2020年8月版
4〜6月期が大底となったあと、月ベースでは6月から家計消費と輸出を中心に立ち直りへ
【3四半期年率−13.3%に達する実質GDPの落ち込みで4〜6月期が大底となったが、今後の回復には多くの不確定要因】
政府は、88年10月をピークに、日本経済の景気後退が始まったと認定した。確かに、鉱工業生産と出荷は88年10月をピークに下落傾向に入っている(図表1)。実質GDPベースの需給ギャップも、88年10〜12月期の需要超過がピークで、その後は需給が緩和に向かっている。
しかし、実質GDPの水準は、昨年(19年)7〜9月期まで増加傾向を辿っていた。それが10〜12月期に減少に転じたのは、大型台風の影響もあったが、主因は消費税率引上げに伴う個人消費と設備投資の急落である(図表3)。景気後退が始まっている時に、消費税率引上げで後退を加速したのは、明らかに政策の誤りであった。
年明け後は、不幸にもコロナウィルス感染症の蔓延が始まり、国内の外出自粛やグローバルなサプライチェーンの寸断が起こり、需要面と供給面の双方から経済活動が低下した。実質成長率は、1〜3月期の前期比−0.6%(年率−2.5%)に続き、この程公表された4〜6月期も同−7.8%(同−27.8%)と大きく落ち込んだ(図表3)。昨年10〜12月期からの3四半期を通算すると、実に−10.0%(同−13.3%)の実質GDPの縮小である。
しかし、月ごとの推移を見ると、国内では5月に緊急事態宣言が解除され、国際的にもグローバル・サプライチェーンの復旧が徐々に進み始め、政府・日銀の支援対策を背景に銀行・信金の貸出残高とマネーストック(M3)の前年比増加率も年初の2%強から6%台に上がってきたこと(図表2)に支援されたこともあって、6月から鉱工業生産、出荷などの供給面と個人消費、設備投資などの需要面の双方が立ち直り始めた。
回復の動きは7〜9月期も続くと見られるが、その動向や回復のテンポは、コロナ禍の帰趨、ワクチン開発の時期、国際経済・政治情勢の推移など多くの不確定要因に依存している。
【落ち込みの大きかった業種を中心に、6〜8月の鉱工業生産はリバウンド】
6月の鉱工業生産は、前月比+2.7%と5か月振りに増加し、出荷も同+5.2%と4か月振りに増加した。また製造工業生産予測調査によると、7月は前月比+11.3%、8月は同+3.4%と引き続き立ち直りを続ける見込みである(以上図表1)。コロナ感染症の蔓延に伴う経済活動の縮小はひとまず底を打ち、リバウンドの過程に入った。
もっとも、7月と8月の鉱工業生産が製造工業生産予測調査と同じ率で改善したと仮定しても、8月の水準は落ち込み前の1月の水準をまだ−6.8%下回っている(図表1)。四半期ベースで見ても、予測指数の7〜8月平均は、鉱工業生産の大底となった4〜6月平均を+11.5%上回ったものの、落ち込み前の昨年7〜9月の水準に較べればまだ−11.1%低い。
6〜8月の生産回復を主導している業種は、落ち込みの大きかった輸送用機械(乗用車など)と生産用機械(汎用、業務用)などである。
【6月の出荷は国内向け、輸出共に大きく立ち直り】
6月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比+4.9%と4か月振りに大きく上昇し、輸出も同+6.1%と同じく4か月振りの大きな上昇となった。反転上昇に寄与した主な業種は、鉱工業生産全体と同様、国内向けも輸出も輸送用機械、生産用機械などである。
国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月に続き前月比−0.9%と減少したものの、国内向けの伸びが高かったため、同+3.6%と3か月振りに増加した。もっともこの水準は、昨年9月に比して−17.9%も低く、国内経済の落ち込みの激しさを物語っている。
【家計消費は3〜5月に大きく落ち込んだあと6月から回復】
国内需要の動向を見ると、実質消費活動指数(日銀推計)は、外出自粛が広範化した3〜5月に−17.4%と落ち込んだあと、緊急事態宣言の解除に伴い、6月は前月比+8.6%とリバウンドを見せた(図表2)。同様の傾向は家計調査(2人以上の世帯)の実質消費支出にも出ており、3〜5月に2月比−12.3%下落したあと、6月には前月比+13.0%の大幅な反動増となった。
もっとも広汎な消費動向(インターネット購入を含む)を網羅している消費活動指数では、まだ3〜5月の落ち込みの4割しか回復していない。なお、4〜6月期を平均すると、実質消費活動指数も、実質GDPの家計消費も、前期比それぞれ−12.7%、−8.6%と大きな落ち込みとなっている。
他方、雇用の回復は遅れており、6月の就業者数(季調済み)は前月比+0.1%、雇用者数は同−0.2%と全体として下げ止まった程度である。完全失業率は、失業者が前月比−1.5%減少したため、2.8%と前月より0.1%ポイント改善した。
【設備投資は弱基調、住宅投資は減少、公共投資は増加】
次に投資動向を見ると、4〜6月期GDP統計の実質設備投資は、前期比−1.5%の減少と、このところ四半期ごとに増減を繰り返している。しかし傾向としては昨年10〜12月期以降弱含みに転じている(図表3)。
足許の機械に対する投資動向を示す資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)も、4〜6月期は前期比−1.0%と3四半期連続の減少(図表2)となった。もっとも月ベースでは、6月に前月比+2.8%の増加となり、リバウンドの気配もある。設備投資の基調は、機械受注(民需、除船舶・電力)が、6月は前月比−7.6%となったうえ、4〜6月期は前期比−12.9%と3四半期連続の減少となっていることから見て、弱含みと見られ、6月の資本財(同)出荷の増加はコロナ禍に伴う実勢以上の大きな落ち込みの一時的リバウンドではないかと思われる。
4〜6月期の実質住宅投資(GDP統計)は前期比−0.2%と3四半期連続の減少となった。新設住宅着工戸数(図表2)の減少傾向から見て、今後も弱含みで推移しよう。他方4〜6月期の実質公共投資(同)は+1.2%の増加となった。公共工事受注額(図表2)が補正予算の裏付けもあって増加していることから見て、今後も緩やかな増加傾向を辿ると見られる。
【輸出の回復から「純輸出」の成長に対する寄与度は7〜9月にプラスに転じる可能性】
最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する貿易・サービス収支(季調済み)は、4月に1兆2939億円の赤字と最大の赤字を記録したあと、5月以降赤字幅を縮め、6月は3581億円の赤字まで縮小した(図表2)。これは輸出の緩やかな立ち直りと輸入の減少で貿易収支の赤字が徐々に縮小しているためである。因みに6月の輸出は、中国向けの自動車、非鉄金属などを中心に、前月比+2.6%の増加となり、輸入は原粗油を中心に同−3.8%の減少となった。
4〜6月期の実質GDP統計では、輸出が前月比−18.5%と大きく落ち込んだため、「純輸出」の成長寄与度は−3.0%(マイナス成長に対する寄与率は38.5%)と大きかったが、上記の通り、月ベースでは6月から輸出が回復しているので、7〜9月期の「純輸出」は成長に対してプラスの寄与に転じるのではないかと思われる。
このほか、家計消費も前述の通り6月から回復しているので、7〜9月期の実質GDPは4四半期振りに増加に転じ、今回の景気後退の大底は4〜6月期ということになると思われる(図表3)。ただし、7〜9月期以降の回復テンポは、コロナ禍の推移のほか、コロナ禍と関係ない企業、家計などの自律的景気後退の調整など多くの不要に依存しているので、慎重に見ていかなければならない。