2020年5月版
コロナ禍による景気後退が加速

【日米欧は4〜6月期に1〜3月期を上回るマイナス成長の予測】
 新型コロナウィルスのパンデミックに伴い、1〜3月期の実質GDPは、米国−4.8%(前期比年率)、EU−14.4%(同)、中国−6.8%(前年同期比)とリーマンショック時を上回る大きな落ち込みを見せている。
 日本の1〜3月期も、GDPの需要項目が軒並み減少し、前期比年率−3.4%、前年同期比−2.0%の下落となった(図表3)。日本は消費税率引上げと大型台風のショックで、10〜12月期に前期比年率−7.3%と大きく落ち込んでいたので、10〜12月期がプラス成長であった他の主要国に較べると、1〜3月期の下落幅が小さく見えるが、2四半期をくくって見ると、日本の下落幅は米国とEUの中間である。
 米欧では、このあと4〜6月期には前期比年率で40%近いマイナスになるという予測が出ている。日本も「景気ウォッチャー調査」(内閣府)によると、家計も企業も4月の「景気判断DI」は下がり続けており、4〜6月期の実質GDPは前期比年率で−15〜20%の下落になるというのが平均的な予測である。

【感染者の純計は減少しているが、経済への影響は長引く恐れ】
 日本国内の新型コロナウィルスの感染者合計から退院・療養解除者と死者の合計を引いた現時点の感染症純計は、5月初めの1万人超から現在は4千人弱まで下がっており、対策の効果は出ている。6月までには非常事態宣言が全都府県で解除される可能性は高い。
 しかし、このウィルスにはまだワクチンが開発されていないので、解除が早ければ第2波第3波が来る可能性があると見なければならないであろう。コロナとの戦いは長期化し、経済への影響も長く尾を引くのではないかと思われる。

【内外の景気後退加速から生産と出荷は急落】
 3月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−3.7%、−5.0%の大幅減少となり、在庫率は同+8.5%と大きく跳ね上がった(図表1)。鉱工業製品の需給バランスは、大きく崩れている。
 出荷を国内向け出荷と輸出に分けると、前月比それぞれ−2.1%、−14.5%といずれも減少したが、輸出の減少が極めて大きく、コロナ禍による世界景気の後退が日本の鉱工業を直撃している。輸出の減少に大きく寄与した品目は、生産用機械、電気情報通信機械、輸送用機械、電気部品・デバイスなど日本の輸出の主力製品である。
 国産品の国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入が前月大幅減少(前月比−13.5%)の反動から同+14.3%と急増したため、全体は同+1.7%の微増となった。しかし1〜3月期の前期比は−1.2%と3四半期連続して減少しており、鉱工業製品に対する国内需要は、景気後退を反映して減退している。
 製造工業生産予測調査によると、4月は前月比+1.4%の増加、5月は同−1.4%の減少となっているが(図表1)、内外の景気後退と3月末の高い在庫率から見て、実績は予測よりも下振れするのではないかと見られる。

【消費、投資が軒並み弱い中、予備的動機の借入れ、マネー保有は高まる】
 国内需要の動向を見ると、コロナ蔓延の深刻化につれて、消費も投資も軒並み弱含みに転じている。このため、2月から前月比下落に転じた国内企業物価指数は、4月に前月比−1.5%と更に下げ幅を拡大し、前年同月比は−2.3%まで下がった。
 金融面では、外出自粛で売上や業務活動の落ちたサービス業(宿泊、飲食、運輸、対個人サービス等)への流動性補填融資を中心に4月の銀行・信金貸出が前年比+3.0%と10〜3月平均同+2.0%から伸びを高め、4月のマネーストックM1は同+7.0%(同+5.3%)と前年比を高めた。万一に備えた予備的動機の通貨保有の増加と見られる。4月の広義流動性残高全体は、前年比+2.7%と前月比横這いであるが、その中で、M1、M2、M3、のマネーストック残高だけが、前年比を高めている(図表2)。これも予備的動機に基づく保有増加と見られる。

【個人消費は消費増税と大型台風で減少した10〜12月期から更に落ち込む】
 1〜3月期実質GDP統計の家計消費支出は、消費税率引上げ前の買い急ぎの反動で前期比−3.0%と大きく減少した10〜12月期から、更に同−0.8%の減少となった。
 3月の小売業全体の販売は、季調済み前月比−4.5%、前年比−4.6%と落ち込んだが、これは主として百貨店が高級衣料、家具を中心に、前年比−32.7%と大幅に減少したためである。日用品中心のスーパー、コンビニは前年比で伸びている。
 4月実施の「消費動向調査」では、4月の消費者態度指数が前月より9.3ポイント低い21.6と04年4月の調査開始以来最大の下げ幅を記録し、引き続き慎重な消費態度が続いている。
 3月の労働市場では、季調済み前月比で就業者が−0.2%減少、完全失業者が+3.6%増加、完全失業率が0.1ポイント上昇の2.5%となった(図表2)。一般職業紹介状況では、求人の減少から有効求人倍率は前月の1.45から1.39に低下した。

【投資は官民共に減少傾向】
 投資動向を見ると、1〜3月期の実質GDP統計では、設備投資が前期比−0.5%、住宅投資が同−4.5%、公共投資が同−0.4%と軒並み減少した。
 設備投資と住宅投資は2四半期連続の減少であり、景気後退の中で投資マインドは委縮している。また緊急事態宣言の下で、建設工事の施行には差しつかえが出ていると見られ、大型補正予算も、当面は公共投資の積み増しには向かわないと見られる。
 機械受注、新設住宅着工戸数、補正予算案などの先行指標の動向から見て、4〜6月期の投資は引き続き減少すると見られる。

【3月の輸出は主要国向けが揃って減少、貿易収支の赤字は拡大】
 3月の輸出は、前述のように鉱工業製品が前月比−14.5%と激減した結果、国際収支統計の輸出(季調済み)も、前月比6322億円減(同−9.9%)と著しく減少した。対米国(同−11.1%)、対アジア<除中国>(同−9.4%)、対中国(同−8.7%)など主要輸出市場向けの自動車、同部品、原動機、建設用・鉱山用機械、半導体等製造装置などが、コロナ禍による世界の景気後退を反映して、軒並み大きく減少している。
 他方、3月の輸入(同)は前月著減の反動もあって、ほぼ前々月並みの水準に戻ったので、3月は輸入増、輸出減の形となり、貿易収支は1572億円の赤字、貿易サービス収支は4222億円の赤字となった(図表2)。1〜3月期の貿易サービス収支は前期の大幅黒字(7005億円)から再び541億円の赤字に転落した(図表2)。
 これを反映して1〜3月期実質GDP統計の「純輸出」も、成長寄与度でみて前期の+0.5%から−0.2%に転落した(図表3)。
 4〜6月期は、内需が消費、投資共に減少を続け、「純輸出」の成長寄与度も大幅なマイナスを持続すると見られるので、始めに述べた通り、1〜3月期を上回る幅のマイナス成長になる可能性がある(図表3)。