2021年10月版
景気は9月以降、デルタ株の世界的パンデミックの影響から立ち直る気配

【部品不足は長引いているが、コロナ禍第5波が終焉し、個人消費は9月以降立ち直る】
 世界的半導体の供給不足と、東南アジアにおけるコロナウィルス・デルタ株蔓延に伴う日本の部品工場の操業停止・サプライチェーン寸断の日本経済への影響が、予想外に長引いている。7月の鉱工業生産、出荷が部品不足で減少したあと、8月の製造工業生産予測調査は前月比大幅反動増加を予測していたが、部品不足が長引いているため、8月の生産、出荷は7月以上の前月比減少となり(図表1)、7月に増勢を維持した輸出も8月には減少となった。9月調査「日銀短観」では、大企業の自動車産業の「業況判断」DIが、前回の「良い」超3から今回は「悪い」超−7に悪化した。
 他方、8月を中心とする国内のコロナ禍第5波は収束しつつあるため、9月の「景気ウォッチャー調査」では、9月の「景気判断」DIが、家計動向関連の改善により、現状も先行きも上昇(好転)した。
 7〜9月期の実質GDPは、個人消費が8月の大幅悪化で弱含みとなるほか、「純輸出」が輸出の頭打ちと輸入の増加から悪化するため、国内の設備投資や住宅投資は増加するものの、横這い圏内の動きになりそうである(図表3)。

【部品不足が長引き、8月の生産、出荷は7月以上の低下】
 8月の鉱工業生産と出荷は、それぞれ前月比−3.2%、同−3.8%と2か月連続で低下し、低下幅は7月(ぞれぞれ−1.5%、−0.3%)よりも拡大した(図表1)。これは世界的半導体不足と東南アジア部品工場のコロナ・デルタ株クラスターによる操業停止・サプライチェーン寸断の影響が予想外に長引き、深刻化しているためである。前月公表された8月の製造工業生産予測調査(前月比+3.4%)は楽観的で、完全に予測を誤った。
 生産の下落幅がとくに大きいのは、自動車(前月比生産−15.2%、出荷−11.4%)、電気・情報通信機械(同−10.6%、−8.6%)、電子・部品デバイス(同−2.9%、−7.1%)で、その他の機械工業も軒並み生産出荷が減少した。
 製造工業生産予測調査によると、9月は前月比+0.2%と引き続き横這い圏内の動きにとどまり、10月は同+6.8%と大きく回復すると見ているが(図表1)、果たしてどうなるであろうか。

【部品不足で輸出が減少した反面、輸入は増加】
 出荷の減少を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比−3.1%と2か月連続して減少し、前月に同+5.4%と増勢を保った輸出も、当月は同−5.8%とやや大きく減少した。
 他方、減少した国産品の国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入が前月比+3.7%とやや大きく増加したため、全体では同−1.1%と前月(同−2.0%)に比し減少幅はやや縮小した。
 輸入が大きく伸びた品目は、鉱業(原粗油、LNG)、化学(コロナワクチンなど医療品)、生産用機械などである。

【個人消費は8月減少のあと9月から回復】
 国内の需要動向をみると、8月はコロナ禍第5波のピークとなったため、「実質消費活動指数+」(日銀試算)は90.6(前月比−2.0%)と3か月振りに減少し(図表2)、家計調査の実質消費支出(2人以上の世帯)も前月比−3.9%と4か月連続の落ち込み(通計−9.8%)となった(いずれも季調済み)。
 しかしコロナ禍第5波がピークを過ぎた9月以降をみると、「消費動向調査」の「消費者態度指数」は9月に前月比+1.1%と持ち直している。更に先行きは、コロナ禍第6波次第であるが、とりあえず10月は感染再拡大の気配が見られない限りは、落ち込んでいた対面型消費、旅行などを中心に個人消費の回復が見られよう。
 8月の雇用情勢を季調済みで見ると、就業者、雇用者は前月比それぞれ−0.5%、−0.3%と減少し、完全失業者は同+0.5%の増加といずれも悪化した(図表2)。有効求人倍率と新規求人倍率はいずれも低下したが、完全失業率は2.8%と前月比横這いにとどまった(図表2)。
 9月は個人消費の立ち直りにつれて、雇用も持ち直すと見られる。

【本年度の設備投資増加計画は衰えていない】
 投資動向を見ると、機械投資を反映する9月の資本財(除輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け輸出と輸入の合計)は、国産品の出荷が部品不足の影響で前月(前月比−7.8%)に引き続き、同−3.3%と減少したが、輸入が同+8.9%と大きく伸びたため、全体で同+2.3%と前月の減少(同−5.0%)から増加に戻った。この結果7〜8月の平均は4〜6月平均比−0.3%とほぼ横這いとなった。
 9月調査「日銀短観」によると、製造業、非製造業、金融機関を合計した本年度の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発投資を含み、土地投資を除く)は、前月比+9.3%と6月調査と変わらず、コロナ禍の下でも、先行きをにらんだ設備投資意欲は乏えていないと見られる。
 民間住宅投資(実質)の先行き指標である8月の新設住宅着工戸数は、急増した前月に比し、−7.7%と減少したが、7〜8月平均の4〜6月平均比は+1.8%と増勢を保っている(図表2)。

【輸出減少の反面、輸入は数量・価格とも上昇】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計(季調済み)の貿易・サービス収支は、8月も−3691億円の赤字となった(図表2)。赤字は3か月連続であり、赤字幅は遂月拡大している。
 これは貿易収支が、3か月前の黒字から赤字に転じ、しかも赤字幅が拡大しているためである。輸出は、既に述べたように、東南アジアからの部品輸入停止と長引く半導体不足から、自動車、電気・情報通信機械、電子・部品デバイスなどを中心に、増加していないのに対し、輸入は原粗油、LNG、医療品(ワクチン)などの値上がりと数量拡大で増加しているためである。
 7〜9月期の実質GDPは、コロナ禍第5波で8月を中心に落ち込んだ個人消費と「純輸出」の減少を、設備投資、民間住宅投資などの回復がどの程度帳消しできるかによって、プラス成長がマイナス成長かが決まってこよう(図表3)。