2020年12月版
輸出、財政支出に支えられて回復基調は崩れていないが、国内民間需要中心に回復に弱さが見られる

【11〜12月の景気指標に回復足踏みの気配】
 コロナ禍に伴い、景気は5月まで急激に落ち込んだあと、非常事態宣言が解除された6月から反動回復を続けてきたが、まだ落ち込み前の水準を回復していないにも拘らず、ここへきて11月の「景気ウォッチャーDI」の現状、先行きが共に低下し、また12月の製造業生産予測調査が前月比減少に転じるなど、回復に足踏みの気配が出てきた。
 10月までは、個人消費、設備投資、公共投資、輸出などの主な需要項目は、順調に増加している。7〜9月期の「法人企業統計」の公表を受けて改定された7〜9月期GDPの2次速報値は、前期比+5.3%(年率同+22.9%増)と1次速報値の同+5.0%増(同+21.4%増)から、民間消費、設備投資を中心にやや上方修正された(図表3)。

【生産は6か月連続増加のあと12月は減少の予測】
 10月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+3.8%、+4.6%と5か月連続して増加した(図表1)。
 製造工業生産予測調査によると、11月は前月比+2.7%と6か月連続して増加したあと、12月は同−2.4%と7か月振りに減少する(図表1)。業種別に見ると、12月の低下は増勢を続けてきた業種のうち、汎用・業務用機械、輸送機械、生産用機械などが久しぶりに減少するためである。

【10月までの鉱工業出荷は、国内、輸出ともに続伸】
 10月の鉱工業出荷の内訳を見ると、国内向け出荷が前月比+2.8%増、輸出が同+8.0%増と、いずれも5か月連続して上昇している。
 この国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内総供給は、輸入も前月比+4.8%増となったため、全体で同+4.0%増と、これも5か月連続の上昇となった。
 業種別に見ると、国産品の国内向け出荷の中心は、輸送機械、電気・情報通信機械など、輸出の中心は輸送機械、汎用・業務用機械など、輸入の中心は電気・情報通信機械、原粗油・LNGなどである。

【消費は家電、自動車が順調の反面、交際費、外食、交通は不振】
 国内需要の動向を見ると、民間消費の指標である「実質消費活動指数+」(日銀推計、季調済み)は、10月も98.7と前月を1.1%上回り、4か月連続して上昇している(図表2)。これで、コロナ禍が表面化して落ち込みが始まった3月の水準を上回るに至ったが、コロナ禍前の2月の水準よりはまだ−4.3%低い(図表2)。
 10月の「家計調査(2人以上の世帯)」の実質消費支出(季調済み)は前月比+2.1%増と3か月連続して増加し、消費税率引上げで落ち込んだ前年の水準に比べ+1.9%と1年振りに前年水準を上回った。しかし、消費増税前で駆け込み需要のあった前年9月に比べれば、−7.1%とかなり低い。
 9月までは消費性向の低下が目立っていたが、10月はほぼ前年並みの消費性向となり、消費増加は可処分所得の増加(実質前年比+2.6%)に見合っている。
 支出の内容は、巣ごもり生活を反映して冷蔵庫、洗濯機などの家電製品購入と自動車関係支出(本体購入、部品購入、整備など)が増加し、交際費、交通・通信費、外食などが減っている。因みに国内新車販売は、10月、11月と消費増税で低下した前年を上回るに至った。

【完全失業率は3.1%に上昇】
 雇用情勢を見ると、10月の「労働力調査」の雇用者数(季調済み、以下同じ)は前月比+19万人(+0.3%)と7月以降4か月連続して増えている。「毎月勤労統計」の常用雇用者数も、10月は前月比+0.2%と6月以降5か月連続して増加している。
 しかし完全失業者は、6月に僅かに減少したあと、毎月ジリジリ増加しており、10月も前月比8万人増加し、完全失業率は3.1%と前月比+0.1%ポイント上昇した(図表2)。職を求めて労働市場に出てくる労働力人口の増加(10月は13万人)に比して、職の増加が不足している。10月の有効求人倍率も、1.04と低下を続け、1に接近している。
 この間名目賃金は、5月を底に僅かに回復傾向にあり、10月の水準は5月比+2.0%となっているが、前年に比べれば−0.8%と下回っている。

【10月の資本財国内向け供給と機械受注は久し振りに大きく増加】
 投資動向を見ると、7〜9月期の「法人企業統計」を反映して改訂された7〜9月期GDP統計(2次速報値)の実質設備投資は、前期比−2.4%と1次速報の同−3.4%から僅かに上方修正された。
 足許の機械に対する設備投資動向を反映した10月の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比+16.6%増と大きく跳ね上がった。これは、国産品が前月比+14.3%、輸入が同+11.4%と双方共に大きく伸びたためである。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、10月に前月比+17.1%と急増した。この水準は、7〜9月期平均を+13.7%上回り、ほぼ1〜3月期平均に等しい(1〜3月平均比−1.0%)。
 設備投資関連の計数は、大型案件によって大きく不規則変動するので、10月の資本財(同)の国内供給や機械受注(同)の急増で、設備投資が増加に転じたと見るのは、早計であろう。しかし、一本調子で
下落を続ける程弱くはないと見ることは出来る。

【住宅投資の減少と公共投資の増加は続く】
 10月の新説住宅着工戸数は、802千戸と下落傾向を続けている(図表2)。他方公共機関からの建設工事受注は、10月も前年比+64.7%と大きく伸びている(図表2)。
 10〜12月期も、住宅投資の下落傾向と公共投資の上昇傾向は続くと見られる。

【貿易・サービス収支は3か月連続して黒字拡大】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する貿易・サービス収支(季調済み、以下同じ)は、10月も5380億円の黒字(前月比+25.8%増)と、3か月連続して黒字を拡大している。
 10月の貿易収支の黒字は、輸出の増加(前月比+2.3%)を輸入の増加(同+3.2%)がやや上回ったため、5380億円(同−3.0%)にとどまったが、サービス収支の赤字が前月より大きく縮小した(△3498→△2159億円)ため、貿易・サービス収支は好転した。
 11月上中旬の通関統計を見ると、輸出は前年比+1.1%増、輸入は同−8.4%減と貿易黒字は再び拡大している。
 輸出品目は米国、中国向けの自動車、中国を中心とするアジア向けの半導体製造装置などが伸びている。

【回復基調は崩れないが、目先10〜12月期の成長は鈍化】
 今後の景気を展望すると、コロナ感染症の再拡大から民間消費の回復が足踏みする惧れはあるが、輸出が着実に伸び、設備投資も大きくは落ち込まない可能性があり、財政支出の拡大にも支えられるので、回復基調は崩れないと見られる。しかし、目先10〜12月期の成長率はやや鈍化すると見られる。