2020年4月版
3月以降、コロナ感染症の蔓延に伴う景気後退の指標が増えてきた

【生産、輸入、輸出、求人等が減少傾向へ】
 新型コロナウィルス感染症の景気に対する影響は、これ迄一部明らかとなっていたが、3月の経済指標発表に伴い、よりはっきりと出てきた。中国の減産などによるグローバル・サプライチェーン寸断の影響は、2月以降の輸入減少に出ていたが、輸出も感染症蔓延に伴う世界景気減速の影響で、3月上・中旬に減少し始めた。鉱工業生産では2月の実績が予測を大きく下回り、3月には大きく減少する予測となっている。
 外出自粛に伴う需要不振から対個人サービス業を中心に営業不振となり、失業者がジリジリと増加している。職業紹介所では求職増と求人減が始まっている。
 1〜3月期は10〜12月期に続いてマイナス成長となり、昨年中頃をピークとする景気後退の姿がはっきりとしてこよう。

【生産は2月に大きく予測を下回り、更に3月の予測は減少】
 2月の鉱工業生産は前月比+0.4%と微増したが(図表1)、先月発表された2月の製造業生産予測調査(同+5.3%)から見ると、かなりの下振れである。また3月10日頃に調査された製造業生産予測調査によると、3月は同−5.3%の減少である。
 2月の実績が低下し、3月の予測でも更に低下する業種は、自動車、輸送機械(除、自動車)、生産用機械、汎用・業務用機械などで、世界的なコロナウィルス蔓延の影響を受け、部品の輸入が滞り、あるいは輸出市場が縮小している業種である。

【鉱工業製品の国内総供給は、2か月連続して減少】
 2月の鉱工業出荷は、前月比+2.6%と増加した。これは、輸出が同+10.7%と大きく伸びたためで、国内向け出荷は同+0.9%の微増にとどまっている。数量ベースの輸出増加には、2月に船舶輸出の計上があったことが響いた模様である。金額ベースでは、アジア向けの輸出が半導体等電子部品を中心に伸びたのが目立つ。
 微増した国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入が同−14.9%と激減したため、全体では、同−3.2%と前月に続いて減少した。
 輸入の減少は、LNG等鉱物性燃料が国際市況軟化もあって輸入数量が落ちていることと、コロナ感染症蔓延で電気機器、一般機械等の部品輸入が滞り気味となっているためと見られる。

【日常品の購買活動は活発だが、宿泊・飲食・タクシー等の落ち込みは深刻】
 国内の需要動向を見ると、個人消費は外出自粛とインバウンド落ち込みの影響を受けた百貨店が2月に前年比−12.2%、3月1〜17日に同約−40%と大きく落ち込んだが、スーパーなどにおける日用品の購入意欲が旺盛なこともあって、2月の小売業全体では同+1.7%と僅かに前年を上回った。インターネットを通じる購入も含む「実質消費活動指数+」(日銀調べ)も、2月は109.6と前月(104.8)および10〜12月平均(103.0)を大きく上回った(図表2)。
 イベントなどの中止が相次いでいるが、万一に備えた日用品の買い溜めもあって、いまのところ購買活動全般は活発である。家計調査(2人以上の所帯)の2月の実質消費支出(季調済み)も前月比+0.8%の増加である。しかし。「日銀短観」の対個人サービス、宿泊・飲食サービス、運輸(タクシー等)などに見られるように、これらの業種の業況悪化は深刻である。

【失業者、求職数はジリジリ増加】
 これら業種の業務休止の影響か、2月の完全失業者(季調済み)は前月比+1.2%と増加し、一般職業紹介所(含パート、季調済み)の有効求職数は、2月に前月比+0.3%と前月(同+1.5)に続いて増加した。反面、有効求人数は、1月の前月比−3.9%に続いて、2月も同−2.2%と減少した。
 しかし、事業規模5人以上の事業所の常用雇用(季調済み)は、2月も前月比+0.4%と昨年4月以来の増勢を続けている。コロナ減産の雇用に対する影響は、限界業種で始まったばかりと見られ、今後どの程度の広がりを見せるか注目される。
 もっとも雇用が持続している常用雇用者でも、2月の現金給与総額(季調済み)は前月比−0.2%と昨年12月以来3か月連続して減少している。

【サプライチェーン寸断と先行き見通しの悪化から設備投資は減少傾向】 
 投資動向を見ると、足許の機械に対する投資動向を示す資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷+輸入)は、消費税率引上げ前の駆け込みの反動で、10〜12月期に前期比−4.4%と減少したあと、更に1月と2月は連続して前月比それぞれ−4.3%、−13.2%のマイナスとなった。1〜2月平均の10〜12月平均比は、−3.9%の減少である(図表2)。
 これには、コロナウィルス蔓延に伴う需要見通しの下方修正の影響もあるが、サプライチェーン寸断による減産の影響が大きいと見られる。特に2月は、輸入が前月比−23.7%と大きく落ち込み、全体が同−13.2%と減少したが、これはサプライチェーン寸断の影響を現わしている。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、2月に前月比+2.3%と前月(同+2.9%)に続いて増加した。しかし1〜2月平均は、2四半期連続して前期比減少した10〜12月期の平均を更に−0.9%下回っているので、実勢は低い(図表2)。また2月調査では、経済の先行きに対するコロナウィルス感染の影響を、まだ十分に織り込んでいないと見られるので、先行きの設備投資は機械受注統計が示唆するよりも弱いのではないかと心配される。
 住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数は、2月に年率871千戸とやや増加した(図表2)。しかし、1〜2月平均は842千戸と10〜12月期(865千戸)よりも低く、減少傾向は変わっていない。他方、公共投資の先行指標である公共建設工事受注額は2月に前年比+10.1%となった。引き続き住宅投資は弱含み、公共投資は強含みで推移しよう。

【輸入の落ち込みから2月の貿易収支黒字は大幅に拡大、3月以降は輸出も減退して貿易収支は再び悪化か】
 2月の貿易・サービス収支(季調済み、以下同じ)は、5107億円の大幅黒字となった(図表2)。これは貿易収支が、輸出の増加、輸入の減少から、この10年間で最高となる8173億円の大幅黒字となったためである。
 もっとも、前月の貿易・サービス収支は赤字であったので、3月を見ないと1〜3月期の貿易・サービス収支がどの程度の黒字になるかは分からないが、3732億円の黒字となった10〜12月期(図表2)ほどではないにせよ、1〜3月期のGDP統計でも「純輸出」が成長にプラスの寄与をする公算が高いと言えよう(図表3)。
 2月の輸出が前月比+5.3%とやや大きく増加し、昨年10月頃の水準に戻ったのは、通関ベースで見ると、半導体等の電子部品が中国を含むアジア向けに再び伸び始めたのが主因である。
 他方輸入が同−8.7%と大きく減少したのは、中東からの原油、LNGなどの鉱物性燃料の輸入が、市況下落を背景に減少したことが主因である。
 コロナウィルス蔓延の影響は、3月からはっきり出てきた。3月上・中旬の通貨統計を見ると、輸出が世界経済減速の影響から前年比−5.9%、輸入が各国の生産停滞の影響から同−7.8%となっている。3月以降、様々な形でコロナ感染症の影響が大きくなると見られる。