2021年8月版
感染力の強いデルタ型中心のコロナ禍第5波で7〜9月期の回復歩調は鈍化
【4〜6月期は小幅のプラス成長となったが7月以降コロナ禍第5波で回復は遅れよう】
4〜6月期の経済成長率は、コロナ禍第4波に伴う4月、5月の消費減退(図表2、実質消費活動指数)と「純輸出」のマイナス(図表2、貿易サービス収支)から、当初2四半期連続のマイナス成長ではないかと危惧されていたが、8月16日公表のGDP統計によると、6月の一時的な消費リバウンドに加え、底をうって上昇に転じた設備投資と住宅投資の増加から、+0.3%(年率+1.3%)の小幅プラス成長となった(図表3)。
しかし、これ迄にない強力な感染力のデルタ型変異ウィルスの蔓延により、これ迄で最大のコロナ禍第5波が7月から8月に進行しており、消費は再び頭を抑えられている。
加えて、回復をリードしてきた製造業でも、半導体不足の長期化と世界的デルタ型蔓延に伴うサプライチェーンの一部寸断から、回復が足踏みしている。
8月の「景気ウォッチャー調査」では、7月の「景気の“先行き”判断DI」が、家計動向、企業動向・雇用のいずれも3か月振りに下落し、全体のDIは再び景気回復の目安となる50%を割った。
【基調的半導体不足から生産、出荷は足踏み】
6月の鉱工業生産と出荷は、工場事故による半導体不足から前月急落(前月比それぞれ−5.5%、−5.3%)した反動で、それぞれ同+4.7%、同+7.0%と大きく増加した(図表1)。
しかし、事故がほぼ復旧した後も、最近の需要拡大に比し、これ迄の供給能力増加が基調的に不足していることに伴い、世界的な半導体需給の逼迫傾向は続いている。製造工業生産予測調査によると、7月は再び前月比−1.1%の減少となり、8月は同+1.7%の小幅増加にとどまる(図表1)。鉱工業生産がこの予測通りになった場合、7〜8月の平均水準は4〜6月平均比−0.3%の微減となり、生産は足踏み状態となる。
【世界的半導体不足とコロナ禍に伴う東南アの生産停滞が日本のサプライチェーンを寸断】
6月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月減少(前月比−5.5%)の反動もあって同+5.2%
の増加となったが、前月の減少を取り戻してはいない。輸出は半導体不足の影響を受ける輸送機械が、6月も前月比−8.3%(輸出全体への寄与度は−2.4%)と大きく減少したのを主因に、輸出全体で−0.5%と前月(同−1.7%)に続き2か月連続して減少となった。
他方6月の輸入は、前月比+0.6%の微増にとどまった。このため、国産品の国内向け出荷と合計した国内向け鉱工業総供給は、同+3.5%と前月の減少(同−4.2%)を取り戻せなかった。
世界的な半導体の基調的不足に加え、デルタ型コロナ禍が急拡大する東南アの生産停滞もあって、日本のサプライチェーンが一部で寸断され、日本の輸入と生産・輸出に響いている。
【4〜6月期のGDP統計の家計消費は増加したが、今後はコロナ禍第5波の影響が出よう】
国内消費の諸指標を季調済み前月比で見ると、「実質消費活動指数+」は、コロナ禍第4波の拡大につれて、4月、5月と低下したあと、6月は上昇した(図表2)。「消費動向調査」の「消費者態度指数」も、4月、5月と低下したあと、6月は増加し、7月も僅かに増加した。
雇用者数、就業者数も、4月、5月と低下したあと、6月にはやや増加した(図表2)。これを反映して、完全失業率も4月、5月に上昇した後、6月は僅かに低下している(図表2)。有効求人倍率も4、5月低下のあと、6月に上昇した。雇用にやや遅行する現金給与総額は、5月に続き6月も低下した。
4〜6月期全体をくくったGDP統計では、名目雇用者報酬は前期比−1.7%(実質は同−1.4%)と4四半期振りに減少したが、家計消費の前期比は名目+0.9%、実質+0.6%と前期減少(夫々−0.7%、−1.1%)の反動もあって増加した(図表3)。小規模なペントアップ効果(貯蓄にため込まれた購買力の発現)であろう。
しかしデルタ型を中心とするコロナ禍の第5波が猛威を振るっている現状と、4〜6月期の雇用者報酬減少から考えると、7〜9月期の消費動向は余談を許さない。
【設備投資は中期的な上昇局面入り】
投資動向を見ると、4〜6月期GDP統計の実質設備投資は、前期比+1.7%と前期の減少(同−1.3%)から再び増加に転じた(図表3)。
足許の機械投資の動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、6月も前月比+3.8%と3か月連続で増加し、4〜6月期は前期比+8.2%と増加している(図表2)。
先行指標の機械受注(民需、除電力・船舶)の6月は、前月急増(前月比+7.8%)の反動で同−1.5%となったが、4〜6月期全体としては前期比は+4.6%の増加となった(図表2)。また7〜9月期の見通しは同+11.0%の大幅増加である。
このような先行指標の動向から見て、設備投資は中期的なストック調査の終了に加え、DX、脱炭素などの合理化投資も加わって、上昇局面に入ったと見られる。
【住宅投資は底入れ、公共投資を中心に政府支出は弱い】
4〜6月期GDP統計の実質民間住宅投資は、前期比+2.1%と前期の同+0.9%からやや加速した。先行指標の新設住宅着工戸数は、1〜3月期(前期比+3.1%)、4〜6月期(同+6.0%)とやや大きく増加しており、住宅投資は19年10〜12月期から20年10〜12月期までの5四半期の落ち込みに底を打って回復に転じた。
他方、4〜6月期GDP統計の実質公共投資は、前期比−1.5%と前期(同−1.0%)に続き2期連続して減少した(図表3)。政府最終消費(同+0.5%)も加えた公的需要合計も、前期減少(同−1.5%)のあと、同+0.1%の微増にとどまった。このところ、景気回復を支えるべき財政支出の力は弱まっている。
【「純輸出」の成長寄与度は輸出の鈍化から2四半期連続してマイナス】
最後に外需の動向を見ると、4〜6月期実質GDP統計の「純輸出」は、成長率に対する寄与度が−0.3%と前期(−0.2%)に続いてマイナスとなった(図表3)。これは輸出の増加率が前述の鉱工業製品輸出の事情もあって鈍化し、輸入の増加率は国内需要の増加を背景にあまり下がっていないためである。
「純輸出」に対応する国際収支上の「貿易サービス収支」を見ると、4月と6月が赤字となったため、4〜6月期は4四半期振りの赤字となった(図表2)。これは4〜6月期の貿易収支の黒字が大きく縮小したためである。
7〜9月期も「純輸出」の成長寄与は期待できないので、全体の成長率は国内の消費鈍化の程度と、設備投資・住宅投資の回復力如何によって、決まってこよう。