2020年11月版
10〜12月期は再び減速の見込み、落ち込み前の水準に戻るのは明年下期以降か

【7〜9月期は輸出と消費の反動増で実質GDPの落ち込みの約半分を回復】
 7〜9月期の実質GDPは、前3四半期のマイナス成長の反動もあって、前期比+5.0%(年率+21.4%)の大幅増加となった(図表3)。これで、コロナ禍に伴う4〜6月期の落ち込み(同−8.2%)の55.8%を回復した。また景気後退下の消費増税という失政で落ち込んだ昨年10〜12月期(同−1.8%)と本年1〜3月期(同−0.3%)を加えた3四半期のマイナス成長に対しては、43.0%を回復したことになる。
 7〜9月期のプラス成長に最も大きく寄与したのは、輸出の3四半期振りの回復と輸入の大幅減少で大きく増加した「純輸出」で(図表3)、寄与率は+58.6%(輸出のみでは+22.0%)となり、更に4四半期振りに回復した民間消費支出の寄与率が52.0%となった。
 他方、7〜9月期も減少して成長の足を引っ張ったのは、設備投資(成長に対するマイナス寄与度は−0.6%)、在庫投資(同−0.2%)、住宅投資(同−0.3%)である(図表3)。

【鉱工業生産、出荷は昨秋来の落ち込みの半分程度を回復】
 9月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+4.0%、+3.8%といずれも4か月連続の増加となった(図表1)。これで生産も出荷も、昨年10月から本年5月までの落ち込みの54%を回復したが、水準はまだ極めて低い。
 業種別にはほとんどの業種で回復しているが、とくに全体の回復に大きく寄与したのは自動車、生産用機械、電子部品・デバイス、プラスチック製品などである。
 出荷を国内向けと輸出に分けると、前月回復が足踏み気味(前月比+0.3%)であった国内向けも、前月比+4.3%の増加となり、他方輸出は同+3.3%と前3か月に比しやや鈍化したものの増勢を保った。
 国内向け出荷に輸入を加えた9月の国内向け総供給は、輸入が前月比+2.0%と4か月振りにそこそこの増加となったため、全体は同+3.4%の増加となった。しかし、昨年10月から本年5月までの落ち込み幅(−21%)の45%を回復したにすぎない。

【民間消費の回復はまだ緒についた段階】
 需要動向を見ると、「実質消費活動指数+」(日銀推計)と家計調査(2人以上の世帯)の実質消費支出(いずれも季調済み)は、5月を底に6月から回復し始めたが、7月に一時足踏みし、8月と9月には再びジリジリと回復している(図表2)。しかし、落ち込み前の昨年9月の水準に比べると、両者ともまだ1割前後低い。GDP統計の実質消費支出も7〜9月期は前期比+4.7%と大きく回復したが、昨年10〜12月期から3四半期の減少幅に比べれば、回復は36%にすぎない。
 9月の「家計調査」(同)では、消費支出が前年比−7.7%と落ち込んでいるが、可処分所得は同+2.9%と前年を上回っている。消費支出が前年より落ち込んでいるのは、消費性向が前年比−9.3%ポイント低下しているためである。コロナ禍に伴う消費活動委縮の結果と見られる。

【雇用と賃金で決まる雇用者報酬は4〜6月期、7〜9月期と減少】
 雇用情勢を見ると、「労働力調査」の就業者数(季調済み)は1月から5月まで減少したあと、6月から増加に転じているが、それでも9月の水準は前年を−1.2%下回っている。他方完全失業者(同)はジリジリと増加しており、9月の完全失業率(同)は3.0%と昨年末のボトム(2.2%)に比してかなり上昇している。
 「毎月勤労統計」の現金給与総額(同)は、5月を底にやや増えているが、それでも9月の水準は前年を−0.9%下回っている。
 雇用と賃金を併せた実質雇用者報酬(GDP統計)は、4〜6月期(前期比−3.5%)、7〜9月期(同−3.0%)と2四半期連続して減少した。

【設備投資は中期循環的減少局面に入っている】
 投資動向を見ると、実質GDP統計の設備投資は、消費増税の影響を受けて昨年10〜12月期に前期比−4.8%の減少となったあと、本年1〜3月期には同+1.7%と立ち直ったが、コロナ禍の影響を受けて4〜6月期は同−4.5%、7〜9月期は同−3.4%と2四半期続けてやや大きく減少した。足許の機械に対する設備投資動向を示す資本財(除輸送機械)の国内供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、7〜9月期まで3四半期続けて減少している(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、昨年7〜9月期から4四半期連続して減少したあと、本年7〜9月期は前期比−0.1%とほぼ横這いとなった(図表2)。しかし、10〜12月期の見通しは再び同−1.9%の減少である。
 景気変動を左右する設備投資の中期循環を見ると、2009年度をボトムとして18年度まで中期循環的上昇局面にあったが、19年度に頭を打ち(前年度比−0.3%)、本年度はコロナ禍も手伝って、はっきり減少局面に入った。先行指標の機械受注が19年7〜9月期から一貫して減少傾向にあることから見て、設備投資の中期循環的減少傾向は来年上期まで続くのではないかと思われる。

【住宅投資の減少傾向、公共投資の増加傾向は続く】
 実質GDP統計の住宅投資は、7〜9月期に前期比−7.9%と4四半期連続の減少となり、下げ幅をやや拡大した。先行指標の新設住宅着工戸数は、経済活動自粛がやや緩んだためか、7〜9月期に前期比+2.9%と6四半期振りに小幅の増加となったが(図表2)、これで住宅投資の趨勢が上向くとは見られない。
 実質GDP統計の公共投資は、7〜9月期に前期比+0.4%と2四半期連続の増加となった。先行指標の公共部門からの建設工事受注は、9月も前年比+28.2%と8か月連続して前年比増加を続けており(図表2)、予算の裏付けから見ても、公共投資は年度下期も増勢を辿ると見られる。

【輸出の回復から「純輸出」はGDP回復に大きく寄与】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に見合う貿易・サービス収支は、9月も4276億円の黒字と、2か月れんぞくして黒字を記録し、黒字幅は前月よりも拡大した(図表2)。7〜9月期の実質GDP統計でも、「純輸出」の成長寄与度は+2.9%(寄与率は58.0%)と大きい。
 通関統計を見ると、中国向けの輸出が7月から9月まで3か月連続して前年を上回る回復振りを見せ、米国も9月は14か月振りに前年を上回った。通関輸出(季調済み)は電気機械、一般機械、自動を中心に、6月から回復を続けている。

【10〜12月期は成長減速の可能性】
 10〜12月期を展望すると、民間消費の回復はコロナ禍第3波の気配と雇用者報酬の減少から勢いをそがれ、設備投資と住宅投資の減少は続くため、輸出の回復と政府支出の拡大にも拘らず、成長は減速すると予想される。
 昨年7〜9月期の水準に戻るのは、コロナワクチンの普及で消費が立ち直り、また設備投資が中期循環的な立ち直り局面に入る明年下期以降になろう。