2021年1月版
昨年6月以降の景気回復は、コロナ感染症の第3波に伴い再び後退の不安

【緊急事態宣言に伴い再び景気後退の不安】
 昨年11月頃から始まった新型コロナウィルス感染症の第3波に伴い、1月7日と13日に出された緊急事態宣言によって、昨年5月迄の落ち込みからジリジリと回復していた景気は、1月以降、再び下落に転じるかも知れない。3四半期のマイナス成長の後、2四半期続いてプラス成長となった日本経済は、早くも1〜3月期に個人消費を中心に再びマイナス成長に戻る可能性が出てきた(図表1)。
 景気指標はまだ11月までしか出ていないが、早くも景気回復失速の気配が出ている。「景気動向指数」の一致指数が11月に6か月振りに前月を下回り、全国消費者物価(除、生鮮食品)の前年比マイナス幅も−0.9%に拡大した(図表2)。10月に6か月振りに下落した「景気ウォッチャー指数」の現状判断DIは、11月も前月比下落した。感染症拡大の影響が早くも一部に出始めている。
 11月の鉱工業出荷は、国内向け出荷が前月比−1.2と6か月振りに減少したため、輸出は同+2.4%と6か月増勢を続けているにも拘らず、同−0.9%とこれも6か月振りに減少した(図表1)。

【11月の鉱工業生産は足踏み、出荷は国内向けを中心に6か月振りに下落】
 11月の鉱工業統計を詳しく見ると、増加を続けていた生産は前月比0.0%と6か月振りに停滞し、出荷は前述の通り同−0.9%と減少した(図表1)。出荷の減少は、国内向け出荷が同−1.2%と落ちたためで、輸出は同+2.4%と増勢を続けている。
 国内向け出荷の減少に対する業種別寄与率では、輸送機械(自動車など)が−10.9%と際立って大きい。しかし輸出に対しては、輸送機械(同)が+35%の増加寄与率を示しているほか、生産用機械が+41%寄与している。
 国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入も前月比−0.2%と減少したため、前月比−1.4%とこれも6か月振りに減少となった。
 製造工業生産予測調査によると、12月は輸送機械、汎用業務用機械、電気情報通信機械を中心に、前月比−1.1%と続落したあと、1月はほとんどすべての業種が増加し、同+7.1%と大きく増加する。これで落ち込みが始まった昨年10月の水準の近く迄戻る形となる(図表1)。しかし、1月7日と13日に緊急事態宣言が発出された影響が出ると思われるので、これ程の急増にはならない可能性が高い。

【家計消費は緩やかに増加してきたが、1月は再び下落か】
 国内需要の動向を見ると、昨年5月迄落ち込み、6月から回復し始めた「実質消費活動指数+」(日銀推計)は、11月も99.3と前月(98.4)比増加を続けているが、落ち込み前の昨年9月の水準に比較すれば、まだ−10.2%低い(図表2)。
 11月の「家計調査」(2人以上の世帯)を前年比で見ると、前年が消費税率引上げ直後で落ち込んでいることもあって、実質消費支出は前年比+1.1%と増加しているが、季節調整すると前月比−1.8%と4か月振りに減少した。教養娯楽、交際費、外食など巣ごもり生活に伴う減少に関連した支出項目のマイナスが目立つ。緊急事態宣言の発出に伴い、本年1月以降、この傾向が強まり、家計消費は再び落ち込むのではないかと思われる。
 雇用統計を季調済み計数で見ると、11月は就業者数が前月比+0.6%と2か月連続で増加し、完全失業者数は同−2.5%と5か月振りに減少した。このため、完全失業率は2.9%と前月比0.2%ポイント低下した(図表2)。新規求人倍率、有効求人倍率も11月僅かに改善した。しかしこれも、本年1月以降、再び悪化する可能性がある。

【設備投資にコロナ後を見据えた動き】
 投資動向を見ると、足許の機械に対する設備投資動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月急増(前月比+17.1%)の反動で同−1.3%の微減となったが、10〜11月平均の水準は高く、7〜9月平均比+13.6%となり、ほぼ昨年の1〜3月期の水準に戻った(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、10月に前月比+17.1%と大きく増加したあと、11月も同+1.5%と微増し、10〜11月平均は前2四半期を大きく上回り、19年度下期の水準に戻った。業種別には、情報通信機械(製造業)、通信業、リース業(非製造業)からの受注増加が目立つ。DX関連投資の広がりを反映した動きと見られる。
 なお、12月調査「日銀短観」によると、本年度の設備投資計画(ソフトウェア、研究開発を含み、土地投資を除く。金融機関を含む全産業)は、前回9月調査に比して−2.1%下方修正され、前年比−2.4%の減少となっている。ただし、その中のソフトウェア投資額は、同+0.7%の増加となっており、コロナ後を見据えた合理化意欲が窺える。

【住宅投資は続落、公共投資は続伸】
 11月の新設住宅着工戸数は、820千戸と前月(802千戸)比増加したが、10〜11月の平均(811千戸)は7〜9月期の平均(821千戸)を下回っており、これ迄の下落傾向に変わりはない(図表2)。10〜12月期の住宅投資も、19年10〜12月期以来の減少傾向を続けると見られる。
 11月の公共建設工事受注額は前年比+10.2%の増加と10か月連続して前年を上回った(図表2)。補正予算の裏付けもあり、10〜12月期の公共投資は6四半期連続の増加となろう。

【自動車を中心とする輸出の回復から11月の貿易サービス収支は大幅な黒字】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に見合う国際収支統計の「貿易サービス収支」(季調済み、以下同じ)は、11月も7207億円の黒字(前月比+34.0%)と4か月連続して黒字を拡大した(図表2)。この結果、10〜11月の黒字合計は早くも1兆2587億円に達し、7〜9月期の黒字合計(3639億円)を大きく上回って、2017年以来3年振りの大幅黒字となっている。これで、10〜12月期の成長率に対する「純輸出」の寄与度は大きくなろう。
 これは11月の貿易収支が、9974億円の黒字と1兆円に迫る黒字を記録したためである。輸出が6兆2267億円と自動車などを中心にコロナ禍前の19年の水準に回復したが、輸入は依然として原粗油、LNGなどを中心にコロナ禍で落ち込んだ内需を反映した低水準にとどまっている。
 12月の上中旬の通関統計を見ても、輸出が前年比+2.6%の反面、輸入は同−18.4%と落ち込み、貿易収支は黒字基調を続けている。

【10〜12月期は成長鈍化、1〜3月期はマイナス成長か】
 10〜12月期の実質成長率は、引き続き輸出と財政支出の拡大に支えられ、個人消費も増勢を維持するため、設備投資、住宅投資の減少にも拘らず、プラス成長を維持できると思われる。しかし1〜3月期は、緊急事態宣言の影響などにより、個人消費が減少に転じる公算が高いので、再びマイナスに転じることが懸念される。