2021年3月版
昨年11月からの経済の落ち込みは、企業活動の回復を中心に下げ止まり、1〜3月期の成長率は横這い圏内の可能性
【企業活動に対する緊急事態宣言の影響は小さい】
新型コロナ感染症の第3波に伴い、日本経済は昨年11月から再び緩やかな景気後退局面に入り、年明け後は2回目の緊急事態宣言の発令もあって、個人消費は減少している。
しかし鉱工業の経済活動に対する宣言の影響はあまり大きくないようで、1月の鉱工業生産は3か月振りにやや大きく増加し、2月の製造業生産予測は続伸する見込みである。
これらを反映し、「景気ウォッチャー調査」でも、企業活動関連の現状判断DIは1月に下げ止まって2月は大きく反発し、先行き判断DIは1月、2月と2か月連続して反発した。また家計動向関連の現状判断DIは、1月まで3か月連続して低下してきたが、2月に反発し、先行き判断DIは、大きく上昇した。
これらを総合すると、1〜3月期の成長率はマイナスには落ち込まず、横這い圏内の動きにとどまる可能性が高い。日本の景気は転換点にあるのかも知れない。
【鉱工業生産の回復はコロナ禍で落ち込む前の水準に戻る勢い】
1月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+4.2%、+3.2%と3か月振りにやや大きく増加した。製造工業生産予測踏査では、2月は前年比+2.1%と続伸したあと、3月は同−6.1%とやや大きく低下する(図表1)。それでも、この予測通りの増加率で鉱工業生産が推移すると、1〜3月期は前期比+2.6%と3四半期連続の増加となり、ほぼコロナ禍で落ち込む前の昨年1〜3月期頃の水準に戻る。緊急事態宣言は、製造業の企業活動にはあまり響かなかったようだ。
1月の生産増加を支えた主な業種は、汎用・業務用機械、電子部品・デバイス、電気・情報通信機械、生産用機械などの機械工業である。
1月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比+1.7%と3か月振りの増加となり、輸出は同+3.9%と2か月振りのやや大幅な増加となった。国内向け出荷に大きく寄与した業種は、電気・情報通信機械、汎用・業務用機械、輸出は生産用機械、電子部品・デバイスである。
また国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内総供給は、輸入も前月比+8.1%増と大きく伸びたため、全体では同+3.1%増と3か月振りの増加となった。輸入の増加に大きく寄与した品目は電気・情報通信機械と鉱業(石油・LNG)である。
【個人消費は減少の中にも下げ止まりの気配】
国内の需要動向を見ると、1都2府8県に緊急事態宣言が出た1月は、個人消費が減少した。「消費活動指数+」(日銀推計)は前月比−2.9%(図表2)、「家計調査」(2人以上の世帯)の実質消費支出は同−7.3%、「消費動向調査」の消費者態度指数は同−2.2%といずれも減少した。
しかし、2月の消費者態度指数は同+4.2%と3か月振りに反発し、また2月の「景気ウォッチャー調査」の家計動向関連の現状判断DIも、前月比+10.9%ポイントと4か月振りに増加した。水準は低いが、下げ止まりの気配が出ている。
【底固い企業活動から賃金雇用情勢に回復の兆し】
労働情勢を見ると、総実労働時間(季調済み、以下同じ)は12月(前月比、+0.2%)、1月(同+1.2%)と2か月連続で増加し、1月の現金総給与額は前月比+1.9%と3か月振りに増加した。他方、1月の就業者数は前月比+11万人増、完全失業者は同−73万人減、完全失業率は2.9%と前月比0.1%ポイント低下した(図表2)。
飲食、観光など対面型個人サービス業を除くと、企業活動は鉱工業生産、出荷に示されるように回復し、賃金・雇用情勢もやや回復しているようだ。これに伴い消費を抑制している家計の貯蓄性向は上昇している。
【設備投資は長く続いた中期循環的下落局面を脱する兆し】
投資動向を見ると、実質GDP統計(2次速報値)の設備投資は、10〜12月期に前期比+4.3%と3四半期振りに増加したあと、機械投資を反映する1月の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入合計)は、前月比+8.3%と3か月振りの大幅増加となった(図表2)。1月の水準は10〜12月期平均を+1.6%上回っている。10〜12月期の機械受注(民需、除船舶・電力)は前期比+16.8%と6四半期振りの大幅増加となり、1月も前月比+5.2%と増加していること(図表2)から判断すると、設備投資は19年10〜12月期からの長い下落局面から回復に転じる可能性がある(図表3)。
民間住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数は、1月に801千戸と10〜12月平均(805千戸)を僅かに下回り、弱含み横這いを続けている(図表2)。他方、公共投資の先行指標である公共建設工事受注額は、予算の裏付けを背景に、1月も前年比+66.7%と著増した(図表2)。
1〜3月期も、民間住宅投資の弱含み横這いと公共投資の着実な伸びが続くと見られる。
【企業活動の回復から輸入が増加し、貿易収支の黒字は縮小の兆し】
最後に外需の動向を見ると、「純輸出」の大幅黒字は10〜12月期に実質成長率を+1.1%ポイント押し上げたが(図表3)、「純輸出」に対応する1月の「貿易・サービス収支」は、3013億円の黒字と10〜12月平均の黒字(5242億円)を下回った(図表2)。これは1月の輸入が前月比+6.9%幅と輸出の伸び(同+3.5%)を大きく上回り、貿易収支の黒字が、6622億円と10〜12月平均(8207億円)を下回ったためである。通関統計を見ると、1月の輸入増加に大きく寄与した品目は、中国からの通信機である。他方、1月の輸出の中心品目は、中国向けの半導体製造装置、プラスティック、非鉄金属である。
1〜3月期も外需は引き続き成長にプラスの寄与をすると思われるが、日本の鉱工業生産が設備投資関連を中心に回復傾向を強めると、機械関係の輸入増加から「純輸出」の増加は縮小に転じる可能性がある。