2020年7月版
急激に落ち込んだ景気は6月から底這いへ

【日本経済は自律的景気後退に消費増税ショックとコロナショックが加わった状態】
 日本経済は18年末に景気がピークに達し、19年始めから自律的・循環的な下降局面に入っていたが(図表1)、それが19年10月の大型台風と消費税率引上げによって加速され、更に年明け後はコロナ禍で一段と大きく落ち込んだ。低下していた実質成長率は、昨年10〜12月期から本年4〜6月期まで、3四半期連続のマイナス成長となった(図表3)。
 「日銀短観」(6月調査)の業況判断DI(全産業・全規模企業)は、「悪い」超の31%ポイントに落ち込んだが、特に悪い業種は、製造業では輸出減少の影響が大きい自動車、生産用機械、造船・重機等、鉄鋼など、非製造業では外出自粛の影響が強い宿泊・飲料サービス、対個人サービス、運輸・郵便などである。

【銀行貸出は急増、景気は底這いへ】
 しかし、5月に緊急事態宣言が解除され、経済活動が回復し始めたため、5月まで下落していた鉱工業生産は、製造工業生産予測調査によると、6月から上昇しそうである(図表1)。とりあえず景気後退は、急激な下落から、大底を這う局面に入ってきた。
金融面では、操短や休業を余儀なくされた企業や事業者に対する金繰り支援の流動性補填融資が顕著に進み、7年間の異次元金融緩和でも伸び率が高まらなかった銀行・信金の貸出残高が、1〜3月期の前年比+2.0%から、4月以降急速に伸び率を高めて、6月には同+6.2%に達している。これに伴い、マネーストック(M3)も6月は+5.9%に高まった(図表2)。

【鉱工業生産は3〜5月に急落したあと6月に底打ち】
 5月の鉱工業生産と出荷は、前月比いずれも−8.4%と前月(それぞれ−9.8%、−9.5%)に引き続き大幅に下落した(図表1)。振り返ると、鉱工業生産は18年10月をピークに一高一低のうちに1年以上緩やかに下落傾向を辿ってきたが(18/11〜20/2、−5.8%)、ここへきて3〜5月の落ち込みは、ことのほか急激である(3か月で−20.5%)。
 18年11月から16か月の下落傾向は、日本の景気がこの時期に自律的・循環的な下降局面に入ったことを示しているが、20年3月から3か月の急激な下落は、コロナ禍の内外経済に対するショックの影響であり、これが極めて大きかったことを物語っている。
 しかし、製造工業生産予測調査によると、6月は前月比+5.7%、7月は同+9.2%と大きくリバウンドすると見込まれている(図表1)。コロナ禍第1波に伴う外出自粛、移動禁止など強力な公衆衛生政策の経済に対するショックは、ひとまず終了するようだ。

【5月の国内向け出荷と輸出は、すべての業種で下落】
 5月の出荷を国内向けと輸出に分けると、それぞれ前月比−8.2%、同−9.1%といずれも大きく減少した。業種別に見ると、国内向けは鉄鋼、非鉄金属、輸送機械(乗用車、車体・自動車部品等)を中心に総ての業種が低下し、輸出は輸送機械(乗用車、船舶・同機関等)、石油・石炭を中心に、これも総ての業種が低下した。内外における外出自粛、都市封鎖などコロナ禍に伴う強力な公衆衛生政策は、総ての業種の生産、出荷に負の影響を及ぼしていることが分かる。
 5月の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、輸入が前月比−11.5%と大きく落ち込んだため、全体で同−9.0%の大幅減少となった。輸入の低下に大きく寄与した業種は、鉱業(原粗油、石炭等)、輸送機械(乗用車、自動車部品等)などである。

【5月の個人消費は下げ止まり、賃金・雇用情勢は引き続き悪化】
 国内需要の動向を見ると、個人消費は外出自粛などの影響で3月、4月と大きく落ち込んだあと、5月は下げ止まった。5月の家計消費(2人以上の世帯)は前月比−0.1%、「消費動向指数+」(日銀推計)は同+1.0%となった(図表2)。後者には所詮「巣ごもり」で増えているコンテンツ配信が含まれているため、微増したと思われる。
 労働需給はジリジリと悪化しており、5月の常用雇用と全雇用者は2か月連続で減少し、有効求人倍率は引き続き1.20に低下(ピークは19/4の1.63)、完全失業率は2.9%に上昇した(ボトムは19/12の2.4%)。
 5月の実質賃金は、前年比−2.1%と3か月連続で前年を下回った。
 賃金や労働需給の悪化傾向は、コロナ禍の一時的ショックの影響にとどまらず、景気後退に伴う基調的な動向に変わっていくことが懸念される。

【設備投資は昨年10〜12月期に減勢に転じるも、ソフトウェア・研究開発を中心に根強さも残る】
 次に投資動向を見ると、実質GDP統計の設備投資は19年7〜9月期をピークに、10〜12月に前期比−4.8%とやや大きく低下したあと、1〜3月は同+1.9%と増加したが、7〜9月期のピークの水準には戻っていない。足許の機械に対する投資動向を示す資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)も、昨年7〜9月のピークを10〜12月期、1〜3月期と2四半期連続して下回っており、4月と5月の平均もピークを下回っている(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)を見ると、5月は前月比+1.7%と微増したが、4〜5月平均は前期比−10.8%の低水準であり、昨年7〜9月以降、4四半期連続の減少となりそうである(図表2)。昨年上期から始まった自律的景気後退の中で、機械受注はジリジリと低下している。昨年10〜12月期から減勢に転じたGDP統計の設備投資は(図表3)、引き続き減少傾向を辿ると見られる。
 もっとも、「日銀短観」(6月調査)の本年度設備投資計画(土地投資を除きソフトウェア・研究開発投資を含む、金融機関を含む全産業)は、ソフトウェア・研究開発投資の増加を中心に、前年比+1.5%の増加となっており、景気後退の大底にも拘らず、設備投資には根強さがあるように見える。

【住宅投資は減勢持続、公共投資は4〜6月期から再上昇】
 住宅投資は、設備投資と同様、19年7〜9月期をピークに減少傾向に転じているが、先行指標の新設住宅着工戸数は、4〜5月の平均も802千戸(年率換算)と1〜3月期平均(863千戸)を下回り、低下傾向を改めていない(図表2)。
 公共投資は、1〜3月期に前期比−0.6%と5四半期振りに減少したが、先行指標の公共建設工事受注額(大手50社)は予算の裏付けを得て2〜5月と4か月連続して前年を上回っているので(図表2)、4〜6月期には再び増勢を取り戻すと見られる。

【コロナ禍に悩む米国、EU向けの輸出減少が大きい】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する5月の貿易・サービス収支は、4月の赤字(1兆2939億円)よりは縮小したものの、なお7334億円の赤字となった(図表2)。これは、輸出が4兆6098億円(前月比−5.4%)と3か月連続して減少したため、輸入も減少したものの(同−12.6%)、貿易収支が5412億円の赤字となったためである。
 6月に入ってからも、上・中旬の通関ベースの輸出は前年比−25.2%と前年を大きく下回っているが、5月の通関ベースの輸出(前年比−28.3%)に比べると、落ち込み幅はやや縮小している。
 5月の通関ベースの輸出を国別に見ると、コロナ禍の影響が強い米国(前年比−50.6%)とEU(同−33.8%)向けの輸出減少が大きい。他方、コロナ禍の克服が進んでいる中国向けの輸出は、同−12.0%と下落幅は縮小している。
 6月の貿易・サービス収支は、輸出の減少幅縮小で多少は改善すると見られるが、依然として赤字を続ける可能性が高く、4〜6月期のGDP統計の「純輸出」は、引き続き成長に対して大きなマイナス寄与度になると思われる(図表1)。