2021年9月版
コロナウィルス・デルタ株の世界的蔓延で、8月を中心に景気回復は足踏み
【個人消費の停滞と日本のサプライチェーン寸断が発生】
感染力の強いコロナウィルス・デルタ株(LS452R)の世界的蔓延が、当面の日本の景気にも影響を及ぼしている。緊急事態宣言等の発令地域拡大と9月末までの期間延長で、6,7月に立ち直りかけた個人消費は、7月末以降、8月を中心に再び弱含んでいる。
東南アジアに広く存在する日本の製造業の部品工場でデルタ株のクラスターが発生し、生産と日本への部品輸出が一時停止し、7月の日本の鉱工業生産と製品在庫は減少、国内向け出荷も減少した。
9月調査の「景気動向調査」の景気動向一致指数(7月分)と「景気ウォッチャー調査」の現状判断DI(同)はほぼ横這いとなったうえ、先行指数(8月分)と先行判断DI(同)は、いずれも大きく下落した。
サプライチェーン寸断による鉱工業生産、出荷、製品在庫の減少は、8月にはある程度復旧しつつあるが、個人消費の停滞は9月まで尾を引いている。7〜9月期の景気回復は抑えられ、成長率は4〜6月期(前期比年率+1.9%)に続き、7〜9月期も小幅にとどまるか、若干のマイナスになる可能性がある(図表3)。
【部品輸入の減少で鉱工業生産、国内向け出荷、製品在庫が揃って減少】
前述の通り、日本の自動車、電気・情報通信機械などの製造工業の東南アジア部品工場でデルタ株のクラスター発生、生産停止、日本への部品輸出の一時停止などが生じたため、7月の鉱工業生産は前月比−1.5%の減少となった。これに伴い7月の製品在庫は同−0.6%と取り崩されたが、それでも7月の出荷は同−0.6%の減少を余儀なくされた(図表2)。
この反動もあって、製造工業生産予測調査によると、8月は前月比+3.4%、9月は同+1.0%と、自動車、電気・情報通信機械、生産用機械、汎用・業務用機械など7月に部品不足で減産ないし生産抑制となった業種を筆頭に続伸する。実際は鉱工業生産の伸びは、製造工業生産の伸び率予測よりも低いと思われるが、仮に同じ伸びをしたと仮定すると、7〜9月期全体としては7月の減産を取り戻し、前期比+3.0%と大きく増加する(図表3)。
しかし、8月も自動車産業では、東南アジア部品工場のクラスターによる減産の影響が続いたという情報もあり、果たして予測調査通りの生産回復になるか、注目される。
【生産と製品在庫が減少する中で、輸出は増勢を維持】
7月の部品不足による減産の出荷にたいする影響を、国内向け出荷と輸出に分けて見ると、国内向け出荷は前月比−2.4%とかなり減少したのに対し、輸出は同+6.7%と大幅な増勢を維持した。この結果、7月の輸出は4〜6月平均比+5.7%と高い水準に達している。
輸出が増勢を維持し、国内向け出荷が減少した主な製品は、生産用機械、汎用・業務用機械、電子部品・デバイス、電気・情報通信機械など、日本の輸出の主力製品であえる。
その中にあって、自動車を中心とする輸送機械だけは、輸出が前月比+9.5%と大きく伸びた上、国内向け出荷も同+2.0%と増勢を維持しており、その分製品在庫は同−12.9%と大きく減少した。
この間、7月の鉱工業製品の国内向け総供給は、国内向け出荷と輸入の両方で前述のように減少したため、全体として前期比−2.4%の減少となり、4〜6月平均を−1.2%下回る水準に落ちている。
【個人消費は7月頭打ち、8月減少】
国内需要の動向を見ると、「実質消費活動指数+」(日銀試算)と消費動向調査の「消費者態度指数」は、いずれも6月に増加したあと、7月はほぼ頭打ちとなり、8月に入り「消費者態度指数」ははっきり低下に転じた(図表2)。緊急事態宣言等の適用地域拡大や期間延長に伴い、夏休み期間にも拘らず対面型個人サービス業や旅行サービス業などを中心に、個人消費が落ち込んでいる。
7月の賃金・雇用関係指標(季節調整済み)は、就業者数、現金給与総額などが緩やかな回復傾向を続け、完全失業率は低下している(図表2)。しかし9月に公表された「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断DI」と「同先行き判断DI」では、共に8月の「雇用関連」が大きく低下し、現状、先行き共に雇用情勢が再び悪化に向かうと見られている。もしその通りであれば、先行きの賃金雇用情勢、ひいては個人消費の動向は楽観を許さない。
【設備投資と民間住宅投資は増勢を維持】
投資動向を見ると、足許の機械投資の動向を反映する7月の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比−6.4%と大きく低下した。これは前述の通り、部品の輸入が滞る中で国産品の出荷では国内より輸出が優先されたためであり、一時的落ち込みと見られる。
4〜6月期の実質GDP統計の設備投資は、「法人企業統計」を反映して、2次速報値では前期比+0.5%からは同1.3%に上方修正された。
また7〜9月期の「法人企業景気予測調査」では、本年度の設備投資(ソフトウェア投資を含み土地購入を除く)は前年比+6.6%の増加であった。製造業は同+10.6%と前回調査(同+10.7%)からほとんど変わらなかったが、非製造業はコロナ禍の影響か同+4.7%と前回調査(同+5.8%)より下方修正された。
先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)では、7月に前月比+0.9%の増加となった。7月の水準は4〜6月平均比+2.3%である。7〜9月の見通しは前期比+11.0%と大きく伸びる予想で、これ程大幅ではないとしても、7〜9月期は2四半期連続の増加となり、引き続き設備投資の増勢は維持されると見られる。
実質GDP統計の民間住宅投資は、1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続して増加したが、先行指標の新設住宅着工戸数も2四半期連続して増加したあと、7月は4〜6月平均+5.2%と続伸している(図表2)。7〜9月期も住宅投資は増勢を続けよう。
【7月の貿易・サービス収支の赤字は拡大】
最後に外需の動向を見ると、前述の鉱工業製品の輸出、輸入で述べたように、7月は輸出が増勢を維持し、輸入は減少した。国際収支統計では、7月の輸出は前月比+0.7%、4〜6月平均比+2.7%、輸入は前月比−0.9%となり、7月の貿易収支は3410億円の黒字と前月の黒字幅(2319億円)を大きく上回った(前月比+47.7%)
しかし、7月はサービス収スの赤字幅が、4725億円と前月の赤字(3187億円)を1538億円上回ったため、GDP統計の「純輸出」に対応する貿易サービス収支は1315億円の赤字と前月の赤字(878億円)を上回った。
1か月の動向ではまだ判定しにくいが、7〜9月期の「純輸出」も1〜3月、4〜6月に続いて、成長に対してマイナスの寄与になる可能性がある。
そうなると7〜9月期の成長率は内需次第となるが、8月を中心とする個人消費が落ち込み幅によって、成長率のプラスかマイナスかが左右されよう。