2020年6月版
内外共に激しい景気後退

【経済の落ち込みは加速、対策の効果でマネーストックの伸びは徐々に高まる】
 1〜3月期の実質GDP「2次速報値」は、実質設備投資が「法人企業統計」を反映して前期比−0.5%から+1.9%に上方修正されたため、成長率は前期比−0.9%(年率−3.4%)から同−0.4%(同−2.2%)に上方修正された(図表3)。しかし4月以降、日本経済の落ち込みはかなり加速している。コロナ禍の影響を強く受け、とくに家計消費と輸出の下落が著しい。
 政府と日本銀行の救済融資支援策を反映して、銀行・信金の貸出平残の前年比は、1〜3月までの+2.0%から、4月は+2.9%、5月は+4.8%と高まり、つれて預金平残の前年比も4月+4.2%、5月+6.2%と高まっている。これを反映してマネーストックの前年比も、4月はM2+3.7%、M3+3.0%、5月は同+5.1%、同+4.1%と金融引締めでバブルが崩壊した1991年以来最高の伸びとなっている(図表2)。

【鉱工業生産、出荷の大幅下落は5月まで続く見込み】
 4月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−9.1%、−8.8%と前月(同−3.7%、同−5.8%)よりも更に下落テンポを速めた。製造工業生産予測調査によると、5月は同−4.1%と更に下落したあと、6月は同+3.9%と下げ止まりの気配を見せている。仮にそうなると仮定しても、4〜6月期は前期比−12.8%と最近では例を見ない落ち込み幅となる(以上図表1)。
 4月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比−7.4%(前月の前々月比は−3.0%)、輸出は同−12.6%(同−14.5%)となり、国内向け出荷の下落は加速しており、輸出は前月とほぼ同様の2桁の下落である。
 国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月比+3.1%と増加したため、同−4.9%の減少となった。

【輸出下落の中心は自動車、同部品】
 4月の輸出下落の業種別寄与度を見ると、輸送機械(乗用車、同部品等)の−9.21%が最も高く、続いて汎用・業務用機械が−1.06%、生産用機械が−0.59%と日本の主力輸出品目が軒並み大幅に減少している。米国、欧州、中国などのコロナ禍によるマイナス成長が、強く響いている。
 また国内向け出荷の落ち込みを招いた業種をみると、寄与度の大きいのは輸送用機械(同)の−4.21%と鉄鋼・非鉄金属の−0.99%で、輸送用機械がほぼ6割を占めている。
 輸入の増加に寄与したのは、電気情報通信機械の+2.57%(寄与率83%)が圧倒的に大きく、続いて生産用機械(半導体製造装置など)の+0.40%、電子部品・デバイスの+0.36%である。生産用機械は、国内でも全体の出荷が低下する中で増加しており、この部門の国内需要の強さを示唆している。

【消費の減退は続いているが5月には下げ止まりの気配】
 国内需要の動向を見ると、外出自粛の影響を強く受けている家計消費は、1〜3月期の実質GDP統計で前期比−0.8%と消費増税と大型台風で同−3.0%と減少した10〜12月期の水準から、更に減少した。4月に入っても減少は続いており、「実質消費活動指数+」(日銀試算)は96.1と1〜3月平均比−14.5%と大きく落ち込んでいる(図表2)。「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)も、4月は前月比−6.2%、前年同月比−11.6%と3月の同−4.0%、同−6.0%よりも更に大きく減少した。
 業種別に見ると、スーパーは食料品を中心に4月も前月比+3.6%と3か月連続で増加しているが、百貨店、自動車販売店、家電量販店は、前年比で大きく落ちている。
 しかし、5月の「消費動向調査」によると、5月の「消費者態度指数」(2人以上の世帯、季調済み)が、4月に比し+2.4ポイント上昇し、ようやく下げ止まりの気配を見せていることが注目される。6月には全国的に外出自粛がやや緩んでいるので、消費に変化が出てくる可能性がある。
 なお、家計消費の下落傾向を反映し、全国消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比は、1月の+0.8%をピークにジリジリと上昇率を下げていたが、4月は同−0.2%と前年比下落に転じた。今後の動向が注目される。

【雇用・賃金情勢の悪化は加速】
 雇用情勢を見ると、就業者数全体は3月に前月比−0.2%と下落に転じたあと、4月には同−1.6%と減少傾向を強め、前年比は−1.2%に低下した。このうち雇用者は、3月に前月比横這いのあと、4月から同−1.7%と減少に転じ、前年比は−0.6%であった。
 労働市場から退場する動きが出ているため、4月の労働力人口が前月比−1.4%減、非労働力人口は同+2.2%増となったが、それでも労働力人口のうちの完全失業者は前月比+3.5%増となり、完全失業率は0.1ポイント上昇して2.6%となった(図表2)。
 一般職業紹介状況を見ると、新規求人が前月比−22.9%と大きく落ち込み、有効求人は前月比−8.5%まで下がった。
 4月の「毎月勤労統計」によると、増勢を保っていた常用雇用者数が、3月に前月比横這いとなったあと、4月には前月比−0.5%の減少に転じた。現金給与総額は4月に前月比−0.8%と5か月連続で減少し、遂に前年比−0.6%の下落に転じた。所定内給与は前年比横這いであったが、所定外(時間外)給与が同−12.2%と大きく下がったことが響いた。物価上昇を差し引いた実質賃金では、前年を−0.7%下回っている。
 雇用、賃金の情勢は、悪化のテンポがやや速まっている。

【本年の世界経済の成長率と世界貿易量増加率がマイナスになると見られる中、本年度の日本の設備投資は4〜6月期から減少に転じる見込み】
 投資動向を見ると、1〜3月期の「法人企業統計」の設備投資の増加を反映し、GDP統計の1〜3月期の実質設備投資も、1次速報値の前期比−0.5%減から2次速報値の同+1.9%増に上方修正された。しかし、それでも1〜3月期の実質設備投資の前年比は、−1.8%と2四半期連続で前年を下回っている(図表3)。
 足許の機械関連設備投資の動向を調べるため、資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)を見ると(図表2)、10〜12月期(前期比−6.0%)、1〜3月期(同−1.3%)と2四半期連続して減少したあと、4月は前月比+7.3%と急増している(図表2)。しかし、これは2月(前月比−9.7%)、3月(同−0.7%)と大幅に減少した反動とみられ、4月も前年との対比で見れば−0.9%の低水準である。趨勢を観れば、昨年10〜12月期から減少傾向に転じている(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、4月も前月比−12.0%の大幅減少となった(図表2)。とくに非製造業(除、船舶・電力)が前月比−20.2%減となったのが目立つ。
 IMF、世銀、OECDなどの世界経済見通しによると、世界経済の成長率は本年に−3.0〜−6.0%と落ちこんだあと、21年は+4.2〜+5.2%と反騰するが、20年の落ち込みをカバーするのが精一杯である。世界貿易量は本年−11.0〜−13.4%と大きく落ち込んだあと、21年は+5.3〜8.4%の増加にとどまると見ている。
 このような世界経済の展望を踏まえれば、本年度の日本の設備投資が減勢に転じるのは当然の成り行きと見られる。

【住宅投資は減少持続、公共投資は増加傾向】
 GDP統計における1〜3月期の実質住宅投資は、前期比−4.2%減と前期(同−2.3%減)よりも下落テンポを速めた。先行指標の新設住宅着工戸数は、4月に年率797千戸と1〜3月期平均(同863千戸)を−7.6%下回り、昨年4〜6月期以降の下落テンポを強めている(図表2)。コロナ禍に伴う先行き見通し難と前述の賃金雇用情勢から考えて、民間住宅投資はしばらく下落傾向を続けよう。GDP統計の実質公共投資は、昨年中毎四半期増加を続けたあと、本年1〜3月期に前期比−0.6%と5四半期振りに減少した(図表3)。これは偶々予算執行が途切れたためと思われる。先行指標の公共建設工事受注は、4月も前年比+55.5%と3か月連続のしかも大幅な増加となっている(図表2)。コロナ対策の第1次、第2次補正予算が執行されることでもあり、公共投資は今後当分の間増勢を続けると見られる。

【4月の貿易・サービス収支は空前の赤字】
 4月の貿易収支は3月の赤字(4222億円)の3倍に達する1兆285億円の巨額の赤字を記録した。このため、GDP統計の外需(純輸出)に反映される貿易・サービス収支も1兆2939億円と例を見ない巨額の赤字に達した(図表2)。経常収支は、第1次所得収支が1兆6876億円の黒字を記録したため、2524憶円の黒字と辛うじて黒字を維持した。
 貿易・サービス収支と貿易収支がこのように前例を見ない赤字を記録したのは、4月の輸出が前月を1兆円近く下回る4兆8731億円(前月比−15.4%、前年比−25.1%、19年中の月平均比−21.9%)に転落したためである。
 通関ベースで4月の輸出を国別に見ると、前年同月比で対米国が自動車・同部品を中心に−37.8%減、対EUが自動車・同部品、金属加工機械を中心に−28.0%減、対アジアが自動車・同部品、有機化合物を中心に−11.4%減となっている。言うまでもなく、コロナ禍に伴う世界的な自動車などの需要減少によるものである。
 5月上・中旬の通関ベースの輸出は、前年比−26.2%と4月とほぼ同じ落ち込みである。もっとも、5月上・中旬は輸入も前年比−20.9%(4月は同−7.2%)と落ちているので、貿易収支の赤字は縮小すると見られる。

【4〜5月は内外共に厳しい時期、果たして6月以降に下げ止まりの気配が出るか】
 4〜5月は、内外共にコロナ禍で需要が最も落ち込んだ時期であり、今後も厳しい計数の公表が続くと見られる。
 変化の兆しが出てくるとすれば、早くて6月の指標からではないだろうか。しかし、それも下げ止まりの気配程度であって、20暦年と20年度の成長率がかなりのマイナスとなることは、避けられないだろう。