2021年7月版
緊急事態宣言延長などで個人消費の停滞が続く一方、大企業製造業は設備投資・輸出リード型で回復軌道へ

【業種別、企業規模別、地域別の格差は一段と拡大】
 コロナ禍の第4波が収まりきらないうちに、首都圏、大阪府、沖縄県などで第5波が始まり、東京都と沖縄県で緊急事態宣言が8月22日まで続いているおり、まん延防止等重点措置が出ていた神奈川、埼玉、千葉、大阪の府県も8月22日まで延期された。一方、北海道、愛知、京都、福岡の道府県では7月11日に措置が解除された。日本経済のコロナ禍の影響からの回復が、地域間、製造業・非製造業間、大企業・中小企業間で大きな格差を伴いながら、全体としては5月を底に、下期に向かって緩やかに進んでいる。
 6月の「景気ウォッチャー調査」では、4月、5月と低下した「景気の現状判断DI」が6月に反転上昇し、「先行き判断DI」は5月、6月と2か月連続して上昇した。
 しかし6月調査「日銀短観」では、「業況判断DI」が、製造業と非製造業、大企業と中小企業の間で、好転・悪化の方向が分かれた。設備投資や輸出の関連業種が多い製造業や大企業の業況が回復している反面、家計消費の関連が多い非製造業や中小企業ではまだ悪化している。

【5月の鉱工業生産、出荷は半導体不足を起点に玉突き的に大幅減少するも6月には反動的に大幅増加の見込み】
 5月の鉱工業生産と出荷は、それぞれ前月比−5.9%、−4.7%と3か月振りに大きく下落した(図表1)。これは、世界的に品薄気味であった半導体の供給が、国内工場の火災事故もあって落ち込み、これに伴い半導体を大量に使う自動車生産が一時止まって前月比−19.4%と大きく下落したこと、これに伴い裾野の広い自動車に部品を供給する生産用機械(半導体製造装置など)が同−4.5%、汎用・業務用機械(乗用車エアコン用圧縮機など)が同−4.1%と、いずれも生産が落ちたこと、などのためである。
 しかし製造工業生産予測調査によると、半導体供給の復旧に伴い、6月の生産は前月比+9.1%と著増する見込みである。仮に鉱工業生産が同じ率で反動増加を示すとすれば、4〜6月期の生産は前期比+2.4%と4四半期連続の増加となる(図表1)。

【5月の鉱工業製品の国内向け出荷と輸出も、生産の落ち込みから一時的に減少】
 5月の鉱工業生産の一時的減少に伴い、5月の鉱工業製品の国内向け出荷は前月比−4.4%、輸出は同−1.7%といずれも減少した。国内向け出荷の減少に対する輸送機械(自動車など同−10.3%)の寄与度は−1.58%に達する。
 国産品の国内向け出荷と輸入を合計した5月の国内に対する鉱工業製品の総供給は、輸入が前月比+1.7%と増加したものの、国産品の国内向け出荷の減少が大きかったため、前月比−3.3%の減少となった。
 このような5月の国産品の国内向け出荷と輸出の減少は、6月の生産の反動増加に伴い、大きく回復すると見られる。

【対面型サービス中心の落ち込みは深刻、賃金・雇用情勢にも波及】

 国内需要の動向を見ると、5月の「家計調査」の消費支出(季調済み)は、前月比−2.1%の減少となり、5月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)も前月比−3.4%とやや大きく落ちた(図表2)。緊急事態宣言等の下で、対面型サービスや旅行・観劇などの消費が控えられているためである。「毎月勤労統計」によると、5月の実労働時間(季調済み)も、生産の落ち込みや対面型サービス業の休業などに伴い前月比−3.6%と3か月振りに減少し、つれて現金給与総額(同)も前月比−0.9%と今年に入って初めて減少した。
 「労働力調査」によると、就業者(同)と雇用者(同)も5月は減少し、完全失業者(同)は増加して完全失業率(同)は3.0%に上昇した(図表2)。対面型サービス業などを中心とする個人企業、中小企業の業況悪化は深刻である。6月調査「日銀短観」でも、中小企業の対個人サービス、宿泊・飲食サービスの「業況判断DI」は、「悪い」超39〜74%ポイントに達している。

【4〜6月期以降、設備投資は増勢へ】
 投資動向を見ると、設備投資のうちの機械に対する投資を反映する5月の資本財(除、輸送機械)総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、急増した前月(前月比+10.2%)のあと、同+0.9%と更に増加した(図表2)。これで4〜5月平均の1〜3月平均比は+6.8%となり、3四半期連続の増加は確実と見られる。
 6月調査「日銀短観」の21年度設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資額を除く)の製造業・非製造業・金融機関の合計は、前年度実績に比し、3か月前の調査より+3.2%ポイント上方修正され、9.4%と高い伸びとなっている。19年から始まった景気後退とコロナ禍の間に過剰な設備ストックの調整を終えた企業は、ポスト・コロナを展望し、DX(情報技術を使った事業変革)や脱炭素を含み、積極的な設備投資を計画していると見られる。その走りが、コロナ禍の下での設備投資の強さに現れていると見られる。

【4〜6月期の住宅投資と公共投資は増加の見込み】

 民間住宅投資の先行指標である新設住宅着工件数は、20年4〜6月期から10〜12月期までの3四半期の間低水準横這いとなっていたが、1〜3月期に前期比+3.1%と水準を上げたあと、4〜5月平均も1〜3月平均比+3.0%と続伸した(図表2)。このため、4〜6月期の実質GDP統計の住宅投資は、増加すると見られる。ポスト・コロナを展望した新しい生活設計を反映した動きと見られる。
 他方、公共投資の先行指標である5月の公共建設工事受注額の前年比は、前月減少したあと+48.7%と著増した(図表2)。実質GDP統計で1〜3月期に微減(前期比−1.1%)した公共投資は、4〜6月期には再び増加すると見られる(図表3)。

【輸入の急増がとまり5月の貿易サービス収支は再び黒字に】
 GDP統計の「純輸出」に対応する5月の貿易サービス収支は、前月の赤字1650億円から再び770億円の小幅黒字に戻った(図表2)。前月、国内製造業の回復と国際原油市況の上昇から原粗油、石油製品を中心に輸入が急増し、このため貿易収支の黒字は急減したが、5月には輸入の横這い、輸出の増加から黒字が再び増加したためである。
 6月は、5月に半導体不足から急減した自動車の生産が回復する見込みなので、輸出が大きく回復すれば、4〜6月期の貿易サービス収支は黒字を維持できるかもしれないが、その場合も黒字幅は、1〜3月期に比し縮小すると見られる。このため4〜6月期のGDP統計の「純輸出」は、成長に対しマイナスの寄与となる公算が高い。
 しかし4〜6月期の実質GDPは、国内で家計消費は減少するものの、設備投資、住宅投資、公共投資が増加するため、「純輸出」が減少しても、大きなマイナス成長にはならない可能性が高い(図表3)。