2019年11月版
財政が出動しない限り、成長の牽引力は先細り

【7〜9月期の成長率の実勢は横這いないし微減】
 11月14日に公表された7〜9月期のGDP統計によると、前期に純輸出の成長寄与度が−0.3%となったのに続いて、今期も前期比−0.2%とマイナスを続けた。一方、国内需要の成長寄与度は同+0.2%と盛り上がりに欠けたため、全体として成長率は前期比+0.1%(同年率+0.2%)と、横這い圏内の微増にとどまった。
 国内需要のうち個人消費(前期比+0.4%、成長寄与度+0.2%)には、9月を中心に消費税引上げ前の駆け込みが含まれていると見られるので、7〜9月期の成長率の実勢は更に低く、横這いないし微減であったと見られる。
 今後を展望すると、米中貿易戦争に伴う世界経済の成長鈍化から輸出が冴えない動きを続け、国内需要も財政出動以外に柱となりそうな項目に欠けることから、10〜12月期はマイナス成長に陥ることもあり得よう。

【鉱工業生産は輸出減少を反映して弱含み】
 9月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+1.4%増、+1.3%増といずれも増加した(図表1)。しかし7〜9月期の平均は、8月の落ち込みが大きかったため、前期比それぞれ−0.6%減、−0.1%減と2四半期振りの減少となった。
 製造工業生産予測調査によると、10月は前月比+0.6%増、11月は−1.2%減となっており、鉱工業生産が同じ推移を示したと仮定すると、10〜11月の平均は、7〜9月平均比+0.5%の増加となる。
 図表1によって最近の傾向を見ると、鉱工業生産は昨年10〜12月期をピークに、一高一低のうちに弱含みとなっている。これは、主として生産用機械、汎用機械、電子・部品デバイス、電気情報通信機械などの資本財(除輸送機械)と、鉄鋼、非鉄、窯業などの鉱工業用生産財の弱含みを反映した動きである。その背後には、輸出が昨年10〜12月期をピークに減少している事実がある。

【鉱工業製品の輸出は3四半期連続して減少、国内向け総供給は一高一低のうちに弱含み】
 鉱工業出荷を国内向け出荷と輸出に分けると、9月は国内向けが前月比+2.7%の増加に対して、輸出は同−3.6%の減少であった。鉱工業製品の輸出はこれで本年1〜3月期から3四半期続けて減少している。他方国内向け出荷は、一高一低のうちにほぼ横這いで推移している。
 この国内向け出荷に輸入を加えた9月の国内向け総供給は、輸入が前月比+7.7%と大きく伸びたため、同+3.6%の増加となった。しかし四半期ベースの推移を見ると、一進一退のうちに昨年10〜12月期をピークにやや弱含んでいる。
 GDP統計では国内需要が全体として4四半期連続して増加しているが、サービスに対する需要の伸びが中心であり、鉱工業製品に対する需要はやや弱含んでいると見られる。

【9月の消費は消費増税前の駆け込みで急増】
 国内需要の動向を見ると、9月の「消費活動指数+」(日銀推計)は、前月比+3.3%と大きく伸び、7〜9月の前期比は+0.5%増となった(図表2)。家計調査の季調済み実質消費でも、9月は前月比+5.5%と急増し、7〜9月期は前期比+2.4%増とかなり大きく伸びた(因みに前期の前々期比は+0.6%)。言うまでもなく、10月1日からの消費税率引上げ前の駆け込み需要によるもので、10月以降の反動減が心配される。
 これらの指標に比べると、7〜9月の実質GDP統計の家計消費は、前期比+0.3%と前期比の前々月比+0.6%をかなり下回っている。これは7月の消費が天候不順のため落ち込んだ影響が大きく響いたものと思われる。

【総労働時間、求人倍率、失業率にやや悪化の兆し】
 9月の完全失業率は2.4%と、7月、8月の2.2%から上昇した(図表2)。1か月の動きでは基調判断は出来ないが、有効求人倍率と新規求人倍率も最近5〜7か月ほど下落している。また総労働時間(季調済み)も今年に入って僅かながら減少傾向にある。鉱工業生産の弱含みを反映したものとすれば、長引くと個人消費にも響いてくる動きとして、注目しなければならない。

【設備投資は今のところ底固い動き】
 投資動向を見ると、足許の設備投資を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷+輸入)は、9月に前月比+12.7%と大きく伸び、7〜9月期も前期比+2.6%と2四半期連続して増加した(図表2)。実質GDP統計の設備投資も、7〜9月期は前期比+0.1%と小幅ながら2四半期連続して増加した。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4〜6月期に前期比+7.5%と大きく伸びたあと、7〜9月期は同−3.5%の減少となった(図表2)。もっとも、10〜12月期の見通しは、同+3.5%増と再び増加となっている。
 本年度下期に設備投資が増勢を保つか、下方修正されて減少に転じるかは、12月調査「日銀短観」など今後明らかになる統計を注意深く見て判断していく必要があろう。

【公共投資は予算措置を背景に堅調、増勢持続の住宅投資は今後弱含みに転じるか】
 GDP統計の7〜9月期における民間住宅投資は、前期比+1.4%と5四半期連続して増加している。先行指標の新設住宅着工戸数も4〜6月期まで5四半期連続して90万戸を推移した後、7〜9月期も899千戸とほぼ90万戸を推移している(図表2)。
 しかし消費税引上げ前の着工急ぎがあったとすれば、10〜12月期以降、住宅投資は次第に弱含みとなっていく可能性がある。
 実質GDP統計の公共投資は、7〜9月期も前期比+0.8%と本年に入って3四半期連続して増加した。先行指標の公共建設工事受注額は、予算措置を背景に、本年3月以降9月まで前年を上回って伸びているが(図業2)、10月以降も、本年度補正予算、来年度当初予算で手当てされると見られるので、当分は増勢を保って国内需要を支えると思われる。

【成長に対する純輸出のマイナス寄与度はやや縮小】
 7〜9月期の貿易サービス収支は、1482億円の赤字と前期(3002億円の赤字)に続き2四半期連続の赤字となったが(図表2)、赤字額は半減したので、実質GDP統計の純輸出の成長寄与度も、前期の−0.3%から今期は−0.2%にやや縮小した。他方、所得収支の黒字は引き続き増加傾向を辿っているため、これを加えた7〜9月期の経常収支は4兆8525億円の黒字と4〜6月期の黒字(4兆8477億円)を僅かに上回った。
 他方、4〜6月期に1947億円の赤字を記録した貿易収支は、7〜9月期には185億円の黒字とほぼ均衡した。輸出入共に減少したが、石油、石炭、LNGなどを中心に輸入の減少の方が大きかった。
 今後を展望すると、米中貿易戦争に伴う世界経済の減速から、輸出の立ち直りには多くを期待できないことから、10〜12月期も純輸出の成長寄与度はプラスに戻らない可能性が高い。一方国内需要も、財政出動の可能性以外に多くを期待できる項目がないことから、10〜12月期はマイナス成長に陥る可能性があるように思われる。