2020年10月版
中国向け輸出を中心に外需は回復してきたが、慎重な家計消費、弱含みの設備投資などから国内景気の回復力は弱く、消費者物価は下落

【金融超緩和の中でも景気回復のテンポは遅く、多くの景気指標の前年割れが続く】
 国内景気は、5月を大底に少しずつ立ち直っているが、そのテンポは遅く、大半の経済活動指標は前年を大きく割ったままである。
 GDPベースの需給ギャップ(日銀推計)は、4〜6月期に−4.83%と大幅な供給超過に転じ、消費者物価(除、生鮮食品)の前年比も4〜6月期に−0.1%と僅かなマイナスに転じたあと、8月には同−0.4%とマイナス幅を拡大している。
 9月調査「日銀短観」によると、金融機関を含む全規模、全産業の本年度の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発投資を含み、土地投資を除く)は、6月調査より−1.8%ポイント下方修正され、前年比−0.3%の減少と10年振りのマイナスに転じた。企業は、日本経済が今回の落ち込みを回復する迄の期間を、慎重に見ているようだ。
 この間、企業金融は著しく緩和しており、8月のマネーストックの前年比は、M1が+14.0%(昨年7〜9月期は同+5.0%)、M2が+8.6%(同+2.4%)、M3が+7.1%(同+2.0%)と予備的動機の保有を中心にやや異常な伸びとなっている。9月調査「日銀短観」では、中小企業までも資金繰り判断DIは「楽である」超、金融機関の貸出態度判断DIは大幅な「緩い」超となっている。

【生産、出荷は輸出を中心に3か月連続で増加したが、内需の立ち直りが弱いため、なお前年水準を大きく下回る】
 8月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+1.7%、+2.1%といずれも6月から3か月連続の増加となったが、なお前年比同月の水準をそれぞれ−13.3%、−13.8%と大きく下回っている(図表1)。製造工業生産予測調査によると、9月は前月比+5.7%、10月は同+2.9%の増加となる(図表1)。仮に鉱工業生産がこのテンポで増加すると仮定すると、7〜9月期は前期比+9.9%増となり、4〜6月期の同−11.6%の落ち込みを6割方取り戻し、前年同月比も−11.6%となるが、果たしてそうなるであろうか。
 生産の回復を主導している業種は、落ち込みの大きかった乗用車、自動車部品、鉄鋼・非鉄などである。
 鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比+1.0%の小幅増加にとどまり、輸出の同+7.1%が出荷の増加に大きく寄与している。業種別には、生産増加に大きく寄与した乗用車などの輸送機械が、出荷増加に対する寄与率でも73%に達する。
 国内向け出荷に輸入を加えた国内総供給は、輸入も前月比+0.7%増にとどまったため、全体で同+1.0%であった。輸出とは裏腹に、国内需要が弱いことを物語っている。

【消費はやや立ち直っているが、落ち込み前の水準には戻っていない。賃金・雇用の悪化よりも消費性向低下の影響が大きい】
 国内需要を見ていくと、8月の「実質消費活動指数+」(日銀推計、季調済み)は95.3と7月(94.3)を上回ったものの、回復が始まった6月(95.6)や3月以前の水準よりは低い(図表2)。同じ傾向は、家計調査(2人以上の世帯)にも出ており、実質消費支出(季調済み)の前月比は6月に+13.0%と大きくリバウンドしたあと、7月は再び−6.5%と下がり、8月は+1.7%と7月の下落を取り戻せず、6月や2月以前の水準を下回っている。
 「毎月勤労統計」によると、8月の現金給与総額は前年比−1.3%と、「きまって支給する給与」を中心に5か月連続して前年を下回っている。他方、8月の常用雇用は前年比+0.8%増と引き続き前年を上回っている。ただ、パートタイマーは同−1.3%と5か月連続して前年を下回っている。
 家計調査(勤労者世帯)の実質可処分所得は、前年比+0.8%と4か月連続して前年を上回っている。他方、実質消費支出は消費性向の低下から前年比−6.7%の減少となっている。家計消費の立ち直りが遅く、コロナ禍で大きく落ち込んだ3月以前や前年の水準を下回っているのは、賃金。雇用情勢の悪化による収入の減少よりも、主として外出自粛や先行きの警戒感などによる消費性向の低下によるものである。

【設備投資は緩やかな減少に転じた】
 投資動向を見ると、足許の機械に対する設備投資動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、8月に前月比−7.2%と前月(同−2.4%)に続き、2か月連続で減少した。1〜3月期(前期比−1.3%)、4〜6月期(同−0.9%)も減少しており、機械に対する設備投資は年初から減少傾向に転じたと見られる(図表2)。先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、8月に前月比+0.2%と前月(同+6.3%)に続いて増加し、7〜8月平均は4〜6月平均比+1.4%と微増したが、1〜3月期以前の水準よりは低く、緩やかな減少傾向は改まっていない。
 既に述べたように、9月調査「日銀短観」によると、2020年度の全規模の製造業・非製造業・金融機関の設備投資(ソフトウェア・研究開発投資を含み土地投資額を除く)の合計は、前年比−0.3%減に下方修正された。もっとも、その中で2020年度のソフトウェア投資額は、6月調査より0.7%ポイント上方修正され、3.2%増となっている。企業は長期的な技術革新投資を維持しながら、目先の能力拡大投資などのテンポを落としているようだ。
 7〜8月の新設住宅着工戸数は、月平均824千戸と4〜6月期の平均(798千戸)を上回った(図表2)。コロナ禍に伴う建設活動の抑制がやや緩んだためと見られ、3四半期続いた住宅投資の減少は、7〜9月期には一時下げ止まる可能性がある。
 公共建設工事の受注は引き続き大きく伸びており(図表2)、公共投資の増勢は続くと見られる。

【中国向け輸出を中心に8月の「純輸出」は黒字に転換】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する8月の「貿易サービス収支」(季調済み、以下同じ)は、1640億円の黒字と6か月振りの黒字に転換した。これは、前月5か月振りに黒字に転じた貿易収支が、8月には更に5412億円の黒字と黒字幅を拡大したためである。6月以降、輸出がジリジリと立ち直る一方、輸入は弱含み横這いとなっているためである。この傾向は、前述した通り、鉱工業出荷統計にも現れている。
 世界的なコロナ禍に伴う経済活動の委縮により、通関ベースで見て、ほとんどの国に対する8月の輸出は前年比で減少しているが、その中にあって、中国向け輸出は前年比で+5.1%の増加となっている。全体の増加に対する寄与度の高い品目は、自動車・同部品、非鉄金属・鉄鋼などである。
 9月も同じ傾向が続けば、7〜9月期のGDP統計では、3四半期振りに成長に対し、「純輸出」がプラス寄与となりそうである。