期比は−2.0%と4四半期振りに減少した(図表2)。これは半導体等部品不足による電気・情報通信機械、汎用・業務用機械、電子部品・デバイスなどの減産が響いたためで、10月以降の動向と併せてみないと実勢を判断できない。
 先行指標の機械受注は8月までしか公表されていないが、7〜8月平均の4〜6月平均比は+1.1%と前期(前期比+4.6%)に引き続き増勢を保っている(図表2)。
 住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数は、7〜9月期も平均875千戸と高水準を続けている(図表2)。

【輸出減少から「純輸出」の赤字は拡大】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計上の貿易・サービス収支(季調済み、以下同じ)は、3か月続けて赤字を記録していたが、9月には更に赤字を拡大し、8142億円の大幅赤字となった(前月比4451億円の赤字拡大)。この結果、7〜9月期の赤字額は1兆3148億円に達した(図表2)。
 これは9月の輸出が、減産を反映した自動車輸出の大幅な落ち込みを中心に、前月比3784億円(−5.3%)の減少となったためで、この間輸入は前月比122億円の減少(−0.2%)とほぼ横這いとなったため、貿易収支の赤字が3662億円拡大したためである。
 10月以降、半導体不足の解消に伴う生産回復で輸出が立ち直り、貿易収支の赤字は縮小し始めると見られる。
 しかし、間もなく11月15日に公表さえる予定の7〜9月期GDP統計では、国内の消費落ち込みと「純輸出」の赤字拡大によって、再びマイナス成長になる可能性がある(図表3)。