2019年12月版
足許では消費増税のネガティブ・インパクトが大きいが、明年の経済は米中貿易交渉の部分決着で明るさも

【10〜12月期の日本経済は消費増税の影響からマイナス成長か】
 消費増税に伴う家計消費の落ち込みを防ぐため、政府は軽減税率の導入やキャッシュレス決済へのポイント還元などの対策をとったが、10月の家計消費、百貨店売上高、新車販売、住宅着工、鉱工業出荷などは軒並み落ち込んだ。この一部には、10月の大型台風の影響もある。
 11月以降、落ち込んだ水準が続くのか、回復し始めるのかが注目されるが、米中貿易戦争に伴う世界経済の減速から輸出が減少し、景気後退の瀬戸際にある日本経済にとって、消費増税が痛手であったことは間違いない。
 7〜9月期のGDP2次速報値が公表され、消費と設備投資が上方修正されたことから、実質成長率は1次速報の前期比+0.1%(年率+0.2%)から同+0.4%(同+1.8%)に上方修正され、また本年T〜V四半期の実質GDPの前年比は+1.1%となった(図表3)。
 しかし消費と設備投資には、消費増税前の駆け込み需要が含まれていると見られるので、10〜12月期の消費と設備投資はその反動で落ち込み、成長率はマイナスとなる可能性がある。このため本年の暦年成長率も1.1%よりは低く、2年連続して1%を割る可能性もある(前年は+0.8%)。

【明年の展望は悲観一色ではない】
 本日公表された12月の「日銀短観」によると、全規模の「業況判断」DIは、製造業が−4%ポイントの「悪い」超となったが、非製造業が+11%ポインとの「良い」超にとどまったため、全体では前回調査から4%ポイント悪化した、4%ポイントの「良い」超にとどまっている。全規模の本年度の売上高は、前年比−0.1%と僅かながらマイナスとなったが、これは大企業製造業の輸出が前回調査の+4.3%から−3.8%に大きく下方修正されたためで、非製造業は+0.6%とプラス圏にとどまっている。
 昨日の報道で米中貿易交渉は関税率再引上げがなく、一部引き下げの形で部分決着すると伝えられ、また英国の総選挙で保守党が過半数を占め、今後はブレクジットが円滑に進むと伝えられたため、昨日の日本の株価は急騰した。しかし、これが明年の世界経済と日本の輸出にどの程度好影響を与えるかを判定するのは、まだ早計である。しかし明年の展望が悲観一色でなくなったことは、喜ばしい。

【10月の鉱工業生産と出荷は、自動車と汎用性の高い機械数を中心に消費税率引上げに伴う落ち込みから大きく減少】
 10月の鉱工業生産、出荷は、前月比それぞれ−4.2%、−4.3%と大きく低下した。製造工業生産予測調査によると、11月は同−1.5%の続落となったあと、12月は同+1.1%と若干戻る(図表1)。11、12月の鉱工業生産がこの製造業生産予測通りとなった場合、10〜12月期の生産は前期比−4.1%と2四半期連続の、しかもかなり大幅な下落となる。
 大きく減産となった業種は、自動車、汎用・業務用機械(コンベア、運搬用クレーン、一般用蒸気タービン等)、生産用機械(ショベル系掘削機械、印刷機械、化学機械等)など、消費増税に伴う買い急ぎとその反動減の起こり易い製品である。
 鉱工業生産、出荷は、本年下期に水準を下げたあと、明年上期も低水準にとどまるのか、元の水準に回復して再上昇を始めるのか注目される。

【10月の国内向け出荷と輸入は、消費増税と大型台風のショックで大きく減少、反面輸出は増加】
 10月の鉱工業出荷の前月比−4.3%の大幅落ち込みを国内向け出荷と輸出に分けてみると、国内向け出荷は前月比−6.2%の大幅落ち込みとなっているのに対し、輸出は同+2.0%の増加であった。出荷の落ち込みは、もっぱら消費増税と一部台風の影響のあった国内向けだけで起こっている。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入も消費増税と大型台風の影響を受けて前月比−2.0%の減少となったため、全体では同−5.4%と鉱工業出荷(同−4.3%)を上回る減少となった。減少の中心となった業種は、やはり汎用性の高い機械類で、資本財(除、輸送機械)の国内総供給は、前月比−11.4%の大幅減少となった。

【10月の個人消費は大きく落ち込み】
 国内の需要動向を見ると、10月の消費動向では、「実質消費活動指数+」(日銀推計)が、10月に103.3と前月比−7.2%の急落となった(図表2)。「家計調査」の実質消費支出も前月比−11.5%、前月比−5.1%の大幅減少となっている。
 他方、小売り販売統計では、日常の生活需要品の多いコンビニエンス・ストアの10月の売上高が前年比+3.3%の増加と落ち込みはなかった。しかし買い急ぎと買い控えのできる耐久性の高い消費財が多い百貨店とスーパーでは、10月にそれぞれ前年比−17.3%、同−3.7%と大きく落ちた。これらが今後、どの程度のテンポで回復してくるかが注目されるが、取敢えず10〜12月期の実質消費は、大きなマイナスになるのではないかと思われる。

【就業率は引き続きジリジリと増加、失業率は低水準】
 労働市場を見ると、引き続き労働力の流入、就業率の上昇が続いており、10月は労働力人口が前月比+0.4%、前年比+0.9%の夫々増加、非労働力人口は同−0.6%、同−1.8%のそれぞれ減少となった。つれて就業率者数は前月比+0.4%、前年比+0.9%の増加、雇用者数も同+0.3%、同+0.8%の増加となっている(図表2)。この間、完全失業者は前月比0.6%の減少となったが、完全失業率は2.4%にとどまった(図表2)。
 一方、実質賃金は2月から8か月間前年を下回って推移していたが、9月は前年比+0.2%、10月は同+0.1%と僅かながら前年を上回った。
 雇用者報酬は、就業者数の増加を主因にジリジリ増加していると見られるが、消費増税や大型台風の攪乱で、10月は消費増加に結び付いていない。

【本年度の設備投資計画の下方修正は小幅】
 投資動向を見ると、7〜9月期の実質設備投資は、GDP統計の2次速報値で、1次速報値の前期比+0.9%(成長率への寄与度+0.1%)から同+1.8%(同+0.3%)へ上方修正された。これは7〜9月期の法人企業統計を反映したものである。しかし、9月の資本財(除輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷+輸入)が前月比+13.1%と急増したあと、10月は同−14.2%と急落していることから分かるように(図表2)、7〜9月期の設備投資には、汎用性の高い機械等に対する消費税引上げ前の買い急ぎが含まれており、実勢以上に高く出ているので、その反動減が10〜12月期に出ると見られる。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)を見ると、10月は前月比−6.0%と4か月連続の減少となった(図表2)。10月の水準は7〜9月の平均を−8.6%下回っている。10〜12月期の見通しは前期比+3.5%と報じられているので、11、12月の動向が果たしてどうなるのか注目されるが、設備投資の先行きが弱くなってきたことは否めない。
 しかし12月の「日銀短観」によると、全産業と金融機関を合計した本年度の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除く)は、前年比+5.5%と前年度(同+4.3%)を上回り、前回調査からの修正率は−0.3%にとどまっている。また12月の「法人企業景気予測調査」を見ても、本年度の前年比は+7.8%と前回調査(同+8.3%)から僅かの下方修正にとどまっている。

【公共投資は増勢持続、住宅投資は10〜12月期から減少か】
 7〜9月期の実質GDP統計における住宅投資は、前期比+1.6%と5四半期連続の増加となった。これには、消費増税前の駆け込みが含まれていると見られる。先行指標の新設住宅着工戸数は、高水準ながら3月をピークに弱含みとなっているので(図表2)、住宅投資は10〜12月期から減少に転じるのではないかと見られる。
 7〜9月期の実質GDP統計における公共投資は前期比+0.9%と3四半期連続の増加となった。先行指標の公共建設工事受注額(図表2)は、前年比+2.8%と3月以降8か月連続で前年を上回っている。明年早々、大型の補正予算が組まれることから、公共投資は引き続き増勢を辿るものと思われる。

【10月の貿易・サービス収支は輸入の一時的減少から大幅黒字】
 最後に外需を見ると、このところ貿易・サービス収支は、4〜6月期、7〜9月期と赤字を続け、この2四半期のGDPの「純輸出」は成長に対してマイナスの寄与を続けていたが、10月は久し振りに3016億円の大幅黒字となった(図表2)。これは主として貿易収支が輸出の増加、輸入の減少から2191億円の黒字となったためである。通関ベースの貿易収支は、10月は4か月振りに黒字となった。
 しかし、主因は輸入が台風の影響と原油、LNG、石油製品の価格下落で減少したためである。
 膠着状態の米中貿易戦争に伴う世界経済の減速は続いており、輸出には格別回復の兆しは見えない。しかし昨日報じられた米中貿易交渉の部分決着に伴って、明年からの輸出環境は変化が出てくるかもしれない。