2020年9月版
急激な落ち込みからの反動回復は、公共投資、中国向け輸出を中心に続いているが、その勢いは消費立ち直りの一服、設備投資の減少から鈍化

【消費の立ち直りは先細り、設備投資は減少、輸出と公共投資が下支え】
 4〜6月期の実質GDP(2次速報値)は、前期比−7.9%(年率−28.1%)と記録的な落ち込みとなったが、日本経済を月ベースで見ると、5月を底として、6月以降現在まで、徐々に立ち直りを続けている。回復を主導しているのは、5月の緊急事態宣言解除後に伴う消費のリバウンド、コロナ禍からの立ち直りの早い中国向け輸出の増加、大型予算に裏付けられた公共投資の拡大である。
 このうち、消費の立ち直りは次第に勢いを失っている。雇用・賃金情勢が悪化しているためである。また設備投資は、小幅増加の年度計画に比して下振れしており、4〜6月期から減少傾向に入った。総じて、国内民間需要は先細りである。輸出と公共投資に支えられた回復が、企業収益、雇用、賃金の立ち直りをどの程度もたらすかに、今後の景気動向が懸っている。

【鉱工業生産・出荷は9月まで4か月連続して増加する見込みながら、なお落ち込み前の水準を1割弱下回る見込み】
 7月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+8.0%、+6.0%とコロナ禍に伴う5月までの急激な落ち込みのリバウンドによって、前月に引き続き2か月連続して大きく増加したが、とくに7月の上昇幅は極めて大きい(図表1)。
 製造工業生産予測調査によると、8月は同+4.0%、9月は同+1.9%と、7月に比べてやや鈍化しながら、4か月連続して増加する見込みである(図表1)。仮に鉱工業生産がこの予測と同じ比率で増加すると仮定すると、9月までに2〜5月の落ち込みの62.1%を回復し、落ち込み前の1月の水準の92.0%に達する。
 生産の回復をリードしている業種は、自動車・同部品、鉄鋼・非鉄、汎用・業務用機械、電気・情報通信機械など日本の製造業の主力製品である。
 7月の出荷(前月比+6.0%)を国内向けと輸出に分けると、前月比それぞれ+5.3%、+5.9%と前月に引き続きいずれもやや大きく回復した。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月比+0.0%にとどなったため、同+3.6%であった。業種別に見ると、輸入の停滞は輸送機械や石油・石炭製品が増加した反面、鉱業製品、化学品(除、医薬品)などが減少したためである。

【賃金・雇用情勢が悪化しているため消費のリバウンドには勢いがない】
 国内需要の動向を見ると、「消費活動指数+」(日銀推計)は、昨年12月の103.9から本年5月の94.6まで−9.0%落ち込んだが、緊急事態宣言解除のあと6月には95.9(前月比+1.4%)とやや回復した。しかし7月には93.6(同−2.4%)と再び下落した(図表2)。
 消費動向調査の「消費者態度指数(2人以上の世帯)」を見ると、6月の前月比+4.4%のあと、7月は同+1.1%と伸び率は鈍化したもののやや増加したが、8月には同−0.2%と微減した。
 消費のリバウンドには、勢いがない。これは雇用情勢の悪化が改まらず、勤労所得の伸びも落ちているためと思われる。因みに7月の雇用者数は前年比−1.5%と4か月連続して前年を下回ったままである(図表2)。また、7月の完全失業率は2.9%とジリジリ高くなっている(図表2、最低は昨年12月の2.2%)。また7月の実質賃金は前年比−1.6%と5カ月連続して前年を下回っている。

【4〜6月期に減少した設備投資は年内は弱基調、回復は明年か】
 設備投資の動向を見ると、4〜6月期のGDP統計(2次速報値)の実質設備投資は、法人企業統計の設備投資の弱さを反映して、1次速報値の前期比−1.5%から同−4.7%に下方修正された。足許の機械に対する設備投資動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、昨年10〜12月期から本年4〜6月期まで、3四半期連続して減少しているが、7月も前月比−2.9%の減少となった(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4〜6月期に前期比−12.9%と大きく減少したあと、7月は4〜6月平均比+1.3%(前月比+6.3%)とやや回復した。しかしこの水準は、1〜3月期以前の水準に比べれば1〜2割低い(図表2)。設備投資の先行指標は下げ止まったとしても、ピークの昨年度上期に比して15%程度低い水準にあるので、今後GDP統計の実質設備投資は、4〜6月期に続き、数四半期は弱基調を辿り、回復はコロナ禍収束がはっきりしてくる明年になるのではないかと思われる。

【住宅投資の弱基調、公共投資の増加傾向続く】
 GDP統計の実質住宅投資は、4〜6月期まで3四半期連続して減少したが、先行指標の新設住宅着工戸数は、7月に4〜6月平均比+3.8%と増加した(図表2)。しかし、雇用・賃金の動向を反映して、4〜6月期の実質雇用者報酬が前期比−3.8%減と大きく落ちている最近の情勢から見て、住宅投資はしばらく弱含みで推移すると見られる。
 GDP統計の実質公共投資は、4〜6月期に前期比+1.1%増と前期の減少(同−0.5%)を取り戻し、昨年末の増加基調に戻った。先行指標の公共建設工事受注額は、4〜6月期の前年比+22.0%に続き、7月も同+37.7%と著増している(図表2)。公共投資は、コロナ禍対策の予算措置もあって、増加基調を続けよう。

【中国向け輸出の回復を中心に、7月の貿易収支は5か月振りに黒字転換】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に反映される貿易サービス収支は、7月に−1416億円の赤字となり、4月以来の赤字縮小を続けている(図表2)。7月の貿易収支は、5か月振りの黒字となった。輸出は3〜5月と落ち込んだあと、6月から回復に転じ、7月は5月比+10.4%の水準にある。反面、輸入は4〜6月と落ち込んだあと、7月にようやく前月比+1.6%と微増した。
 7月の通関統計を見ると、輸出の回復を支えているのは、電気機械、一般機械、輸送用機械を中心とする中国向け輸出の前月比8.2%増である。コロナ禍に伴う経済の落ち込みからの回復は、中国が米欧に比して早いことが、日本の輸出にはっきりと反映されている。
 7月の統計から判定すると、世界的なコロナ・パンデミックに伴う日本の「純輸出」のマイナスは、4〜6月期が底となり(図表3)、7〜9月期からは緩やかに回復し始めると見られる。