2020年3月版
新型コロナウィルス肺炎の影響による経済活動の下振れが始まり、景気後退は決定的

【新型肺炎蔓延に伴う経済活動の下振れ】
 新型コロナウィルス肺炎の蔓延が日本で意識され始めたのは1月下旬頃からであるが、1月の主な経済指標がほぼ出揃った現時点で、早くもその影響が出始めている。
 1月の百貨店売上高と、1月の求人動向の下振れがそれである。まだグローバル・サプライチェーン寸断の影響と見られる輸入の急減が、2月の上・中旬の通関統計に出てきた。
 他方、新型肺炎とは関係のない経済指標の下振れがあった。10〜12月期のGDP統計の2次速報で、10〜12月期の実質成長率が同期の法人企業統計を反映した設備投資の下方修正(前期比−3.7%→−4.1%)により、前期比−1.6%(年率−6.3%)から同−1.8%(同−7.1%)に下方修正された(19暦年の成長率+0.7%は不変、図表3参照)。
 2月の経済指標からは新型肺炎の影響が全面的に出てくることを考えると、1〜3月期も10〜12月期に続いてマイナス成長となり、昨秋からの景気後退は、経済指標の上で決定的となろう。

【生産、出荷に新型肺炎蔓延の影響がはっきり出るのは2月の指標から】
 主な経済指標を順次見ていくと、1月の鉱工業生産、出荷は、前月比それぞれ+0.8%、+0.2%と共に2か月連続で増加し、前月上昇した在庫率は下落した(図表1)。
 製造工業生産予測調査によると、2月は前月比+5.3%の上昇、3月は同−6.9%の下落と、輸送機械、電子部品・デバイス等を中心に大きく増減する。鉱工業生産が同じように増減すると仮定すると、1〜3月期は前期比+2.4%と前期大幅減少(同−4.1%)のあと、反動増となる。
 しかし、この予測調査は2月上旬時点の調査なので、その後の新型肺炎の蔓延に伴う需要減少や原料・部品供給の遅延などを考えると、実績はもう少し下振れするのではないかと見られる。

【1〜3月期の鉱工業製品の国内向け総供給は、10〜12月期に続き、2期連続して落ち込む見込み】
 僅かに増加(前月比+0.2%)した1月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比−0.7%とはっきり減少しており、これに輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が更に同−1.5%と減少したため、同−1.2%の減少となった。この水準は、消費増税や大型台風の影響で前期比−4.2%と大きく落ち込んだ10〜12月期の水準を更に−0.6%下回っている。
 新型肺炎の影響が出る2月と3月は更に落ち込むと見られるので。鉱工業製品の国内向け総供給は、1〜3月期に2四半期連続で減少する可能性が高い。

【消費行動の委縮に伴う消費減退が始まった】
 国内需要の動向を見ると、1月の「実質消費活動指数+」(日銀調べ)は104.8(前月比+0.7%)と消費増税で落ち込んだ10〜12月期(平均103.0)に比しやや回復した。しかし前年同月(107.2)に較べればかなり低い(図表2)。
 「家計調査」(2人以上の世帯)の1月の消費支出も、前年同月比、名目は−3.1%、実質は−3.9%とかなり水準が低い。これは消費増税に伴う10〜12月期の落ち込みからの回復が鈍いうえ、下旬には新型肺炎の影響で消費者の出足が落ち始めたためと見られる。
 因みに「消費者態度指数」(内閣府調べ)を見ると、1月は前月比横這い、2月は同−0.7%となっている。2月の消費指標からは、コロナウィルス蔓延に伴う下振れがはっきり出てくると思われる。

【企業の雇用態度に慎重化の兆し】
 1月の雇用情勢に、新型肺炎の影響と見られる変化の兆しが出てきた。
 一般職業紹介状況(含パート、季調済み)を見ると、1月の新規求人、有効求人が前月比それぞれ−15.5%、−3.9%とやや大きく減少した一方、新規求職、有効求職が同+0.9%、+1.5%とやや増加した。この結果、新規求人倍率は2.04倍(前月2.44倍)、有効求人倍率は1.49倍(同1.57倍)といずれもはっきり低下した。水準としてはまだかなり高いが、人手不足が進む下で、この10年間、一本調子で上昇を続けてきた求人倍率がはっきり低下に転じたことは注目される。
 1月の労働力調査(季調済み)を見ても、就業者と雇用者が前月比それぞれ−0.2%、-0.4%と減少した反面、完全失業者は同+7.9%と増加し、完全失業率は2.4%と0.2%ポイント上昇した(図表2)。
 1か月の動きではまだ判定できないが、新型肺炎蔓延に伴う経済活動の一時的縮小を見越して、限界労働力に対する企業の雇用態度が慎重化する動きの走りかも知れない。

【設備投資は10〜12月期以降減勢に転じた】
 投資動向を見ると、10〜12月期の法人企業統計のソフトウェアを含む設備投資額(金融・保険を含む)が、前年比−3.0%と大きく落ち込んだのを受けて、10〜12月期実質GDP統計の2次速報では、実質設備投資が前期比−4.6%、前年同期比−4.4%(1次速報ではそれぞれ−3.7%、−3.3%)に下方修正された(図表3)。
 足許の機械に対する投資動向を反映する1月の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、1月に前月比−4.3%の減少となった(図表2)。消費増税前の汎用機械に対する買い急ぎが起こった7〜9月期の反動で、10〜12月期は前期比−4.4%と落ち込んだが、そのあと1〜3月期には回復が起きると見られていたが、1月も弱い。
 機械受注(民需、除船舶・電力)は7〜9月期(前期比−3.5%)、10〜12月期(同−2.1%)と2四半期続けて減少した上(図表2)、1〜3月期の見通しも同−5.2%の減少となっている。このことから考えて、設備投資の基調は弱含みに転じており、1〜3月期以降はコロナウィルス肺炎に伴う様子見とサプライチェーンの寸断も加わって、GDPベースの実質設備投資は10〜12月期の前期比−4.6%(図表3)に続き、1〜3月期も減少する可能性が高い。

【住宅投資は減少傾向、公共投資は政策的意図を背景に増勢持続】
 民間住宅投資は、10〜12月期の実質GDP統計で前期比−2.5%の減少となったが、先行指標の新設住宅着工戸数も1月に813千戸(前月比−4.6%)と減少し、昨年下期の水準(平均886千戸)を−8.2%下回っている。住宅投資は、当分減少傾向を続けると見られる。
 公共投資は予算の裏付けを背景に、昨年4四半期連続して増加しているが、先行指標の公共建設工事受注額は、1月に前年比−15.4%と減少した(図表2)。これは恐らく予算執行の途切れによる一時的な減少で、成立した本年度補正予算の執行に伴い、再び増勢を取り戻し、公共投資は本年も政策的意図を反映して、増勢を続けると予想される。

【輸出入にグローバル・サプライチェーン寸断の影響が出始めた】
 1月の貿易・サービス収支は、10〜12月期の7242億円の大幅黒字から一転して、1439億円の赤字に転落した(図表2)。これは、1月の貿易収支が輸出の減少、輸入の増加から10〜12月期の4665億円の黒字から632億円の赤字に転落したためである。
 しかし、2月上・中旬の通関統計を見ると、輸入が前年比−16.6%と輸出の同−0.8%を大きく上回って下落している。コロナウィルス蔓延に伴う中国の生産中断から、日本への部品輸入が減少したためと思われる。しかし、このようなサプライチェーンの寸断の影響は、2月以降の日本の生産、輸出の落ち込みも招いている筈なので、その結果日本の輸出入が今後どう推移するかは、2月以降の総合収支を見ないと、はっきり判定できない面が大きい。