2020年2月版
消費増税、大型台風に続く新型肺炎で立ち直りは遅れ、本年度下期は大きく落ち込んで景気後退開始
【10〜12月期成長率落ち込みの実勢は前回消費増税時を上回る】
2月17日に公表された昨年10〜12月期のGDP統計によると、実質GDPは前期比−1.6%(年率−6.3%)の大幅下落となった(図表3)。これは個人消費(持ち家の帰属家賃を除く)が消費税率の引上げと大型台風の影響で、前期比−3.7%(成長率への寄与度−1.7%)、設備投資も同−3.7%(同−0.6%)と大きく下落したためである(図表2)。
純輸出が輸入の大幅減少から+0.5%の成長寄与度になったことを除けば、国内需要だけの成長率は前期比−2.1%(年率−8.2%)と更に大きく落ち込んでいる。これは、前回消費税引上げの14年4〜6月期(前期比年率−7.4%)を上回る大幅なマイナス成長である。
10〜12月期がこのように落ち込んだ結果、19暦年の成長率は+0.7%にとどまったが、続く20暦年の成長率は、−1.0%のゲタをはいて出発することになる。
【本年1〜3月期以降の新型肺炎の影響により20年度政府経済見通しは超過大推計に】
新型コロナウィルス肺炎の影響で本年1〜3月期の実質GDPが低水準にとどまるため、20年度の成長率も大きなマイナスのゲタをはくことになる。政府見通しでは、19年度の成長率は+0.9%、20年度の成長率は+1.4%となっているが、共に過大推計である。19暦年の成長率が+0.7%のうえ、1〜3月期はコロナウィルスの影響もあってもう一度マイナス成長になると、19年度の成長率は+0.7%以下となろう。その後にマイナスのゲタをはいて出発する20年度が、最近6年間(14年度以来)例を見ない+1.4%の高い水準の成長率を実現することとなる政府見通しは、まったく考えられない。20年度の政府経済見通しと、これに伴う税収見積もりが大きく下方修正され、財政赤字幅の見通しが大きく狂うことは必至であろう。
現在迄のところ、1〜3月期の経済統計の実績はほとんど出ていないが、新型コロナウィルスまん延を恐れたインバウンドの激減、中国を中心とするサプライチェーンのグローバルな寸断がもたらす日本の生産や貿易の低下等の影響がどの程度大きくなるか、注視していかなければならない。
【消費増税、台風の影響から落ち込んだ鉱工業生産、出荷は12月に回復の兆しを見せたが、新たな新型肺炎の猛威で再度落ち込むか】
12月の鉱工業生産は、消費増税に伴い2か月連続で落ち込んだあと、前月比+1.3%とやや回復し、出荷は前2か月落ち込んだあと、同0.0%の横這いとなった(図表1)。この結果、10〜12月期の落ち込みは、生産が前期比−4.0%、出荷が同−5.0%であった。
このあと、製造工業生産予測調査によると、1月は前月比+3.5%、2月は同+4.1%と急回復する。鉱工業生産も同じテンポで上昇すると仮定すると、1〜2月平均だけで10〜12月期月平均比+6.2%と急上昇し、消費増税前の7〜9月期の水準を上回る(図表2)。
しかしこれは、新型コロナウィルスによる肺炎で、中国を中心にグローバル・サプライ・チェーンが寸断され、日本の輸入と輸出が落ち、減産を余儀なくされる前の予測であるため、実際は、1月以降、2月を中心に生産、出荷は大きく下振れすると見られるし、3月以降いつまで影響が尾を引くか分からない。
12月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、輸出が前月比−0.4%と前月に続き減少したのに対し、国内向け出荷は同+0.4%と2か月連続で僅かに回復した。
この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月比+4.4%と前2か月減少のあと回復に転じたため、全体で同+1.2%と3か月振りに底を打った。しかし、これも新型コロナウィルスの影響が出る前なので、年明け後、とくに2月以降は再び減少に転じていると予想される。
【10月に落ち込んだ消費は緩やかに回復していたが、2月以降新型肺炎の影響がどう出るか】
国内需要の動向を見ると、12月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)は104(前月比+0.3%)と消費税増税と台風に伴って10月に前月比−9.3%と大きく落ち込んだあと、2か月連続で小幅に回復している(図表2)。
しかし、10〜12月期平均は7〜9月期平均比−4.4%下落した水準であった。この下落幅は、GDP統計の実質個人消費(前述の−3.7%)より更に大きい。
1〜3月期については、新型肺炎の影響で消費の回復はしばらく止まるのではないかと見られる。
労働需給は引き続き逼迫しており、12月も非労働力人口は前月比−0.3%減、労働力人口は同+0.2%増という形で就業者や雇用者が増え(いずれも同+0.2%増)、完全失業者は同−0.7%減少し、完全失業率は2.2%の低水準を続けている(図表2)。
しかし賃金上昇圧力は鈍く、10〜12月期の賃金水準は、前年に比し、名目で0.0%、実質で−0.5%である。
【設備投資は10〜12月期以降減勢に転じた可能性】
投資動向をみると、足許の機械対する投資動向を反映する資本財(除輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、消費税引上げに伴う汎用品買い急ぎの反動で10月、11月と減少したあと、12月には前月比+13.3%と大きく回復した(図表2)。しかし、それでも10〜12月平均は前期比−4.4%である。これは10〜12月期実質GDP統計の実質設備投資(前期比−3.7%)をやや上回る減少である。
1〜3月期については、新型肺炎の影響がどう出るかに懸っているが、先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、12月に前月比−12.5%、10〜12月期は前期比−2.1%(図表2)、1〜3月期見通しは同−5.2%といずれも弱く、3四半期連続して減少する形となっている。GDP統計の実質設備投資は、1〜3月期も2期連続の減少となり、設備投資は減勢に転じた可能性が高くなってきた。
実質GDP統計の住宅投資は、先行指標の新設住宅着工戸数が昨年3月をピークに弱含み横這いとなっていたこと(図表2)から予想された通り、10〜12月期は前期比−3.7%と下落に転じた。今後も緩やかな減少傾向を続けると見られる。
10〜12月期の実質GDP統計の公共投資は、前期比+1.1%と4四半期続けて増加した。予算の裏付けもあって、公共建設工事受注額は昨年中4四半期連続して前年を上回っており(図表2)、公共投資は今後も緩やかな増勢を続けると見られる。
【10〜12月の貿易サービス収支は輸入の減少から2年振りの大幅黒字、GDPの「純輸出」は大きく成長に寄与】
最後に外需の動向を見ると、12月の貿易・サービス収支は4677億円の大幅黒字となり、10〜12月期合計では9296億円の黒字と、2017年10〜12月期以来2年振りの大幅黒字となった(図表2)。これに伴い10〜12月期の実質GDP統計の「純輸出」も増加し、成長率に対して+0.5%の大きな寄与度となった。
これは貿易収支・サービス収支の双方に原因がある。貿易収支は、輸入がLNG・原油などの鉱物燃料の値下がりを主因に輸出以上に減少して5929億円の大幅黒字となり、またサービス収支が訪日外国人客の増加やコンサルティング支払費用の減少などから統計をさかのぼれる96年以来、初の大幅黒字3366億円となったためである(17年10〜12月期に僅か950億円の黒字が1回あったのみ)。
しかし、新型肺炎の影響で訪日外国人は激減しているので、この1〜3月期のサービス収支にはまったく逆の数字が出て、「純輸出」はマイナス寄与度に戻るのではないかと見られる。
【1〜3月期も2期連続のマイナス成長の可能性】
1〜3月期は、新型肺炎の影響でまだ十分に予測できないが、10〜12月期に落ち込んだ個人消費(図表3)は新型肺炎の影響で立ち直れず、設備投資、住宅投資もマイナスとなり、国内需要では公共投資と過剰在庫が積み上がる在庫投資だけが増加し、全体としてマイナスになる公算が高い。加えて「純輸出」も成長に対してマイナス寄与に戻り、実質GDPは2四半期連続の減少となる可能性が出てきた。